かつて日本は「皆婚社会」でした。しかし、近年は生涯未婚率が急上昇し、2030年には男性の3人に1人、女性の4人に1人が占めるという予測も出ています。
「生涯未婚時代」とは、単に「結婚しない中高年の増加」のことではありません。「結婚を人生設計に組み込まない若者の登場」のことでもあります。
「結婚、出産を経て配偶者と添い遂げる」という生き方や「正社員となって定年まで働く」という人生設計が社会で共有できなくなった時代に、家族社会学の視点から結婚という選択肢を再考したのが永田夏来さんの『生涯未婚時代』(イースト・プレス)です。
今回は京大卒の元ニート、phaさんをゲストに招き、今まで普通だとされていたライフコースを外れて生きることの、この時代における意味について考えていきます。
(2017年8月18日、下北沢・本屋B&Bにて収録)

 

「そんな奴いるのか?」と言われる悔しさ

永田 今日は一応結婚の話なので、まずは結婚に対してポジティブかネガティブか、肯定的か否定的か、ちょっとフロアの雰囲気を知りたいです。ちなみにphaさんはどっちですか?

pha そうですね。どちらかというとネガティブなのかな。

永田 多分ね、正直「場合による」が正解だと思うんですけど、社会学というのはあえてそこで白黒マルをつけてもらってデータを得るというアコギな商売なので(笑)、ちょっとご協力をいただけますか? お願いします。(フロアの挙手を得て)ああ、いい感じに割れましたね。

pha だいたい半分ずつですね。こういうイベントには、「結婚したいぞ」っていう人は興味を持たないという話ですよね(笑)。

永田 はじめにphaさんに私の本『生涯未婚時代』の感想をさらっと聞いてもいいですか。

pha 僕は今38歳なんですけども、定職につかずシェアハウスに住むという暮らしをもう10年ぐらい送っていて、今のところ別に結婚の予定もないし願望もない、みたいな感じです。そういう自分から見ると、読んですごく共感する話が多いし、こういう考えがもっと広まってほしいという感じですね。「そんなにぜひとも結婚したいって感じでもないなぁ」みたいな雰囲気は、自分もそうだし友達とかにも多いので、現在のそういう傾向について全般的にまとめてくれた教科書みたいだというか。すごく勉強になるし、みんな読んでほしい本ですね。

永田 ありがとうございます。私、phaさんの本はほぼ全部持っているんですよ。自分自身もシェアハウスに住んでたり、あとは友達にもシェアハウス住みの人が多かったりとかで、割とだるい感じで生きている人が多いんですね。自分も、大きく人間を二つに分けるとそっち寄りなんですけど(笑)。いわゆる世の常識みたいなものとは違う基準で自分のことや暮らしについて考えているような人にとっては、多分この本って「ああ、そうだよね」って感じるような、そんな突飛な例を私は書いてはいないつもりなんですよ。
 でも、この本の話を例えば政策を決める場とかで言うと、「そんな奴は本当にいるのか」「いたとしても少数派でしょ」みたいな感じで、バッサリいかれちゃうとこなんです(笑)。それがちょっと悔しいんですよね。

pha 実際そういう政策を決める場とかで話したりする機会もあるんですか。

永田 官僚や県職とかと話すときですね。もちろん調査に呼ばれたりとかして、こっちで調査の項目を提案するときに、「したいか・したくないか」「一生しない・絶対する」で二択をとったら、そりゃ「する」にマルするよ、と。でもそれが「本当に絶対結婚したくって、そうじゃない人生なんて考えられない」みたいな高いテンションなのかといったら、私の考えではそんなことはないと思う。でも競争に勝ち抜いていって、そこに適応している官僚のみなさんだと、そうじゃない生き方が多分考えられない。

pha もうちょっと質問を細かくしたらどうなんですか。「はい・いいえ」じゃなくて、「できたらしたい」とか「機会があったら」みたいな。

永田 私もそう思うんですけどね。調査のロジック的には、そうしたニュアンスよりも、私がさっき乱暴に「はい・いいえ」で挙手してもらったようなやり方が、データとしてはやっぱり扱いやすいというはあるんですよ。

pha 本にも書かれてあったように、データに表れないけど、「リアルにこういう人いるよね」みたいな話が結構多いじゃないですか。僕とか「こういう人いるよね?」と言われたら、「うん、いるいる、周りにいっぱいいる」っていう感じなんだけど、でも全然そういう人に出会わない人から見たら「そんなのはただのマイノリティだろう」って思うんだろうし、そこが難しいんですかね。社会が分断されているから、違うタイプの人にそもそも出会わない。

