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シンギュラリティ・ビジネス

2017.09.11 公開 ツイート

第2回(全3回)

「働かなくていい社会」になったら、どう生きる? 齋藤和紀

思わぬところから思わぬ競争相手がやってくる時代

篠田 また話が変わりますが、本のなかで、今は第4次産業革命が始まっていて、今後は業種の境界がなくなると書かれているのは、どういうことなんですか?

齋藤 ビジネスの世界ではいろいろな競争があって、たとえば今までは、東京―大阪間を飛ぶ飛行機は、もっぱら新幹線と競争していましたよね。
 お客さんが自分で東京駅まで行って、新幹線に乗って大阪まで行って、そこからまた目的地まで乗り換えて、というのが、今の大量輸送のスタイルです。でも自動運転車が実用化されると、家の前で車に乗って目的地を設定したら、それだけで行きたいところまで連れて行ってくれる。新幹線や飛行機より時間はかかりますが、その間、車のなかでパソコンを使って仕事もできるし、電話もできるし、もちろん食事もできるし、寝ててもいい。だったら、新幹線に乗りますか? 飛行機を使いますか?
 つまり自動車産業が鉄道や航空など運輸業のライバルになるということですし、さらにその先、バーチャルリアリティの技術が進化したら、そもそも人間が移動することすら必要なくなるかもしれない。

篠田 そうか。

 人間が実際に移動しなくても、どこでも、その場にいるようにできるから。

齋藤 はい。それは、異業種が横やりで入ってきて、いきなりこれまでとは違う競争が始まるということなんです。現実に、そういうことはもう起きています。アップルが始めたアップル・ペイと銀行との間で、決済をめぐる競争が起きているとか。

 そうか。技術が進むことで、今までこの業種とはぶつからないだろうと思っていたところに、いきなりお客さんを奪われるかもしれないってことですね。

齋藤 そうです。

 俺だってアップル・ペイだもんな。超便利で、スマホだけあれば財布持たなくてもいいですもんね。

齋藤 はい。今は財布持ってないっていう人、多くなってますよね。

篠田 要は、これまでニーズに応じていろいろな業種に分かれていたものが、全てひとつのAIで済んじゃう時代になるということですね、きっと。

齋藤 究極的にはそうかもしれないですね。

篠田 第4次産業革命になると、一番影響を受けるのが製造業、コンビニに3Dプリンターが置かれる時代がくるっていうのも、そういうことなんでしょうか?

齋藤 はい、そうですね、まだ実感はない人が多いと思うんですが、今もう実際に、かなりのものをロボット的なものでつくれるようになっています。たとえば自動車では、タイヤ以外のほとんどを3Dプリンターでつくるという実験が成功しています。
 今、You Tubeにとてもおもしろい動画があるんです(*このページの終わりに動画あり)。ロボットのペッパーがけん玉を覚えるという動画です。ペッパーは最初ちょっとずつ失敗するんですが、それを何回も何回もやり続けるんです。人だと多分10回ぐらいで飽きるところを、50回、70回、80回と繰り返す。そうすると、だんだん上手になってきて、100回目ぐらいで成功する。そして、その後は一切失敗しなくなります。

篠田 すごい!

齋藤 3Dプリンターでも、おそらく同じことが起きるでしょうね。お寿司屋さんでも、寿司を握るロボットが一度できてしまえば、美味しいお寿司を無限につくりはじめる。

 わーっ、こえー!

篠田 寿司職人さんて、シャリの握り具合とネタの合わせ方とか微妙なバランスがすごく大事。それをAIが超えていくということですか?

