『AV女優消滅』で「男性視聴者の欲望」が出演強要につながったことを指摘した、中村淳彦さん。鈴木涼美さんがこれまで出会ってきたおじさんたちを描いた『おじさんメモリアル』。最終回は、日本の男性の欲望の特徴、その歪さについて語りあいます。
(構成:アケミン 撮影:菊岡俊子)


今が幸福だとAV女優時代のことも「アホだな」と語れる

中村 鈴木涼美がおもしろいのは、昔ながらの不幸とか波乱万丈とかではない、東京で時代に乗って生きた華やかなギャルがここまで書くんだってところ。徹底した上から目線もいいよね。

鈴木 AV業界に救われたとも思っていないけど、かといって別にAV女優時代のことをそんなに恨んでないから。アホだなって思ったことはあるし、嫌いな人は、それなりにいたけど、尊厳が削られたと深刻に悩んだことはない。良かったとも思っていないし、深刻に病むほど消し去りたい過去でもないから、割と淡々としているんじゃないでしょうか。運が良かったことや、今がそんな不幸じゃないっていうのもある。

中村 今が不幸じゃないっていうのは大きい。貧乏とか貧困じゃないって言い換えてもいいかも。貧しくなると、とにかく自分自身も人間関係も環境も全部おかしくなりがち。

鈴木 自分が幸福になると、わりと過去はどうでもよくなる。

中村 だけど鈴木涼美は自分で考えて、自分で決断していて、時代の空気に流されることはあってもポエムとか他人の話で惑わされたことは、一切ないわけでしょ?

鈴木 そんなに主体的な人間じゃないですよ(笑)。基本的に私は、その時に好きな人に影響される。AVに出たときも、当時のスカウトマンが好きだったから。ひょっとしたらそれは彼氏のふりをして騙す色管理だったのかもしれないけど、自分では元カレに影響されてAVに出たって思ってるから(笑)。

中村 あえて突っ込まないけど、客観的に聞いていると普通の色管理だよね。慶応大学の女子大生を色管理する元カレは、業界的には優秀なスカウトマンってことになる。

鈴木 そもそも男の人って「無理やり」とか「強要」っていうのもわりと好きでしょう。私がAV女優になったのって、AV出演強要が社会問題になる前、メーカーに面接に行くときは「AVに出たい、じゃなくて、こういう業界のこと知らないんだけど事務所の人にうまいこと言われて連れてこられちゃって、ってトーンで行け」とプロダクションの社長に言われましたよ。今とは逆。水商売や風俗の経験も隠すし、なにも知らずに連れてこられちゃった素人を演じて、メーカーに営業周りをする。

中村 エロの世界での「素人」という記号の価値は昔から普遍的にある。売上を上げにはビッチより素人のほうがいい。プロダクションは今でも演じさせているでしょう。売上が変わってくる。

鈴木 AV業界だけじゃなくて、風俗でも「業界初経験」とか「初出勤」って営業のために言いますよね。でも話も面白くてテクニックも良くてベテランの人より、アホで役に立たない素人の方がいいって、趣味が悪い。バカだなって思う。

中村 スキルと経験ある人が勝つ世界であってほしいけど、素人の、なにも知らない女の子が裸になるほうが、男性には生理的にインパクトがあるのは仕方ないと思う。経験のない最初が一番価値が高いという歪(いびつ)な市場評価が、AV女優が労働者になりづらかった大きな理由でもあるけど。

鈴木 素人好きって特に日本人は顕著。日本人ってヨーロッパの人に比べると、アンティークはそんなに好きじゃないし、古着も安く買うためにある。ヨーロッパの人にとっては、テクニックがなくて素人丸出しの娼婦が人気なんて、考えられないこと。でも日本の男性は気が利かない素人のほうがいいと思うし、「AVに出たい」と言う子より「え〜どうしようかな」って言うほうに魅力を感じる。そうなると強要問題は、AV自体がそもそも内包した病理だと思いますね。

 

無知がもてはやされる世界とインテリに価値がある世界

鈴木 男性は素人女好き、反対に女性は女性の不幸話が好き。中村さんの本のファンにも女性が多いですよね?

中村 AV業界の人はわかっていないっぽいけど、僕の本は女性読者が半端なく多い。逆にエロ本の読者層である素人が好きな中年男性は少ない。正直、女性には「読んでいます」って頻繁に声をかけられるよ。

鈴木 女性は大好きですよ、中村さんの本とか、鈴木大介さんの貧困についての本とか。私の家に遊びに来た友達も、中村さんの本だけは皆借りていく。その後で引用しようと思っても返ってきてないから、私、何回も買ってて(笑)。AV女優のイベントに来る女の子より、中村さんのイベントに来る女の子のほうが数は多くて、AV女優は作品とはまた違う消費を同性からされることを自覚してもいいと思う。

中村 この10年くらいはAV女優に不幸な子は少ない。レールから一歩踏み出して、奔放な性とか、自由に生きている感じに共感するのかな。同性に共感されるのは良いことでしょう。鼻息荒い中年男性だけに消費されるより、ポジティブな現象だと思うな。なのに、AV業界は表面的に全肯定してくれる中年男性の消費だけに固執するし、それしか興味ないでしょう。昔から不思議だなと思っている。

