「男女逆転版・痴人の愛」の公演が12月8日から始まるペヤンヌマキさんと安藤玉恵さん。今回は、お二人の生誕40周年記念ブス会ということで、「40歳から何始める?」的には、「記念公演、始めました。」ということなりそう。そんなお二人にとっての「四十路」とは?
(構成:川添史子)

 

40代になった途端、悩んでいる時間はないと思った

——ペヤンヌマキさんは40歳になったのを機に筋肉トレーニング、能楽鑑賞、内職まで、次々と新しいことに挑戦中です(様子はバックナンバーをご覧ください)。朝4時起きは継続していますか?

ぺヤンヌ(以下、ぺ) (無言で苦笑)

安藤(以下、安) 周囲ではすでに、できないことがネタになってますから。毎日4時起きなんて、絶対に無理ですよ。

 私、世の中に「絶対」はないって信じてるから。

 うん、そうだね……。

 でも40代になった途端「悩んでいる時間もない!」みたいな、前のめりで新しいことに挑みたくなる気持ちになったんですよね。安藤さんは元々せっかちだから余計せっかちになるし。

 身もフタもないこと言うけど、やっぱり年ですよ(笑)。そういう意味では、あらためて「40歳だからやり残したことを」なんていう発想は、私の中にはまったくないんです。日々のチャレンジはありますよ。タイマーをセットして、朝起きてから15分以内に掃除、洗濯、スープまで作ってみようとか。

 それすごいね。それは子供が生まれて今の生活になってから? それとも元々?

 「15分刻みで計画する」みたいな発想は元々かも。大学生の時も、「山手線で15分だけ座って寝る」とかやってたし。とにかく昔から気が短くて、居酒屋でもビールがすぐ来ないと(机を叩きながら)「おっそいなー!」って言っちゃう。ペヤンヌさんはビールが出ても気付かずにずっとしゃべってるよね。そのころに私はもう最初の1杯を飲み終わってるもん。

 女性5人ぐらいで集まってても安藤さんの急かし方がすごくて(笑)、みんながダラダラしてると一人だけエレベーター乗っちゃってるみたいな感じ。でもやっぱり、そういう積み重ねで、ムダなく人生が送れるんでしょうね。私は、くよくよ悩む15分を積み重ねてきてしまったから……。安藤さんとユニットを立ち上げて10年前に上演したのが30歳記念公演(AV撮影中の楽屋で繰り広げられる物語を描いたポツドール番外公演『女のみち』)でしたけど、当時と二人の状況は全く違うんですよ。安藤さんは31歳で出産しましたし。

 子供によって生活は変化しても、本質は変わってない気がするけどね。

 でも私みたいに結婚も出産もないままに40歳を迎えると、「人生プランを考え直さねば」と思うし、一時期はちょっと気持ちがドーンと沈んだんだよね。だから節目ごとに安藤さんと芝居をやることが自分の中で目安になっている気はする。私90歳まで生きる予定だから(笑)、何か目標みたいなものがほしかったんですよ。

 なるほどね。子供の成人式とかがない分、自分で節目をつくっていくみたいな。

 そうそう。なんとなく40歳ってこれまでの延長線では生きていけない感じがするんです。30歳の時は「私、熟女になってからのほうが伸びるタイプなんじゃないか」って妙な自信があったんだけど。

 ……「熟女になってから伸びるタイプ」ってなに?(笑)

 20代は若さを享受できるような暮らしができなかったから、「ここからじゃん!」みたいな、ヘンなエネルギーがあったような気がするんですよ(笑)。

少年に目覚めたペヤンヌマキの「痴人化」が止まらない

「男女逆転版・痴人の愛」リーディング公演より/写真:宮川舞子

——12月に上演する『男女逆転版・痴人の愛』は、(安藤演じる)40歳独身女性が美少年と出会い翻弄されていくストーリーだそうですね。原作は谷崎潤一郎で、そちらは真面目な男性が小悪魔的な少女ナオミに破滅させられる話です。

 原作を中学生で読んだ時は全然意味が分からなかったんですけど、20代前半で読み直したら、男女の感情の機微や、SとMが逆転していく様子など、これは面白い!と思ったんです。当時はナオミに感情移入していましたけど、30代で再読したらむしろ男性側に気持ちが寄り添っている自分を発見して(笑)。ちょうどそのころ、自分の中で男性の好みが変わった時期だったんですよ。35歳くらいからすごい男子高校生が好きになって……(一同笑)。

イラスト:Cato Friend/宣伝美術:冨田中理

 ちなみに、それまではどういう男性が好きだったんですか?

 それまではわりと枯れ専ブームがきてましたね。

 すごい振り幅だったね(笑)。

 年上男性に抱いていた「尊敬」が「同等になりたい」という気持ちに変化してきてぶつかったり、単純に可愛がられる関係にならなくなってきた。そんな時にふと、テレビを見たら……。

 羽生結弦君がいたんですね……。

 金メダルを獲る前、17歳の羽生君に対してなんかよく分からないけど「ずっと見ていたい」という気持ちが湧き出てきて、「美」だけを求め、遠くから眺めて、応援できたらそれでいい!みたいな気持ちを知ってしまいました。

 そのあたりからペヤンヌマキが〈痴人化〉していきましたよね。フィギュアスケートを習いはじめちゃったしね。私には10代なんて息子にしか見えないですよ。大体、向こうがこちらに近づいてこないですしね。