永田 この本の中の例は、全部私の友達の話なんで(笑)。だけど、私はそういうのに出会いやすいようなところにいるのかもしれなくて、だからこの本を書いたときに、どこら辺が「おお、あるある!」という感じで、どこら辺が「そんなわけないだろ」という感じになるのか、テンションが全然わからなかったんですよね。


シェアハウスに過剰な期待をする人たち

永田 先日も、都内で高齢者を対象に話をする機会があったんです。この本の中にある「ポケモン型」と「ドラクエ型」のたとえで、「人生のモデルが変わってますよ」みたいな話をしたんですけど、そこはかろうじて伝わるかなと思ったら、参加者の一人から「へぇー」って言われて……

pha あんまり伝わっていない。

永田 「そういう人もいるんだぁ」みたいに思われたようで。「へぇーっとか言ってる場合じゃないよ」とか思ったけど(笑)。

pha 上の世代の人にはやっぱり通じなくても、これからの下の世代に通じていけばいいんですかね。

永田 うーん……、phaさん、シェアハウスの話って年上の人に説明してわかってもらえます?

pha あんまりわかっていなさそうな気はしますね。わかっていないか、あとは過剰に期待しているか。「新しい家族だ」みたいな感じに(笑)。

永田 私もそれすごく懐疑的で(笑)。シェアハウスに過剰な期待をしている人っているでしょ!?

pha そこまでのものではないのに(笑)。

永田 「そんなに期待されてもね」っていう。

pha 「別にそこまで素晴らしいものでもないけれど、一人暮らしもあって、シェアハウスもあって、結婚もあって、どれも一長一短だよね」ぐらいの感じなんですよね。

永田 それを私、最近の一つの変化として思うところです。例えば、「非婚」を宣言してる人っていますよね。それは「結婚ではない人生を選択するのだ!」というテンションなんですけど、そこまで決めてかからないでも多分よくて。私もシェアハウスに住んでいたし、10年ぐらい前には友達と一緒にお金出し合ってシェアオフィスをやったりしていて、「今はそれが一番いいからそれにするけど、事情が変わったら違うことやるよね」ぐらいの感じで人生をその都度選択するのが当たり前だと思ったんです。

pha 僕、テレビ(「ザ・ノンフィクション」)で取り上げられたりもしたんですけど、ちょっと期待され過ぎている感じもするんですよね。そんなに大したことはやってなくて普通に暮らしているだけなんだけど、というか。

永田 私、あの番組見て一個だけ思ったのは、やっぱりあれ最後は結婚で締めないと、番組的に駄目なのかなと(笑)。

pha まあ番組的にはそういうわかりやすいゴール的なものがあったほうがいいんでしょうね。僕、シェアハウスをやめたら、すごく「負けた」みたいに思われそうな気もするんですよね。「やっぱり駄目だったか」「ほれみろ」みたいな(笑)。でも別にそうじゃなくて、ちょっと気が向いたら別のこともやってみるし、また気が向いたらシェアハウスをやるかもしれないし、それぐらいのことなんですけどね。この『生涯未婚時代』にも出てくるような、「ライフコースは一直線に進む」みたいな観念がまだ強いってことなんですかね。

永田 多分二つあって、一つは例えば恋人を持って結婚してちゃんと就職してみたいな、いわゆるドラクエ的な感じのライフコースを選ばなかったら自分は駄目なんじゃないかと、自分で自分を罰する感じがあるのかなと。
 あともう一つは私もそうなんですけど、ドラクエ的な人生を「別にいいんじゃない」と思ったとして、じゃあ友達がそういうことやったときに「よかったよね」と心から思いたいところもあるし、自分は選択しないけど他人の選択は許容するのって結構難しいなという。
 それだったら「非婚だ!」と言って、「私はそんなもんの価値は認めない!」って言った方が生きやすいですよね。自分はいいけど周りから見られてどうなんだろうとか、自分はいいけど他の人に対してどういう風に思うのかとか、考えなくて済む。

pha そのテレビに映っていた、シェアハウスの中の結婚式でも、「あまり『結婚めでたい』『結婚すばらしい』みたいな雰囲気にはしないように」という気持ちはみんなありましたね。そういう雰囲気にするとそこから弾かれてしまう人が絶対出てきてしまうので。

