『AV女優消滅』で「男性視聴者の欲望」が出演強要につながったことを指摘した、中村淳彦さん。鈴木涼美さんがこれまで出会ってきたおじさんたちを描いた『おじさんメモリアル』もまた、「男の欲望」がテーマでした。前編に続き、体を売って稼ぐことについて語りあいます。
(構成:アケミン 撮影:菊岡俊子)

おじさんの悲哀を昇華させたかった

中村 『おじさんメモリアル』読みました。あまりに傑作なので驚いた。傑作すぎて友達の作家とか、インテリ風俗嬢に電話して、「あれはガチの名著(作家談)」だとか「涼美さんはモンスター、真似できない(風俗嬢談)」とか、そんな話をしまくった。文章の技術が優れているのはもちろんだけど、おじさんを観察する視点が斬新。でも男にとってはキツいね。「おじさんメモリアル」の中には入りたくないし、こうやって話をするのも恐い。

鈴木 中村さんだったら、一つのジャンルがつくれますよ。「絶望しがちな中村系おじさん」みたいな(笑)。

中村 そもそも鈴木涼美が相手にする男って上流階級でしょう? 官僚とか日経新聞社員とか、チャラいマスコミ男とか。社会と女性から排除される中年童貞の悲哀は自分でも本に書いたけど、上流階級まであれだと男は全滅じゃん。

鈴木 そんなことないですよ〜。ただ、キャバクラ時代のお客さんや高級風俗嬢たちの話に出てくるのは、必然的に社会的強者のおじさんたちが多かったですね。

中村 どんなに優秀な人でも、仲のいい友達でも、家庭とか恋人の前ではどうなのかはまったくわからない。上流階級まで鈴木涼美の前ではこう滑稽な痴態を晒しているとなると、マジで中年男総倒れだね。

鈴木 そもそも、バブルおじさんって頑張って日本の経済を支え、頑張って家族を支えてきたら、前時代的な負の遺産として扱われて、今度は「金くれ金くれ」って言っていた女の子が会社に入ってきて、そのポジションを私に譲りなさいって要求してくる。どんどんいろんなものを失っている人たち。「おじさんメモリアル」は、そんなおじさんたちの悲哀を昇華させてあげたいなって。色々な書籍やルポの中で、女の子は、こんな服を着ていたとか細部まで見てもらえるけど、おじさんはおじさんでしかなくて、ディテールは注目されない。彼らをつぶさに観察してフィーチャリングしたかったんです。

中村 おじさんは若い女子に淋しさをつつかれて、ことあるごとにお金を奪われて、最終的には地位まで奪われるのか。最大化した売春だね。でも、高い金額を支払われると女子は機嫌いいけど、安いとボロクソ言われていて、おじさんたちは本当に可哀想だった。

鈴木 でも、実は、女子は見ている。おじさんをイジりつつ、「ちゃんと見ててあげたからね」っていう本でもある。私は男性のモチベーションって性欲しかないと思っていて。お金とか、仕事とか、出世名誉っていうのは、よりいい女を抱くためにあるもの。高校時代の自分の顔じゃ、ヤンキー崩れの女しか抱けないけど、慶応に入ったら白百合の女が抱けるようになって、ゴールドマン・サックスに入ったら超極上のモデルの女を抱けるようになる、みたいな。一方で最近はジェンダーレス男子のモデルさんをはじめ、その欲望を全否定する男の子もいるので、おじさんたちにも性欲じゃないものがあったのかな、と考えることもあったけど、やはり基本的に世界は男の欲望を満たすために進化していったと思っていますね。

中村 なるほど。いい女を抱きたいみたいな男の競争は、出世とか社会的地位に直結しているかもね。モテたいという気持ちは、モチベーションになりやすい。僕は仕事で魑魅魍魎な女子と会うので、その辺の腹黒さはよく知っているつもり。仕事だから性欲とか淋しさでぶれないように体調や環境を整えているけど、それはたまたま。フラットな状態だったら、「おじさんメモリアル」的な行動をとっちゃうだろうな。

鈴木 実際、エロメディアでテクノロジーが進化する、って言われているのと同じで、いろんなものがそれに呼応する形で育ってきたんだと思う。AV業界ってまさに男性の願望を凝縮して、わかりやすく表している。セクシーな秘書がいきなりチンコを触ってくるなんて現実にあるわけないじゃないですか(笑)。

中村 AVは早い段階で競争に負けたり、競争の参加資格がないみたいな男を救済するものだよね。だから偏差値は低めにつくられている。逆に鈴木涼美のフェロモンに操られるおじさんは、最前線で戦っているので人間としての器は大きい。滑稽ではあるけど。

鈴木 今までAVみたいな世界を良いっていう男の人はアホにしか見えなかったけど、私たちも壁ドンでキュンとかしているから、まぁ同じようなものかもね(笑)。

 

