インタビュー最終回は、物語の舞台である大阪でのロケの話や、この映画の白石和彌監督(代表作『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』)とのお話など撮影秘話をうかがいます。阿部さんが陣治に対して冷静だった一方で、監督にはかなり熱い想いがあったようです。白石監督のインタビューも後日公開しますので、そちらもお楽しみに。映画『彼女がその名を知らない鳥たち』は本日10月28日(土)公開です!
(写真 岡本大輔/構成・インタビュー plus編集部)

 

■僕の体を借りて監督が伝えたい陣治がいた


 ————役を演じる際、役者さんはその作品の監督が求めていることを受け取って表現するところがあると思うのですが、今回は陣治について、白石監督から何か指導をされたということはありますか。

   まず台本があって、初めて顔合わせをするときですね。監督がすごく陣治に思い入れがあったんですよね。お話ししていく中でそれがとてもよくわかって。

 ————そうなんですね。

  監督、陣治のこと好きだなって。監督はこの物語を「究極の愛」の話だと思っていて、「陣治のことを思うと泣ける」って仰ってたので、陣治に初めからかなり思い入れがあったんじゃないでしょうか。

 ————たしかに、陣治の生き方を考えると泣けてきてしまいますよね……。

  だから監督が僕の体を使って「陣治」を伝えたいわけだから、まずこれは監督の言う通りにしたいという思いがありました。初めての顔合わせでそういう感じでしたから。すごく熱意が伝わってきました。

 ————でも、それはある意味、阿部さんからすると、驚いたり戸惑ったり、ということになるのでしょうか。

  いえ、僕としては、とてもやりやすいですね。監督のイメージがそれだけ固まっているし、どういうふうに撮りたいというのが全部決まっているので、悩むことがないというか。だから現場はとてもスムースでした。

 ————陣治を演じるにあたって監督が阿部さんに期待していた部分は、具体的にどのあたりだと思われますか。突き進むエネルギーとか脇目もふらずとか、そういうところなのでしょうか。

  阿部さんならこうしてくれるだろうって言われた気がしますが、そういうのは忘れてしまうので…。でも説明とか演技のプランを聞いていても「なるほど、なるほど」という感じで、とても演じやすく指示してくださいました。

 ————映画はとても原作に忠実に撮られているのですけれども、終わり方が、ある意味、違います。

 

  そうなんですね。映画は原作のような終わり方ではないですよね。もしかしたら、だから救われるって部分もあるのかもしれないですね。

 

■大阪の空気は自然と体に入ってきた


 ————映画のシーンはほとんど、十和子と陣治が住むマンションの一室が映っていますが、それでもオール関西ロケだったそうですね。時々映る商店街のなんともいえない雑多な雰囲気とか、喧噪の中の寂れた感じとか、物語の舞台の大阪があちこちからにおいました。

  撮影中、ずっと大阪にいたので、スイッチは自然と入りましたね。格好もずっとそう。汚くていい。だからあの時期は休憩中に、普段は吸わないタバコを公園で吸ってみたり、コロッケ食べたりとかしてました。

 ————え、ふつうに?

 大阪で泊っていた宿の横に、昔ながらのコロッケ屋さんがあって、そのお店のコロッケを買って食べてました。

 ————もしかして、常に汚れた作業着姿の陣治の衣装のままでとか。

 衣装はさすがに置いてくるんですけど、その衣装に近いというか、つなぎのようなものを着て、汚れてもいいような格好で、ビール買って、コロッケ買って、公園で食べるみたいなことをよくしていましたね(笑)。

 ————大阪に自然と染まっていった。

 そうですね。そこでいろいろ関西弁を聞いたりしながら。

 ————阿部さんは大阪ご出身ではないですものね。

  はい。

 ————関西弁も指導を受けたそうですが、大阪の空気は独特なものがどこかありますよね。

  そうですね。大阪の友達はけっこういるんですけど、関西弁にはとても苦労しました。ロケ現場近くの商店街にいる方たちも、「いいな、この人」と思える味のある雰囲気を持った人がふつうにいる。

 ————それはナチュラルにいらっしゃった方ですか。役者さんとかではなく。

 そうなんです。最初はエキストラの方かなって思ったけど、何度も通り過ぎるから絶対違う(笑)。なかなかない感じで、すごく面白かったですね。

 ————最後になりますが、この映画はどんな人たちが楽しめる世界と阿部さんは思われますか。かなり大人の恋愛サスペンスかなとは思いますが。

  まずやはり女性ですかね。まほかるさんの本を読んでいる方って女性が圧倒的に多いんですよ、僕の周りでも。それである種、特徴的というか、僕のなかでは傾向があるんです(笑)。ちょっと陰があるというか、人生の紆余曲折を味わっている人はだいたい読まれてる気がします。

 ————男性は、恋愛に対してちょっと引いているというか、冷静な部分があるかもしれないですね。

  でも男性に観てほしいですね。こういう不思議な愛のかたちを。「陣治わかるわ」って言っている男性も現場にたくさんいたので。意外と、女の人に尽くしたいというタイプの人も多いのかもしれないですね。

 ————愛を与える喜びを知る人たちはもちろん、恋愛に淡白だった人も衝撃を受けてまったく別の世界が開ける可能性もありますね。本日はありがとうございました。

 

 

阿部サダヲ
1970年生まれ。千葉県出身。92年より松尾スズキ主宰・大人計画に参加。同年に舞台「冬の皮」でデビュー。映画やドラマ、舞台、バンド「グループ魂」のボーカルとしても活動するなど、幅広く活躍。現在放送中のNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』には徳川家康役で出演しており、19年に放送予定のNHK大河ドラマ『いだてん ~東京オリムピック噺~』では主演が決定している。主な映画出演作は『舞妓Haaaan!!!』(日本アカデミー賞優秀主演男優賞受賞)、『なくもんか』『奇跡のリンゴ』、『謝罪の王様』、『殿、利息でござる!』など。

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