鈴木 AVも夜の世界もそうだけど、社会との繋がりが薄いとどうしても情報量に差が出てくるから、考えが変わりづらいのかも。昔、私、3年ぐらいホストと同棲していて、彼の情報量の少なさにビックリしたもん。頭はいいし、漫画も読むから「三国志」に出てくる人物は、私より知っている。でも生活が自宅と歌舞伎町の往復だから、品川がどこにあるのか知らない。プレイヤーは必要最低限の情報で生きているから、世の中には別の見方があるという中での議論はできるわけがないと思う。

中村 となると男性視聴者だけを相手にしてきた今のAV業界の状態は、それと同じだよね。女性団体がAV業界と社会を強引に繋げてしまった。だから一連の問題の解決は、業界の人には手に負えない。

鈴木 でも多くの国ってそんなもんじゃないですか。超一部のエリート知識層はいろんな情報を持っているけど、インドの僻地にいる子はなにも知らない。そもそも世界があることを知らない。日本は識字率が高いがゆえにそういう格差が許されず、これまで成長してきたわけで。

中村 AV業界のゴタゴタは終わりそうにない。唯一まだ稼げそうなのはAV女優だけなので、これをキッカケに業界とか中年男性視聴者を捨てて海外に移住するとか。思い切ったことをすればいいのにとか思う。

鈴木 自分の価値は少し移動しただけで変わったりする。AV業界では、私は大して可愛くなかったし、売れてもなかった。けど、インテリ的世界では、本を書いてることや学歴なんかがもてはやされたりするし、その中では美人という位置付けをしてもらえる(笑)。人間の価値って、それぞれの世界でまったく変わることは本当に実感していますよ。
(おわり)

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目次

はじめに

第一章 人生が破壊された超人気AV女優

スレンダーな元超有名女優が待ち合わせ場所に現れた
現役時代は心を“無”にして過ごした
出演強要を告発するのは単体女優たち
複数の男たちに囲まれ、脅されて契約
殺されると真剣に思っていた
デビュー作の撮影に複数の男たちが押し掛ける
私の人生、こんなはずじゃなかった

第二章 納得して出演している女性ばかりじゃなかった

次々と逮捕されるAV関係者
呼びかけたわけではない。相談が来てしまった
積極的にAV出演する女性が増えたのではなかったのか
人間の哲学がテクノロジーに追いつかない
アダルトビデオは日本の男性社会の象徴
業界関係者は状況を把握できていない
性を買う側を社会的にどう考えるのか
AV出演強要問題はブラック企業問題と地続き

第三章 歌手になりたくてAV作品に出演

「私を取材しませんか?」と声をかけられる
口説き文句は“稼げる”から“有名になれる”へ
AV業界擁護派の意見は「それは自己責任」
感覚が麻痺するAV業界の日常
裸の世界は儲けることが正義
嘘の求人広告が多すぎる
「歌手へのステップ」という言葉を信じた
撮影が始まると現場の判断で中止にはできない
2本のAVに出演してもらったお金は5万円
これは性の問題ではなく、労働問題

第四章 人間扱いされないAV女優たちの絶望の系譜

マークスジャパン摘発の発端となったAV女優
被害女優をかつて取材していた
警察に駆け込んだ女性の現役時代の証言
テレビドラマの準主役を探している
悪い人ばかりで疲れちゃった
裸でカメラの前に立ってから負のスパイラルが始まった
頑張った先に芸能界はなかった
思いつめて絶望を告白する人気女優
人間花瓶にして肛門にドジョウを流し込む
1000万円を要求されて支払いました
AV女優は人間のようで、人間じゃない

第五章 普通の女の子をA V女優に導く暗黒のスカウト最前線

元プロダクションマネジャーの告白
「AV女優をやります」と女の子を頷かせるスカウトマン
社内で普通に輪姦していた
「輪姦」「場面」で女の子に恐怖を植えつける
視聴者の「いい女を出せ」の要求に応え続けた結果
AV女優になった女の子は利益が出るように気を使う
AV女優には情報を徹底遮断する
グレー産業が足並みを揃えるのは不可能
最近のスカウトの主流は「ネット」

第六章 「AV女優に人権を」業界でただ一人動いた元A V女優

AV出演者の権利を守るための団体ができる
AV業界は女性の人権には非常に鈍感
派遣法違反で摘発されて業界が動きだした
AV業界のグレーな歴史
マークスジャパン事件から意識が変わる
少しずつ前進するグレーからホワイトへの動き

第七章 AV業界が消える前に

提言を実現していかないと、業界は消滅します
政府、警察は本気
AV族議員の存在が必要
インフォームドコンセントの徹底で被害は減る
AVで生きる人の人生を否定してはいけない

第八章 強要問題はAV女優の反乱だった

企画単体女優の貧困
家賃4万円の風呂なしアパートに暮らす企画単体AV女優
AV業界は女優以外のセーフティネット
強要問題はAV女優の反乱だった

おわりに

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