エッセイスト・石黒由紀子さんちの「コウハイ」と、シンガーソングライター・山田稔明さんちの「ポチ実」。SNSで繋がっていた(?)二匹が、初対面しました。

今回は、コウハイ篇です。

 

 いつの間にやら気がつけば、私は「山田さん」を知っていました。そして、今年の5月に、ぬいぐるみ作家の友人が「軍手ネコの作り方BOOK」という本を出版したとき、関連イベントで山田さんが猫の歌を歌ってくれることになり、あらためてはっきりと知ったのです。そう「山田さん」とは、シンガーソングライターの山田稔明さん。愛猫家としても知られている方。

 そのイベントで、山田さんが愛猫との日々を綴ったエッセイ集『猫町ラプソディ』に出会いました。とても素敵な1冊なのです。歌えて(ギターも弾けて)、文章も書ける。

「なんて人だ! (ずるい)」。しかも『猫町ラプソディ』では挿し絵も描いている。「ほんとに、なんて人なんだ!(シットしちゃう)」。そう思いました。

 なんでもできる山田さんて、一体どんな方なのだろう。「子どもの頃から犬や猫と一緒だった」と書いてあったけれど、今は、愛猫•ポチ実ちゃんとどんなふうに暮らしているのかな。

 そんなことを思っていたら、あるとき、担当編集者の猫地さんから「由紀子さん。今度、山田稔明さんとお会いすることになったんです。よかったらご一緒にいかがですか?」 とのお誘いが。「わー、ぜひ!」私は即答。しばらくして、荒木町のビストロで山田さんとお会いできることになりました。

「はじめまして」。あいさつをしてからは、3人でずっと猫についてのおしゃべり。初対面でも「猫」というキーワードがあれば、ぐっと垣根が低くなり、打ち解けるのに時間はあまりかからず。そのうちに「山田家のポチ実ちゃんとうちのコウハイを会わせたら、どうなるかな」と盛り上がり、「ぜひ実現させましょう」と約束。そして、その日がついにやってきたのです。

 同居犬のセンパイに「センちゃんはお留守番だよ。今日はコウちゃんと行ってくるね。コウハイの健闘を祈ってて!」と告げ、いざ出発。

 クルマの助手席に置いたケージにシートベルト。ドライブしながら聴くのは山田さんのCD『the loved one』、お気に入りは「猫町オーケストラ」。山田さんが、野良猫になったつもりで書いたという曲で、はじめて聴いたときに「はっ! 」としたのです。“こんな不確かな日々を思うとき 嫌なことから忘れていけたなら”という歌詞が、まるで『猫は、うれしかったことしか覚えていない』に問いかけてくれているみたいで。

 曲を聴きながら、ケージの中のコウハイに「コウちゃん、これから山田さんというお宅に伺います。山田さんって、この歌を歌っている人だよ。山田さんちには、ポチ実ちゃんという三毛猫の女の子がいるからね。失礼がないように、いい子でいてね」。聞いているのかいないのか、コウハイの返事はもちろん、ない。それでも、私が「コウちゃ~ん、コウハイちゃ~ん」と呼びかけると「ニャ~!」と返事をしてくれるので、聞こえてはいるみたい。

 カーナビ先生の案内通りに大きな道を右に曲がり、細い路地を奥に入っていくと閑静な住宅街。なるほどこの辺か。「猫町」感が漂ってきました。山田さんちの近く(と思われる)のコインパーキングにクルマを停めて「さぁ、ここからは歩いていくよ」。

 猫地さんとは、山田家付近で待ち合わせ。お互いにLINEで「もう近くまで来ています」「私も近いです」と連絡取り合うも、なかなか巡り会わない。なぜ? 「由紀子さん、今、どこですか? 私はもう山田さんちの前に着きました」と猫地さん。え! うそ。焦る。歩いても歩いても「山田」という表札は出てこない。番地では近いはずなのに……。私とコウハイは猫町で遭難しました。

 結局「あのー。小さい公園の前にいるのですが~」とS•O•S。山田さんと猫地さんに救助してもらうという……。あぁ、お騒がせしてすみません。コウハイはどんな気持ちでケージの中にいたのかな。

 山田家に到着すると、ポチ実ちゃんはリビングの隅、庭に面したサッシの横で丸くなっていました「隙あらばどこかに隠れてしまいたい」という感じ。「こ、こんにちは!」小さく声をかけると、そっと私を見たポチ実ちゃん。まあるい目をよりまるくして「……」。眼差しは固く、「あなた誰?」というより、全感情のシャッター、ガラガラ。

「毎日インスタグラムで見ていたポチ実ちゃんが、こうして目の前にいる」私は静かに感動していました。想像していたよりもキュッとコンパクト、そして美猫。ポチ実ちゃんは、ある日、山田家の庭に現れた猫で、もとは野良猫だったというけど “山田さんの愛にだけ包まれて育った” という雰囲気。深窓の令猫さんでした。

 気配を感じ警戒モード120%のポチ実ちゃんと、ケージから顔だけ出して、スン、スンスンと山田家の匂いを嗅ぐコウハイ。さて、2匹はどうなる……?

 

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石黒由紀子・文/ミロコマチコ・絵『猫は、うれしかったことしか覚えていない』

ありがとう、猫たち。
今を生きることを教えてくれて。
「センパイコウハイ」シリーズのエッセイストと、『ねこまみれ帳』の画家による、くすっと笑えて、しみじみ沁みる、猫のはなし。