 AIは、失敗のデータが蓄積すればするほど性能がよくなって、それを成功にもっていける。さらに、一度成功に到達してしまえば、その先に一切失敗がないというのがAIなんですね。

齋藤 そうです。一度できるようになったら、ロボットですのでもう失敗しなくなる。

 わー、そこが怖いよなー。

篠田 AIが進歩していくと、人間の仕事がなくなるってよく言われるんですけど、弁護士の仕事もなくなるんでしょうか?(笑)

齋藤 いや、ラジオ・パーソナリティも一緒で、なくなるんじゃなくて、弁護士さん本来の仕事ができるようになるんじゃないかなあ。
 ただ、アメリカのデータですけど、今の弁護士さんの仕事の50%ぐらいは交通事故に関するものだそうなんですね。日本は事情がちょっと違うと思いますが。そうすると、自動運転車が普及して、そもそも交通事故がなくなったら、弁護士さんの50%は仕事を失うということに……。

篠田 あっ、たしかに。

齋藤 あと、アメリカは英語社会なので、英語ができれば弁護士はアメリカ人じゃなくてもいい。たとえばITがもっと普及して、世界のどこでも、英語をはじめとする勉強がお金がかからなくてできるようになれば、アフリカの子どもが猛勉強をして弁護士になって、アメリカ人弁護士の仕事を奪うという可能性もある。AIに関係なくはないのですが、直接仕事を奪うのは必ずしもAIではない。
 ただ、AIはすべてをデータとして見ています。そうすると、弁護士さんとか、税理士さんとか、司法書士さんとか、いろいろな資格がありますが、これは人間からの見え方が違うだけであって、AIにとってはすべて同じデータですよね。

篠田 そういうことを一括で処理できるAIが登場すれば、もう弁護士の仕事はなくなる。それは本当にそうだと思います。
 ただ、弁護士には、相談者さんに法的なアドバイスをするとか、裁判を起こして問題を解決するとか、いろいろ仕事があるんですが、そのうち半分ぐらいは、悩みに悩んで相談にきた人の気持ちに寄り添って、一緒に闘って、最終的にいい解決ができたら一緒に喜ぶといったことなんですね。それはAIにはできないことなんじゃないかなと思ってるんです。

 たんなるデータ処理じゃない部分ということですよね。

篠田 はい。今後AIに負けずにやっていくには、そういう自分にしかできないことを伸ばして、そこをしっかりやっていかなきゃいけないんだと思います。

 ああなるほどね、AIの時代の到来が、自分の仕事を見直すきっかけになるということですね。
自分にしかやれない仕事を見つけておかないと当然それは奪われちゃうし、AIが奪っていくと思っていたら、全然違うところからライバルが登場して奪われる可能性だってある。

篠田 逆に、さっき齋藤さんが言ったように、AIが助けてくれることによって、本来自分だけができることをもっと増やしていけるという側面もありますよね。

齋藤 あると思います。

 斎藤さんは、AIについて僕たちよりも圧倒的に詳しいじゃないですか。

齋藤 いや、そんなこともないんですが……。

 そんな齋藤さんには、未来がどういうふう想像できてるんですか? 俺たちと絶対違いますよね、齋藤さんが頭の中で描いている未来って。

*けん玉をするペッパーの動画はこちら。

 

 * * *

 シンギュラリティを意識すると、未来の見え方はどう変わるのか? 人生観も変わってしまうのか? 第3回は9月12日公開予定です。

「ロンドンブーツ1号2号 田村淳のNewsCLUB」(文化放送)は毎週土曜日 13:00~14:55の生放送。過去の放送はラジコのタイムフリーで聞けるほか、毎週多彩なゲストが登場する「今週のすごい人」は、番組HP内web radioでも配信中です。

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シンギュラリティ・ビジネス

2020年代、AIは人間の知性を超え、2045年には、科学技術の進化の速度が無限大になる「シンギュラリティ」が到来する。そのとき、何が起きるのか? ビジネスのありかた、私たちの働き方はどう変わるのか?

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齋藤和紀

1974年生まれ。早稲田大学人間科学部卒、同大学院ファイナンス研究科修了。シンギュラリティ大学エグゼクティブプログラム修了。2017年シンギュラリティ大学グローバルインパクトチャレンジ・オーガーナイザー。金融庁職員、石油化学メーカーの経理部長を経た後、ベンチャー業界へ。シリコンバレーの投資家・大企業からの資金調達をリードするなど、成長期にあるベンチャーや過渡期にある企業を財務経理のスペシャリストとして支える。エクスポネンシャル・ジャパン共同代表、Spectee社CFO、iROBOTICS社CFO、Exoコンサルタント。

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