パパ活もAV女優も新聞記者も結局、時間と体を売っている

中村 あらためて涼美さんはガチのモンスターだよね。自分の付加価値を最大限に使いこなして利益に誘導する。美人なのに真剣に介護職をやっている女性は、涼美さんとまったく逆の人種。低賃金でも高齢者の笑顔が見たいと教育とか周囲に洗脳されて、自ら進んで利益の最小化に邁進している。誰に都合がいいのって話で、実態として搾取されまくっている。正直、僕は鈴木涼美とか似たような女子の存在を知っているので見ていられない。かわいそう。

鈴木 洗脳!(笑)。

中村 最近、介護関係者に会う機会が多くから、ほうぼうで『おじさんメモリアル』を薦めている。実際に5人くらい女性が買ったという報告があった。美人でまだ24、5歳だったら、今すぐ鈴木涼美を真似して動いたほうがいい。簡単にできることではないので、不幸になるかもしれないけど。

鈴木 ありがたいけど、ハローワーク的に使われたらどうしよう(笑)。
 

中村 最近は女子大生とか20代OLとか、低賃金層がおじさんからお金をひっぱる「パパ活」が流行っているけど、『おじさんメモリアル』はパパ活女子の教科書的なバイブルになるかもなぁ。そうなると男は圧倒的に不利になるね。

鈴木 でもみんな、パパ活では思ったよりも稼げてないじゃないかな。一回につき5万とか、大していい話じゃないですよ。

中村 5万だったらいいんじゃないの? ダメなの? 今、実質賃金はマジで下がっているから、上層の男でもそれくらいしか払えないよ。

鈴木 5万なんて一日で無くなっちゃうじゃないですか(笑)。5万を一日昼と夜2回やってそれを10日やれば100万ぐらいにはなるけど、超効率重視しないと大変ですよ。本にも書きましたけど、動物園デートとかで時間取られたりすると、すごく怒る(笑)。

中村 まあ、よくわかっていると思うけど、おじさんはガチで恋愛した気になっているケースもあるから、そういう時間と体をシビアに売っているという現実はバレないほうがいいよね。日経新聞の上司とか同僚が鈴木涼美の体で操られているのも笑ったな。

鈴木 私の中では思い出の価値として日経新聞の記者とAV女優はだいたい一緒なの。給料とギャラも一緒ぐらい(笑)。時間を取られるっていう点でもそこまで違わなかった。

中村 売春については「金になるんだったらいいんじゃないの。安いならやめた方がいいよね」ってバッサリ考えているけど、やっぱり売春は女子にとって嫌なことが多いの? 一週間くらい前に人気風俗嬢にジジイ相手の売春のツラさをガチ口調で語られて、気になっていたんだよね。異常興奮しているハゲジジイの吐息とかニオイとか、超至近距離とか、かなりダメージが大きいらしい。「マッチョのジジイに掘られたら、中村さんも私たちの気持ちがわかるよ」だって。

鈴木 売春は、できればしなくていいと思うけど、私は当時は全然ネガティブには思ってなくて、むしろうまくやったら美味しいよねって感じだった。不快感はあるでしょうよ。でも日経の記者だって不快なことはあって、このリターンに対してどこまで我慢できるか、あるいはどっちの苦痛がマシか、という話ですよ。朝6時に起きるのと、男優に乳首吸われるのと、どっちの方が嫌か、っていう。

中村 鈴木涼美の世代はブルセラとか女子高生とかいろんな付加価値が最大化されて、エンタメになって金になった時代だからね。今とは違う。

鈴木 当時、女子高生のバイトは時給750円とかだし、それじゃヴィトンは買えない。けどパンツ売ったら買えるわけ。そっちの方がイイ。でも、どんな低賃金でも水商売やカラダを売ることだけはしない、という子もいる。私はそういう女性たちの意識を尊重していて、最近はやらない理由や彼女たちのメンタリティに興味がある。

中村 ギャルが流行った鈴木涼美世代は売春している子はメチャメチャ多かったけど、少子化になった今も同じくたくさんいる。この20年で売春はどんどん一般化して、今は学費とか生活のために普通の子がやっている。日本は本当に後進国になってしまった、という印象がある。

鈴木 流れとしてはどんどんカジュアル化したというのはあると思いますが、ギャルが流行していた時の援助交際という売春と、現在のかなり経済的に追い詰められた状況での個人売春と、現場の雰囲気は違うかもしれません。ただ、どちらにせよ割と自然の成り行きで、ものすごい決意や思い切りなしにズルズルその世界に入っているという点では似ています。

中村 特に女の子はその時代の空気とか、まわりの価値観に流されるからね。

鈴木 そうですね。あと「実際にやってみたら大したことない」ってこともある。AVだって、「闇金ウシジマくん」を読んでいたらコワい世界だけど、いざやってみたらスタジオはキレイだし、男優も気持ち悪い人いないし、全然ツラくない。だからといって「最高な仕事だから、みんなおいで!」と私は思わないけど。基本的には背徳感がある方が自然だと思っているし、良いことだという意識はない方がいい。かといって否定したところでなくなる稼業ではない。否定しながらも、共存するぐらいがちょうどいい。
(後編につづく。10月19日公開予定です)
 

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