9月19日の国連総会でのトランプ大統領の演説は、北朝鮮に対する挑発的な発言やイランへの名指しの批判、国連の問題点も指摘するなど、会場のみならず世界をざわつかせることとなりました。

そんなトランプ大統領のアメリカは「建国の理念と正反対になっている」と国際政治学者の中西輝政さんは言います『アメリカ帝国衰亡論・序説』。国内外が注目してやまない今のアメリカは、これからどこへ向かおうとしているのでしょうか。

 

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トランプの孤立主義は、アメリカ建国の理念と正反対

 2017年は、社会が変革し始め、世界史が曲がり角を迎えた1917年から100年目に当たります。

 1917年にはどんな変革があったのでしょうか。

 一つは、ロシア革命です。ロシアは、この革命によって300年続いたロマノフ王朝が倒れ、共産主義国家になりました。共産主義は圧倒的な勢力を広げ、世界を席巻するかに見えたのです。

 ところが、同じ年、劇的なできごとがあって、世界史が大きく変わりました。それは、「パクス・アメリカーナ」の成立です。

 具体的なできごとを挙げれば、ウィルソン大統領率いるアメリカがそれまでの国是を破り、第一次世界大戦に参戦したことです。

 じつは、それまでのアメリカは建国以来、孤立主義、より正確には対外不介入政策が国是でした。それが、アメリカ合衆国ができあがってからの伝統だったのです。そしてウィルソンの第一次大戦への参戦から100年後の現在、トランプがやろうとしていることは、一見、この孤立主義に似ています。

 しかし、じつはここが問題なのです。果たして、トランプの主張は、建国以来の国是である不介入主義の復活なのでしょうか。結論から言えば、似て非なるものと言わざるを得ないでしょう。

 たしかに、アメリカは1917年までは、ヨーロッパの問題には関与しないことを原則にしてきました。アメリカという国は当初、海洋国家として成り立ってきたのですが、19世紀に入ると、西へ西へと広大な国土の開拓をしていく西部開拓の時代を通じ、大陸国家になっていきました。

 

西部開拓が生んだアメリカの「名誉ある孤立」

 このように、海洋国家から大陸国家になった結果、孤立主義とうまく合致していったのです。アメリカは、「海洋国家というのは、必ず覇権主義になる」という地政学上の原則とは縁を切ったのです。

 ちなみにこの定説には根拠があって、海はすべてつながっているので、海の支配を目指すとやがては全世界を支配しようとするから、ということです。

 このことは、今から200年以上前の日本でも、学者の林子平が、『海国兵談』という本で主張しています。彼は、江戸の日本橋の下を流れる水は、地球の裏側にあるテムズ川につながっていると言いました。

 しかし、独立後イギリスと絶縁して、西へ向かって開拓を進めることに集中し、海洋国家ではなくなったアメリカは、ますます「大西洋の向こうにあるイギリスなどのヨーロッパには関与しない」というイデオロギーが強固な国になりました。

 ですから、独立宣言や合衆国憲法を読むと、「アメリカ大陸の防衛」ということだけを謳っています。海外に軍事力を派遣したり、海外の国と同盟を結んだり、権謀術数の外交をやったりしてはいけないというのが、アメリカ建国の大国是でした。

 このことは、初代大統領のジョージ・ワシントンが、1797年、大統領を2期務めてホワイトハウスを去る日の演説でも言及しています。

 そのときにワシントンは、「アメリカは若い理想を掲げた民主主義の共和国である」「アメリカは、われわれが神の加護によって、地上に築いた別天地である」「これを守り抜くことが、一番大切な、われわれの使命だ」という意味のことを言いました。

 そして、そのために大事なことは、「外国での戦争とか、外交とか、同盟などには一切関与しないことである」と言い、非介入の原則を守れと強く言い残したのです。

 この非介入の原則は、理念としてその後、100年以上にわたってアメリカを支えました。また、この孤立主義、つまり対外不介入主義は、「アメリカは世界が見習う平和の使徒となろう」という大いなる理想主義の表れでもあったのです。つまりそれは、トランプの唱える孤立主義とはまったく似て非なるものだったのです。ここをよく比較する必要があります。

 

「アメリカ・ファースト」はローマ帝国衰亡の再現だ

 アメリカがこの本来の孤立主義、つまり対外不介入の選択をした時代は、「啓蒙主義の時代」と言われ、ヨーロッパでも、ルソーやカントが、「人民の権利を確保して新しい自由と平和の天地を作るためには、お互いに外国に干渉するのはやめましょう」という主張や提案をしています。