 利害関係がないと難しいでしょうね。

 「利」を与えない限り(笑)。

 若い時は、権力や金を武器に若い男はべらすみたいなのには拒否感もあったし汚いものに見えてましたけど、今は「それもいいじゃん」みたいな気持ち(笑)。これはやっぱり40代での大きな変化でしょうね。

——かなり今のペヤンヌさんの気持ちが反映されそうな作品ですね。

 谷崎の『痴人の愛』には少女のナオミが「学問の才能はないのに、こちらの心を読み取る才能には長けている」と描写されてるんですけど、こういった人間を見る視点なんかも、妙に自分と似てるような気がして面白いんです。とはいえ、ナオミに夢を抱けなくなったとたん身体の魅力に取り憑かれていく描写は男女逆転にすると成り立たない気もしていて。性欲の対象として見てないわけではないけど、「肉欲に溺れました」と言い捨てられない葛藤、みたいなものも描ければと思っています。

「男女逆転版・痴人の愛」リーディング公演より/写真:宮川舞子

 本公演に先駆けて行われたリーディング同様、チェロの生演奏があるんですけど、メロディーが役の気持ちとシンクロして思わぬ感情がもらえる感覚があって、すごくいいんですよ。そういえばリーディングの時、チェリストの方にペヤンヌさんが「ここはセックスしているように演奏してください」とか演出してましたよね(笑)。多分、どんなコンダクターにも言われたことないと思う。

ぺ 稽古では一度も言ったことなかったのに、リーディング本番前に突然言ったんだよね(笑)。でもそれで演奏が変わりましたね。

 変わったね~。音楽の力でお客さんに想像を膨らませてもらえるし、あの抽象化される感じがすごくいいと思った。

 演劇を始めた当初は人間のリアルな関係や描写にこだわってましたけど、美少年を愛でる気持ちと一緒で、芝居も美しく抽象化したい欲求が高まってきた感じはするんですよ。

 うん、それは台本から感じる。それに私自身、これまでみたいな会話劇だったら興味を持てなかったかもしれないですね。結果が分かってるものはやりたくないし、舞台では特に、失敗してもいいからチャレンジだけしたい気持ちが強い。これは年齢による変化かもしれないなぁ。

50歳に向けて希望しかない

——それにしても、10年前の『女のみち』に描かれたような女性同士の闘争心って、年齢とともに無くなりますよね。

 ないですね〜。

 お互いへの共感しかないもんね。

 それぞれ頑張っていこう、みたいな(笑)。

——若さや容姿を基準にした「女性とは」という世間的な競争から年齢とともに離脱していき、本来の姿に戻っていく感覚もありませんか? そう思うと40歳以降で書くものは、ペヤンヌさんがもとから持っていたものが純化していくんじゃないかという期待もあります。

 人間の表面じゃない、奥の部分を見たい欲はすごく強い作家だと思うし、そこはずっと変わっていない気はします。それを前はもっと面白がっていて、ある意味、意地悪な視点というか、笑いに昇華させてたかも。私たちもそれを観て笑ってたしね。でも今作では、そういう喜劇性や皮肉とは違うテイストが強くなりそうな気がする。

 最初から私が芝居を書きたいモチベーションって〈物語〉よりも〈人〉で。「人間のこういう部分を描きたい」という欲求に支えられてきた気はします。あとは役者さんから影響を受ける部分も多くて「この人は、こういうキャラクターをやったらすごく面白いだろう」というところからの発想だったりもしたし、もちろん今もその部分があるんですけど、今回は自分が脳内で構築した世界にはめたい気持ちが強い感じはしますね。そういう意味では確かに、自分が本来持っていた要素が全面に出てくるかもしれない。

——気が早いですけど、この公演が終われば、50歳に向けての目標も見えてきそうですか?

 そのころは、更年期障害で大変だと思いますよ(一同笑)。私、40歳になったばかりのころ年齢を聞かれて「40です」って答えると「あ、結構いってますね」と言われることに、若干引っかかりがあったんですよね。でもそこですぐに「よし」って開き直ったんです。不思議なんですけど、40になったことで未来は明るいと思うようになって、50歳にも期待しかない。今は妙に希望に満ちていて楽しいので(笑)、すっごい元気! 完全にババアだからかな?

 自分のことを「ババア」って言えちゃう楽しさみたいな?

 どうせ結構いってるなら、積み重ねるしかないもんね。どんどん重ねてやれ、長生きしてやるぞって(笑)。

 目標は黒柳徹子さん、橋田壽賀子さんみたいな(笑)。

 そうそう。おばあちゃんになっても女優を続けて「舞台の上ででんぐり返ししたい」みたいな。ゆくゆくは同世代はもちろん、若い人も、おばあちゃんも、みんなが元気になってもらえるものをつくりたいですね。観た人に「この人たち、バカだな」って言われるような、日本全国を元気にするような芝居がやりたい。

 うん。今は都会の女性を描いてますけど、50歳になったら、もっと広がりがある芝居もいいね。
(おわり)


<公演情報>
ペヤンヌマキ×安藤玉恵 生誕40周年記念ブス会*
『男女逆転版・痴人の愛』

公演日程
2017年12月8日(金)~19日(火) こまばアゴラ劇場

脚本・演出
ペヤンヌマキ(原作:谷崎潤一郎『痴人の愛』)

出演
安藤玉恵 福本雄樹(唐組) 山岸門人 / 浅井智佳子(チェロ演奏)

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ペヤンヌマキ『女の数だけ武器がある』

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