10月28日(土)公開の映画『彼女がその名を知らない鳥たち』(沼田まほかる原作)で、十和子に足蹴にされながらも、尽くし続ける陣治を演じる阿部サダヲさん。今回は、陣治がそうして十和子に一方的に尽くしながらもなぜ別れずにいるのか、そもそも2人は何に惹かれ合ったのか、という、あの奇妙な愛のかたちのお話。インタビュー第2回です。
(写真 岡本大輔/構成・インタビュー plus編集部)

 

■仲がいいのか悪いのか、2人を繋げるものの秘密


 ———前回と少し重なりますが、共感しづらい陣治という人物を演じるとき、阿部さんはどういう気持ちを掘り起こして陣治になるのでしょうか。

  ちょっと怒られたいという気持ちがあるといいますか……。

 ————怒られたい?

  さっきの十和子に陣治がマッサージしているシーンでいうと、「こういうことをすると、きっと十和子に怒られるのだろうな」と思いながらもちょっと調子にのるとか。

 ————ああ、なるほど。

  それがまた陣治にとってちょっと幸せというか。怒られるということは、まだ十和子に感情を持たれているということですよね。そういう好かれ方を感じるというか。2人の出会いのシーンもありますが、あの2人、最初からすごいじゃないですか。

 ————そうですね。とくに十和子は、黒崎(竹野内豊)というこれまたひどいクズ男にフラれて、ショックと未練で全然立ち直れていないときに、陣治に出会います。

  逆に、陣治より十和子のほうが落ちていたというか。心身ともに傷だらけになったあとだから。わからないですけど、そんな十和子を見た陣治は「この人を救いたい」というか、それで「この人だ!」と思えたんでしょうかね。

 ————原作の中でも「絶望」という言葉が、2人を結ぶキーワードとして出てきます。それで本能的に惹かれあっている。阿部さんが演じるなかで他に、これが理由で2人は惹かれ合ったんじゃないかと思ったことは何かありますか。

  どうでしょう。でも映画では、仕事先の人間として、十和子が務める会社に来ていた陣治たちの打ち合わせの席に、すごいケガをしたただならぬ感じの十和子がお茶を出しにくる。そんな女性を初めて見たら、「この人、大丈夫かな」って心配になりますよね。
 でもそういう陣治のほうだって、自分が働いてる大会社を自慢げに話して、一応エリートみたいな顔をして先方の会社にいるんだけど、きっと会社に戻れば周りに友達はいないだろうし、そういう部分で、2人は「独りぼっち同士」という感覚の惹かれ方はしたんじゃないですかね。そういう感じはしますけどね。
 で十和子は、こっちが押したら少しずつでも相手にして、来てくれるわけじゃないですか。勝算はきっと陣治にあったんじゃないかなって思いますね。

沼田まほかる『彼女がその名を知らない鳥たち』幻冬舎文庫

 ————なるほど。それで物語では途中で重大な事件が起こっていて、最後にその事件と真相が明かされます。事態が見えない登場人物たちは途中、それぞれ疑心暗鬼のなかにいます。
 陣治の心のなかにも、十和子がお茶を出してきた時の一途で能天気な愛情とは違うものが出てきたと思いますが、そのあたりを演じるときに気をつけたことはありますか。

  あまり細かくは言えませんが、とくに表情に気を遣うようになったところはありますね。
 十和子が黒崎と旅行に行ったときのビデオを家で観てて、その十和子を僕が見てしまったときのシーンとか。昔のことを思い出さないでくれと十和子に懇願するという表情じゃなくて、嫉妬の感じのほうを出したりとか。
 ただ、撮影しているときは、実際にそのビデオが流れていたわけではないんです。黒い画面が出てただけ。それで出来上がったのを見て、何、このイメージビデオみたいな映像って(笑)。十和子と黒崎ってこんなに楽しそうだったんだって。これすごいな、どこで撮ったんだろうと思いながらも、あれを現場で見てたら、もっと頭にきたかもしれないと思いましたね(笑)。

 

※最終回は、オール関西ロケのことや、あの白石和彌監督との話など撮影秘話について。10月28日(土)公開予定です。

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