2017年7月18日、日野原重明さんが105歳という年齢でこの世を去られたことは、みなさんの記憶に新しいと思います。2016年年末から始まったインタビューでは、「読んでくれる一人一人と対話しているような本にしたい」という日野原さんの希望を受けて、様々な質問に答えていただく形で進んでいきました。

105歳という長い人生を生ききった日野原重明さんが、死の直前まで私たちに伝え続けたメッセージとはなんだったのか。
最後の本となった『生きていくあなたへ  105歳 どうしても遺したかった言葉』より、その対話の一部を紹介させていただきます。

<質問>
「自分につらくあたる苦手な同僚がいます。自分のことを嫌いだという人とどうすればうまくつきあえるのでしょうか?」

居心地のよくない人間関係の中にこそ、人生を豊かにするヒントが隠されているのです。

僕は本当に幸せなことに、たくさんの人に愛され大切にされてきました。感謝すべきことです。だから「周囲の人に恵まれている先生は、わざわざ嫌いな人と接する必要はないんじゃないですか」といわれたりするのです。でも、もちろんそんなことはありません。

様々な人間関係がある中で、自分に敵意がある人を完全に遠ざけるのは不可能ですし、仮に避けられたとしても、僕はその選択はしません。

医師をしている中で、多くの患者さん達が病気のおかげで大切なことに気がついたとおっしゃいます。最初は嫌だったものと向き合うことによって大切なことを発見できるということは、人間同士の関係でも同じことではないでしょうか。

自分は理解されていない、と感じることはつらいことですし、ましてや嫌われているとなると、「どうしてわかってもらえないのか」という気持ちにもなります。
でも、苦手な相手と向き合ったおかげで発見できることがあるのです。
そんなとき、僕は自分にこういうのです。

100年以上つきあっている自分自身のことでさえわからないのだから、この人が僕のことをわからないのは当然ではないか、と。

そう考えると心も楽になりますし、じゃあもっと僕のことを理解してもらうためにはどうしたらいいんだろうかと考え始めて、相手を受け入れる心持ちになっていく。
向き合ったおかげで、新たに発見できることがあるのです。苦手な相手を避けることで、知らなかった自分に出会えるせっかくの機会を逃してしまうのはもったいないですよね。

「自分によくしてくれる人に善いことをしたところで、どんな恵みがあろうか」

このイエス・キリストの言葉は、とても示唆(しさ)に富んだメッセージだと思います。

自分にとって居心地のよくない人間関係の中に、実は人生を豊かに生きるためのヒントが隠されているのだということを教えてくれるのです。

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日野原重明『生きていくあなたへ 105歳 どうしても遺したかった言葉』

「人間は弱い。死ぬのは僕もこわいです。」105歳の医師、日野原重明氏が、死の直前まで語った、希望と感謝の対話20時間越。最後の力を振り絞り伝えたかった言葉とは。生涯現役、渾身最期の一冊。