 共和制や民主制が崩れて堕落し、独裁や暴政に至るのは、軍事国家になることだというのがその主張の根拠になっています。つまり、軍事国家というのは、外の世界に関わって対外介入したり、外地で戦争をしたり、平和時に恒久的な同盟を結んで外国に軍隊を派遣したりするから、本国の社会が徐々に利権化・強権化していって自由を失っていくのだというわけです。

 これは18世紀までは、欧米の人々にとって常識の中の常識でした。というのも、彼らは身近なものとしてローマ帝国の繁栄と衰亡の歴史を知っていたからでしょう。

 古代ローマは当初、共和制でいい時代を迎え、大繁栄して自由を享受していました。

 ところが、クレオパトラが支配するエジプトに関わり、シーザーが出てきて、あっという間にローマ“帝国”になってしまいました。

 その結果、不要な対外戦争や征服を繰り返し、徐々に軍事国家になり、軍事的・経済的には世界最強の国になりました。しかし結局、今でいうポピュリズム化が進み、国内の本来の自由はどんどん奪われていきました。そして社会の活力を失っていき、最後は一大衰退の過程をたどってしまいました。

 ギリシア・ローマの古典を熱心に学んだルネサンス以来の欧米では、これが教訓になって、アメリカ独立後の孤立主義というものが国家運営の一つの考え方として定着していったのでしょう。モンロー主義もその一部なのです。

 モンロー主義とは、1823年、第五代アメリカ大統領のジェームズ・モンローが、ヨーロッパに対して、アメリカ大陸とヨーロッパ大陸の相互不干渉を提唱したことを指します。以来、アメリカはヨーロッパの戦争や外交にはずっと局外中立、不介入を守り続けました。

 しかし、1917年はアメリカが第一次世界大戦に参戦して、長い間維持し続けた孤立主義をやめたときであり、そういう意味で100年前のこの年は、アメリカと世界が変化するきっかけになった年なのです。

 

トランプの「ネオ孤立主義」はただのエゴイズム

 そして、それから100年、やみくもに「アメリカ・ファースト」を唱えるトランプの大統領就任が「アメリカの総意」と考えるならば、今やアメリカはかつての理想主義に立脚した孤立主義ではなく、アメリカのことだけを考えるただのエゴイズムとしての「ネオ孤立主義」に向かおうとしているかのようです。

 もともと日本では、この国家運営の思想としてのアメリカ特有の「孤立主義」に触れるとき、その理解がかなり混乱していました。今日では孤立主義というと、相手をおとしめる単なる政治スローガン用語のように捉えられ、公平な理解を得られていないうらみがあります。

 単純に言えば「孤立する」というのは悪いことであり、他との協調や和解を無視した生き方として誹謗の対象になりがちです。しかし、この「孤立主義」をアメリカの歴史の中でよく知っておくことは、大変重要なテーマであり、しっかりと見ておきたいと私は思っているのです。

 アメリカの歴史をずっと巻き戻して概観すると、今、起こっていることは、要するにコロンブス以来のアメリカが大きく変わるということです。それは私の学問上の大テーマの一つでもあり、この本の一つの柱にもなる部分です。

 世界の最先端の地政学者が書いた『21世紀における地政学と大国』(C. Dale Walton, Geopolitics and the Great Powers in the 21st Century, 2007 本邦未訳)などでもつとに論じられているように、今、世界はおよそ500年ぶりに海洋国家優位の時代から大陸国家優位の時代へと転換し始めました。

 そこでは必然的に多極化の世界が、支配的な、そしてより構造的な世界秩序として定着すると考えられます。なぜなら、端的に言えば世界の海は一つにつながっていますから、海洋国家優位の時代はどうしても「海の覇権」を一つの国が握りがちだったからです。

 マルチポラリティ、つまり多極化世界が、次の時代の世界史の主要な構造になることは、何も目前の国際情勢だけでなく、こうした長期的な文明史上の構造転換によっても明らかなのです。

 つまり、今やこの世界は、コロンブス以降の海洋国家が世界を支配した時代に別れを告げて、100年前、最後の海洋覇権国として建国以来守ってきた孤立主義を、1917年にかなぐり捨てて覇権国家へ突き進んできたアメリカが、大きくその舵を切らねばならないときに来ているということです。

 

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中西輝政『アメリカ帝国衰亡論・序説』

移民排斥、孤立主義、日本企業批判、新たなる戦争……
トランプの絶叫は、大国の断末魔の悲鳴である。
「米国なき世界」に備え、今こそ日本は自立せよ。
名著『大英帝国衰亡史』の著者が大胆予言、覇権国アメリカの「終わりの始まり」8つのシナリオとは?
トランプ政権によって、4年後、8年後のアメリカはどのように変化しているのか。
そして、それに備えて日本が向かうべき未来を精緻に論じる。

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