永田 いい感じに距離感を測りかねている感じが、よくわかりましたけど(笑)。

pha でもテレビを見た人の感想とかを検索すると「最後の結婚式のシーンで感動して泣いた」みたいな人が結構いるんですよね。やっぱりそういうわかりやすい物語は強いですね。
結婚した漫画家の小林銅蟲は、あまりめでたくなりすぎないように、インタビューに答えているときにずっと手にバールを持って殺伐とした感じを出していたんですが、流石にバールは編集でうまく目立たないようにされたみたいですね(笑)。

永田 そういうことだったんですね(笑)。「妊娠・出産・結婚」って、最後の宗教みたいなとこがある。

pha わかりやすいですからね。誰にでも理解できる。わかりやすい物語は必要なんでしょうね。

永田 でも、なくてもよくね、という。

pha でもそれなしで何かをしようというのは難易度が高いというか、誰でもできることでないというか、自分で探さないといけない難しさがありますよね。

永田 私はそれを聞きたいと思っていて。phaさんは自分で探している感じがすごくするんですよ。自分で一個ずつ埋めていっているみたいな。

pha あんまり僕は世間でどう評価されるかとかに興味がないし全然気にしないので、自分でやりたいことをやっているだけという感じですけどね。

永田 疲れたりしないですか? 常に疲れているからあんまり気にならい感じ?

pha 疲れたら休む。疲れたら休んで何もしないことが多いですけど、休みながらやっているという感じですかね。でも世間の多くの人はそうじゃなくて、「みんな世間的評価が気になるんだなぁ」とか思いますね。性格の違いだと思うんですけどね。社会性というか。


社会学者から見て、phaさんはなぜ革命家なのか?

永田 社会性ね。ちょっと社会学の話してもいいですか? なんで見田宗介先生に解説を書いてもらったんですか。

pha あははは。僕の最近出た文庫本(『持たない幸福論』)の解説ですね。

永田 これすごいですよ。みんな文庫も買った方がいいです。この解説、解説なのに解説していないという(笑)。

pha フリーダムすぎますよね(笑)。

永田 フリーダムすぎるでしょ。でも社会学者が論じたくなる何かがあるんだとは思うんですよね。

pha 僕はあの解説をもらえて、すごく満足していますけど。好きに書いてくれたなと。

永田 私、phaさん革命家だなと思っているんですよ。どういうことなのかというと、ちょっと社会学の話ですみません、現在の社会はポスト近代と言われているけど、ここには近代社会の基本となったパブリックな領域とプライベートな領域の分断という前提があるわけです。
 パブリックの領域というのは政治とか経済とか、法律とか。合理的で競争することが基本になっている領域です。でも競争ってルールがあるから成り立つわけで、そこには一定のルールというか決まりみたいのがある。これに対してプライベートな領域は、家族とか介護とかが典型ですけど、ルールや決まりというより「愛があるんだから」「家族なんだから」みたいなアホのような呪文(笑)、が発動していて。そこには共感はあっても競争はないわけです。
 私がなぜphaさんを革命家だと思うのかというと、自分のことを向上心があると思います?

pha 自分なりにはあると思うんですけどね。

永田 でも人と比べてどうこうとか考えてないでしょ?

pha それはないですね

永田 ですよね。向上心って、人と比べてどうかという話、つまり競争なので。そういう意味でもかぎ括弧付きの「向上心」みたいなのを、phaさんは表に出さない。なのに、phaさんってパブリックな領域に出て行くんですよね。プライベートを排除していくっていうか。

pha それはどういうことですか。

永田 例えば、家の中でやっていればお金はかからないけれど、多少なりともお金を使って外に出て行こうとするじゃないですか。自分の居場所をマーケットの中に置くことに対してオープンでいられるという感じ。でも、そこに他者との競争とか比較はない。こういう人って他にいないんじゃないかなと思う。

pha 結局僕は自分の生活の周りのことにしか興味がないというのがあるんですよね。だから会社勤めも続かなかったし。今は自分の生活の延長としてシェアハウスをやったりブログを書いたりしているわけですが。それがプライベートのままパブリックに出ていってるということになるんでしょうか。
あと、都会に住んでいると、何かを外でやるのがすごくやりやすいというのはありますね。家なんてなくても、適当にその辺をフラフラしながらなんでも用が足りるというか。

