東芝本社ビル

 2015年4月、粉飾決算発覚。2016年3月、東芝メディカルシステムズ売却。同年4月、ウェスチングハウスの減損計上発表。揺れに揺れた東芝が、何とか窮地を脱したかに見えた年末、再び大きな危機が襲いかかります。
 大鹿靖明さんの著書『東芝の悲劇』の最後に登場する社長は綱川智氏、最後の章のタイトルは「崩壊」です。

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 東芝の綱川智社長は12月26日、マスコミ向けに記者会見を予定し、東芝の再建が進んでいることをアピールするつもりだった。粉飾決算で揺れ、ウェスチングハウス(WH)の減損の代わりに虎の子の東芝メディカルシステムズを売却したものの、半導体NAND型フラッシュメモリーの需要が予想のほか強く、東芝はこの年の8月、11月の2回にわたって業績予想を上方修正し、純損益で1450億円程度の黒字を確保できる見通しと公表していた。膿を出し切り、再建にめどがつきそうだった。綱川の会見は、東芝にとって久しぶりに明るい、前向きの話題をアピールできる場になるはずだった。

 その矢先の12月半ば、綱川は、WHが買収したアメリカの建設会社S&Wに巨額の損失が発生しそうということを初めて聞かされた。金額は数千億円ということだった。

〝前向き〞な記者会見は突如中止になり、暮れも押し迫った12月27日、綱川はCFOの平田政善、さらに原子力部門を所管する執行役常務・畠澤守とともに、巨額損失が発生することを告げる記者会見をしなければならなくなった。畠澤はこのとき会見で「物量、作業員の効率、働く人の人数の三点で当初の見込みと大きな違いがあった」と言い、綱川は、原発にはこりごりという感じで、原子力事業は「見直しは必要だと、そういう位置づけです」「見直しを含めて検討したい」と語った。

 このとき明らかにした「数千億円」という漠然とした損失額は、2カ月後の2017年2月、7000億円を超えることが明らかになった。労務費が37億ドル、設備費や下請けコストなど調達費の増加が18億ドル、それぞれ増加し、両原発の総コストは61億ドルも増えることになった。半導体で稼ぐ見込みだった利益をすべて食いつぶし、2期連続の巨額損失計上(最終損益である純損益では3期連続の赤字)に陥ることになった。

 東芝はついに海外の原子力事業から撤退することを表明した。責任者の志賀重範は東芝の会長を辞任することになった。

 WHは2017年3月29日、米連邦破産法11条(チャプター・イレブン)の適用を申請し、総額1兆円の負債を抱えて経営破綻した。東芝は、WHが破綻して米ニューヨーク連邦裁判所の管轄下に入ることによって、WHを連結対象から外すという「非連結化」をすることができた。経産省に背中を押され、三菱重工から奪うようにして大枚をはたいた買収劇だったが、綱川は「振り返ると(買収は)問題のある判断だった。ガバナンス、意思疎通、経営に関する全般的なこと。そういうことを中心に問題があった」と総括した(*1)。

 東芝はWHへの債権の貸倒引当金と米国の両原発の親会社保証によって総額1兆円もの損失を計上する羽目に陥った。高値づかみした買収の失敗(投資損失)も含めると、累計1兆4000億円もの巨額損失を蒙った。西室泰三がけしかけ、西田厚聰と佐々木則夫が猪突猛進したWHの買収は、東芝にとってまったく大失敗であった。

 遅れていた工事を進めようと相互のクレームを相殺するために、S&Wをただで引き取ったところ、WHは破綻し、東芝は債務超過に陥った。平田はそれを自分たちは「騙された」と受け止めた。「状況を見ていると、まるで我々は、米国の原子力産業に食い物にされてしまった(*2)」。平田が言うように、人の好い東芝は足元を見られ、海千山千の米国の原子力マフィアに嵌められたのだろうか。それとも、平田はそうとは口にはしなかったが、すべてを知る立場の志賀が皆を騙していたのだろうか。

 新日本監査法人に代わって東芝の監査を受け持つようになったPwCあらた監査法人は、WHにおける「不適切なプレッシャー」を問題視し、東芝やWHが米国の原発工事に絡んで以前から損失が拡大していたことを知っていながら隠していたのではないか、と疑った。自信を持って精査できるまで監査法人として決算を承認できないと言い出した。

 東芝はWHによって生じた巨額損失を埋めて財務体質を改善するために、利益の源泉である半導体フラッシュメモリー事業を売却することを決めた。


*1 綱川智の記者会見。2017年3月29日。
*2 平田政善への取材。2017年2月28日。

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 上場回避のための最後の手段であるフラッシュメモリー事業の売却。その売却先が二転三転して迷走し、やっと決まった現在も、米ウェスタンデジタル社は売却差し止めを求め、各国の独禁法による審査もこれからと、まだ予断を許さない状況であることは、皆さんもご存じのとおりです。
 大鹿靖明さんは、『東芝の悲劇』最終章をこう締めくくります。

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 綱川は統治能力を失っていた。相次いだ暴君が排された後の東芝の社内は、まるで終戦直後の日本がそうだったように、中央の権威が失われた。綱川は威厳を失った足利将軍のようだった。割拠する各部門に、もはやその威令は行きわたらなくなっていた。綱川は周囲に「杖をついて暗闇の中を歩いているようだ」と弱音を漏らすことさえあった。

 東芝はついにトップに人を得なかった。20万人の社員にとって悲劇であった。

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 日経新聞夕刊書評で、数ある「東芝論」のなかでも「圧巻」と、高く評価された『東芝の悲劇』。たんなる東芝の問題にとどまらない、日本企業と日本社会の悲劇を描ききった本書を、ぜひお読みいただけると幸いです。

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