10月28日(土)、映画『彼女がその名を知らない鳥たち』(沼田まほかる原作)がいよいよ公開される。汚くて不快なのに美しい、究極の恋愛ミステリーだ。嫌な女・十和子(蒼井優)、下劣な男・陣治(阿部サダヲ)、ゲスな男・水島(松坂桃李)、クズすぎる男・黒崎(竹野内豊)と、みっともない大人たちしか出てこない。
 なかでも目が離せないのが、阿部サダヲさん演じる陣治(じんじ)。下品で貧相で、地位もお金もない。15歳年下の十和子に足蹴にされながら、無償の愛を貫く。この男は一体……? 女性の心をざわつかせる陣治を解剖しつつ、映画が描く「愛」の世界に迫ります。全3回のインタビューです。
(写真 岡本大輔/構成・インタビュー plus編集部)

 


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■ 空想好きで弱くて詰めが甘い男のリアリティ

 ————今回の映画のコピーには「共感度0%、不快度100%。でもこれはまさしく愛の物語」とあります。たしかに描かれている世界は、美しいだけの男女の恋愛ものでも、不倫に溺れるドロドロものでもありません。等身大のみっともない大人の暮らしのなかでものすごい純愛を見つけた、とでも言いたくなるような衝撃の映画です。
 阿部さんはこの原作を初めに読んだとき、どんなふうに思われたのでしょうか。

  僕は最初に映画の台本で読んだんです。原作を読んだのはそのあとだったので、まず原作のディテールの細かさにちょっと驚かされましたね。原作者のまほかるさんの書き方が、こんな細かいのかと。

 ————十和子の視線で陣治の逐一の動作から心理描写まで詳しく描かれていたりしますね。

 それで、もしかしたら半分以上、体験談をちょっと書いたりしているのかなって思いました。まほかるさんは、陣治みたいな人とお付き合いなさっていたのかもしれないなって。リアルだったから。ここまでなかなか書けないだろうという感じがしたので。物語自体はあまり読んだことのないタイプのものでした。

 ————本当にラストも「ないタイプの衝撃」です。あと、女性が男性に尽くすパターンはよくあっても、この物語では逆です。自堕落な日々を送る十和子に、陣治はひどい言葉もぶつけられながらも、陣治はせっせとお金を入れて、ご飯をつくり、十和子が心配だといっては毎日電話し、マッサージをしろを言われればする。尽くしすぎて少し異様な感じすらします。こういうタイプの男性に、共感度というのは阿部さんにどのくらいあったのでしょうか。
 

  共感度は……ないですね(笑)。僕はこんなふうに女性に尽くす経験はないですし。尽くすというのだって、たとえば陣治が十和子にあんなに優しくマッサージしていたシーンでも、それで、あんな、ねえ(笑)。

 

 ————いい感じになってきたと思ったら、陣治は十和子にひどい言葉を吐かれて、部屋から追い出されてしまいます。

 あのシーンで、これは原作にはなかったですけど、多少、救われているんだなと思えるところが映画にはあって。十和子に「出てけ」と言われて陣治が出ていって、その次の日、十和子の機嫌をとろうとでっかいパンを買ってきますよね。なのにまたそこで陣治がやらかしてしまう。そこで十和子がちょっとは笑ったりする。それがあの2人の良いところなんだけど。もしかしたら、またそこで「どうするの、食べられないじゃないっ」って怒る女の人もいるかもしれませんが。

 ————確かにそうですね。それで、共感できるところはないというお話なのですけれども、それでも何か、陣治の性格で一つでも何かお好きなところというのはないでしょうか……。

  性格で、ですか?

 ————陣治の性格で何か。たとえば、女性の立場から観ると、あんなに責めても拒絶しても、一生懸命ついてきてくれる男性がいる十和子というのは、半分羨ましいような気持ちもあったりするんです。陣治はけなげだなあと。でも可哀想といいますか。ああいう姿を男性が見たとき、どう思うのかなといいますか……。

  どう思うんだろう。でもすごいと思いますよ。毎日、部屋にあるカゴのなかにお金入れて働きに出ていくっていうのも。

 ————映画は「無償の愛」と打ち出されていますが、「代償が大きすぎる愛」じゃないかなとも思ったり。

  すごいですよね。あの人が払っているお金。

 ————十和子に常に傷つけられてる上に、大変な事件も起こります。

 でもどこか可愛いところがあるというか。彼にもちょっと救いがあるのかなと思うのは、空想好きな感じがするところですね。食堂でご飯を一緒に食べてるとき、仕事の愚痴を言いながら、自分が幸せになったときのことを、十和子に喋ったりしている。「この話を小説に書く」とか言って。
 きっとそういうことは、外では全く喋っていないんだろうけど、十和子の前ではすごく喋れるというのは、唯一、気を許している人なのかもしれないなって。「今日上司にやられた」とか、「あいつにぶん殴られた」とか「いつかやってやる」とか……

 ————言ってますね威勢よく(笑)

  そういう人、いそうじゃないですか。

 ————たしかに。

 そういうところがリアリティある気もします。あと、あまり言えませんけれど、重要なものをわかりやすいところに隠してるような甘さ。もっと違うところに隠せばいいのに。見つけやすい。あの汚い部屋だったらもっとあるだろうって思うのに、陣治、意外とね(笑)。

 


※次回は、陣治と十和子が惹かれ合う、奇妙な愛のかたちについてうかがいます。10月25日(水)公開予定です。

 

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