永田 もしかしたらジェンダーも関わっているかもしれなくて。「おこもり女子」とメンタル的には似ているんだけど、でもやっていることは真逆って感じですよね。女の子の場合は、家の中でカフェラテとか作っちゃう。なのにphaさんは外に出ているというのがちょっと面白いところかなと思っています。
 文庫本の解説で、見田宗介先生はそれを「断捨離」だって言うわけです。でも私はそれ「断捨離じゃないな」って思うんですよね。見田さんは解説の中で「仏教的な振る舞いだ」「煩悩を切り捨てていっている」とか言っているけれど、煩悩を切り捨てているというよりも初めからそういうところにいないんだと思う。

pha そうですね。物を持ちたいとか、そもそもそんなにないのはありますね。

永田 煩悩を切り捨てるって、「絶対やりたい」「絶対欲しい」とか思っている前提じゃないですか。そう思っていて捨てていくなら、それは確かに修行の成果なんだろうけど、phaさんはそういうテンションじゃないんじゃないかなと思うんです。

pha そんなに元々欲しくないですね。若い人もそういう人、増えているんですかね? 結婚したくない人も、割といっぱいいるような気がするんですけど。

永田 私は増えているのかなって気がする。


シェアハウスは「モラトリアム」でも「青年期の延長」でもない

pha あんまり自分が特殊という自覚はなくて、「みんなやっているし、普通じゃん」と思っているんです。多分それが偏っていて、実際そうじゃないとは思うんですが。

永田 今まで本とか出して、どんな感じなんですか? マスコミとかの取り上げられ方とか。

pha 本を読んだ人は、「すごいわかる」「そうそう。こんな感じでやっている」みたいな人が多いですかね。でも確かに、マスコミとかの取り上げられ方は、「すごく新しい」みたいな感じ。

永田 シェアハウス住みは、よく「それは青年期の延長問題だ」「ゆくゆくはちゃんとするんだけど、モラトリアム的に時間を稼いでるだけなんだ」みたいな言われ方をする。でも、「そうかな?」って思うけど。

pha そうでもないと思うんですけどね。

永田 実際私の友達なんかもシェアハウス住みで50歳になりつつある人とか全然いる。このまま楽しくシェアハウスでいいと思っていて、でもそれって別に諦めてそう思っているわけじゃなくて、無理しなかった結果がそうなった感じなんですよね。

pha そう思える人が増えているのはいい時代だと思うんですけどね。ライフコースみたいなのが崩れていって、結婚してうまくいかなかったとしても、またシェアハウスに戻ったりするのもありだと思いますし。

永田 まさに私がそれですよ(笑)。かつて結婚していたときに「これ無理だな」と思ったタイミングで、友達が「シェアハウスを始めるよ。住民募集しているんだよね」って言ったから「行く行く」って感じでシェアハウスに転がり込んだ(笑)。

pha それはどこでやっていたんですか?

永田 それは京都のシェアハウス。元々シェアハウスに住んでいる友達がいっぱいいたから全然抵抗がないし、自分がいいと思ったときにやるのが一番いいと思ったからサッとやっちゃったって感じです。

pha まだまだ珍しい感じはしますね。もっと早く一般的になってほしいですよね。そういうマンガとかドラマが出たらいいのかもしれない。この『生涯未婚時代』でもマンガとかドラマとかをたくさん取り上げていましたけど、そういうのがやっぱり世間の心理を象徴するというのがありますよね。

永田 この本も、『逃げるは恥だが役に立つ』のおかげでわかりやすくなったところがあります。「逃げ恥」が流行って、みんなが何となく「『呪いみたいなものがこの世にある』ってわかった感じになったところがあるので。物語の力って強いかもしれないですね。私としては「20年ぐらい前からその話はしているんだが」という感じなんですが(笑)。

pha 物語の力、強いですよね。僕も「シェアハウスニート」みたいなのがドラマとかになったらいいなと(笑)。

永田 イケメンとかにされちゃうんだよ、絶対そう。

pha やっぱりイケメンじゃないと流行らないんでしょうね、テレビだと(笑)。
(後編につづく)

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