ワタクシが所属しております劇団・山田ジャパンは2008年からスタートしまして。来年はとうとう10周年です。そんなワクワクが止まらないこの秋、久しぶりの本公演がございました。今回のタイトルは「欲浅物語」。田舎で工場勤めをする無欲の塊、素子。彼女は物心ついた時には“欲”を捨てていた。理由は父親が犯罪者だったから。小さい時から“申し訳ない存在”として何も欲さず、求めず生きてきた。ある日東京から工場にやって来た短期バイトの青年たちと触れ合うことで、ずっと抑えていた“欲”が大爆発。田舎を飛び出し、東京でブイブイ言わす“業突くババア”に。そんな素子のお話。

 私の役はその“業突くババア”になってからの素子。実はこの素子役は二人おりまして。無欲時代の素子(25歳)はトミタ栞ちゃん。23歳のカワイコちゃん。そしてその15年後の欲まみれ時代の素子(40歳)をわたくしが。ええ、ええ。言いたいことはわかりますよ。全然違うじゃないか、と。並んだら顔も体の大きさも半分じゃねぇか、と。私だってキャスティング聞いた瞬間、震えあがりましたよ。ただね、台詞にもあったのですが「時が経てば形も変わる」という事でね。どうか受け入れてくださいませませ。

 さてさてこの中年素子。すべてが華やか。なにせ“業突くババア”ですから。仕事も流行りを仕掛ける系イベントの制作をバリバリやっていて。洋服ももちろん派手だし、アクセサリーもジャラジャラ。真っ赤なルージュに真っ赤なマニキュア。周りにいる友人たちも素子に花を添える。港区で何軒もお店経営している子や、若い女子が憧れるコーチングワークショップの美人先生。老舗の財閥の御曹司もいれば、若手の俳優さんを囲っていたりもする。ただね、華やかなら華やかなほど、逆に素子が哀しく切なく映る。いろんな“鎧”を纏いまくってふんばるけど、結局強いのは外側だけだから。そのバカみたいに鎧をつけた状態で15年ぶりに地元へ帰ると、昔の仲間が死ぬほど優しい笑顔で一言言うんです。「よく頑張ったね」と。素子、泣き崩れる、の巻。

 今回は“欲”についていろいろ考えました。今まで“欲が深い”ってどこか悪のような感じがしていたけれど、悪いどころか当たり前の事なのかなぁ、と。だって「寝たい」「食べたい」など基本的なものは絶対だし、「どこか旅したい」「服が欲しい」とか。宝くじ買って「大金持ちになりたい」って人もいる。人それぞれだとは思いますが、大なり小なり“欲”は果てしない。でもそういった欲がエネルギーになってバリバリ働けたり、いろいろ動けたりすることもありますし。はい、もう認めます。私は欲深人間でございます。仕事も好きだし、美味しいお酒も飲みたい。東海道新幹線乗ったら絶対に富士山見たいし。いやはや、欲まみれです。

 そんなわたくし、この公演中もいろんな欲が生まれましたよ。題してあさこの「欲深物語」。

 例えば「混雑避けたい」欲。実は今回劇場が渋谷のど真ん中でして。しかもうっかりハロウィンともろ被り。以前テレビで見たほどではなかったけど、とにかくかなりの人、人、人。舞台終わって劇場から出てくると血だらけの人が大量にウロウロしているという。元々混んでいる所が苦手な上に、ハロウィンにいまだ馴染まぬ昭和のオンナ。なんとかこの混雑から逃げなくては。するとある日、駅と逆方面・道玄坂の上に上ってみるといろんなバスが走っていることを発見いたしまして。その中にウチ方面のバスが。神様ありがとう。奇跡に感謝。この欲、あっという間に成仏です。

 すると次の欲が。それはそのバスに向かう坂の途中に待っておりました。それは「レバニラ食べたい」欲。なんと坂の中腹に私の愛する「餃子の王将」がありまして。お店を見つけた瞬間、心が叫んだんです。「あ~、レバニラ食べたい。」あの「あ~、柴漬け食べたい」と一緒の感じで。おそらく連日のハードな舞台に47歳のボディは限界だったんでしょうね。レバー、ニラ、ニンニク。翌日のニオイなんてどうでもいい。体がパワーをがむしゃらに欲したんです。一心不乱に連日レバニラと餃子をかっ込んで帰っておりました。

 ただわたくしもオンナですもの。ちゃんと女子っぽい欲もありましたよ。「爪伸ばしたい」欲。……なんじゃそりゃ、ですよね。実はこの年にもなって大変お恥ずかしいのですが、爪噛む癖、バリバリ現役なんですよ。もう噛み歴長すぎて、今や爪切り使ったくらいキレイに爪揃うんですけどね。ただ普段はそんなに噛まないのですが、ネタ考えなきゃ、とか、台詞覚えなきゃ、とか。頭使う時に気づいたら噛んでた、みたいな。逆に私が爪伸びている時はゆっくりとした毎日過ごしている、って事なのですが。で今回台詞がなかなか多かったのもありまして、もれなく爪は噛み切られ短く。しかも爪自体が結構大きめ。そうするとね、先ほど書きましたが真っ赤なマニキュア塗るじゃないですか。あんまりなんですよねぇ。指先が繊細じゃない感じ。どこか男らしいというか。しかも悲しいがな、マニキュアを塗り慣れていない47歳。爪の周りの皮膚にも赤いのが付いちゃったりして。ああ、オンナ、失格。でもですね、カワイイとこもあるんですよ。マニキュア塗っていると、指の動きが変わってくるんですよ。お財布から小銭出す時とか、携帯いじる時とか。自然と所作が女らしくなりまして。小指なんか立てちゃったりして。はい、オンナ、復活。こんな自分、キライじゃない。ウフフ。

 そんな欲まみれあさこは、今日もいろんな欲をむさぼります。まずは……「美味しいアイスコーヒー飲みたい」欲かな。ではいざコンビニへ。

【今日の乾杯】
舞台が終わって最初に食べたご馳走。焼いた肉厚のかますに、山椒とおろしを添えて。大久保さんと行ったお寿司屋さんにて。日本酒が、ゆっくり沁みる。

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いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。』

寂しいだか、楽しいだか、よくわからないけど、日々、一生懸命生きてます。人気芸人の、笑って、共感して、思わず沁みるエッセイ集。全力で働いて、遊んで、呑んで、笑って、泣いて……の日々。ぎっくり腰で一人倒れていた寒くて痛い夜。いつの間にか母と同じ飲み方の「日本酒ロック」。緊張の、海外ロケでの一人トランジット。酔ってヒールでこけて両膝から出血の地獄絵図。全力の悪ふざけ、毎年恒例お誕生会ライブ。女性芸人仲間の感動的な出産。“呑兵衛一族”の冠婚葬祭での豪快な呑みっぷり。40歳で体重計を捨ててから止まらない“わがままボディ”。大泣きのサザン復活ライブ。22歳から10年住んだアパートの大家さんを訪問。20年ぶりに新調した喪服で出席したお葬式。恒例の、オアシズ大久保さんのご家族との旅行。etc.