伊藤忠商事前会長、元中国大使でビジネス界きっての読書家・丹羽宇一郎さんが、本の選び方、読み方、活かし方、楽しみ方を縦横無尽に語り尽くす新書『死ぬほど読書』から、読書の目的についてをお届けします。

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読書は無償のものである

(写真:iStock.com/Choreograph)

 この本を読んでいると恰好よく見える、これを読めばお金儲けができる──読書は本来、このような効用を目的としてするものではないと思います。

 仕事のために必要に迫られて読むようなこともありますが、基本的にはこれを読めばこういうメリットがあるなどと計算して読むものではありません。

 読書は心を潤したり、精神的な満足を求めてする無償の行為だと思います。何かリターンを求めて功利的に本を読むのは、読書の価値を下げるし、著者に対しても失礼だと思います。

 純粋に好奇心から手にとったり、面白そうだから読む。その結果、想像力が豊かになったり、感性が磨かれたりする。効用は先に求めるものではなく、あくまでも結果としてついてくるものです。

 昨今は結果がすべてといった結果至上主義が幅を利かせていますが、もちろん経過も大事です。そもそも経過を大切にしなければ、本当にいい結果は出せません。

 

 視覚障害がありながら国際的なコンクールで優勝するなど、世界的に活躍しているピアニストの辻井伸行さん(1988年~)にお会いしたことがあります。

 コンサートの直後だったので、「あれだけ熱演されたから疲れたでしょう」といったところ、「いえ、全然疲れてません。だって楽しいんですから」という答えがかえってきました。

 練習であれ本番であれ、辻井さんにとってはピアノを弾くこと自体がとにかく楽しいのです。

「音楽を聴いているうちに自然とピアノを弾き始めた」という辻井さんは、練習を辛いと感じたことはこれまでまったくなかったそうです。あくまで楽しいからやっているのであって、努力しているという感覚はないのだと話していました。

 

 メジャーリーガーのイチロー選手(1973年~)は、次々とプロ野球史上に残る大記録を打ち立てていますが、彼は記録だけを目標にして、日ごろの練習に励んでいるわけではありません。野球を通してアスリートの可能性をどこまで追求できるか、その一点に集中しているのだと思います。

 そうやって毎日コツコツと練習に励み、プレイを重ねた結果、偉大な記録が達成されたのでしょう。もし、イチロー選手が記録や大きな報酬だけを目的として野球をしていたなら、あれほどの偉大な選手にはきっとなっていなかったでしょう。

 

 それと同じで、読書も何かしらの効用だけを目的にしていては、そこから本当にいいものを吸収することはできないと思います。

 楽しいから読む。わくわくするから読む。心が潤うから読む。そういう気持ちで読むから本はいいのです。読書は無償の行為ゆえに無上の値打ちを持っているのです。

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本連載は今回で最終回です。続きは幻冬舎新書『死ぬほど読書』でお楽しみください。

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もし、あなたがよりよく生きたいと望むなら、「世の中には知らないことが無数にある」と自覚することだ。すると知的好奇心が芽生え、人生は俄然、面白くなる。自分の無知に気づくには、本がうってつけだ。ただし、読み方にはコツがある。「これは重要だ」と思った箇所は、線を引くなり付箋を貼るなりして、最後にノートに書き写す。ここまで実践して、はじめて本が自分の血肉となる。伊藤忠商事前会長、元中国大使でビジネス界きっての読書家が、本の選び方、読み方、活かし方、楽しみ方を縦横無尽に語り尽くす。