「ふつうの幸せ」が難しい時代です。憧れの仕事、理想の結婚、豊かな老後……を手に入れることができるのはごく少数。しかし、そこで「人並みになれない自分」に焦り苦しむことなく、満たされて生きるにはどうすればいいのか――?
『人生を半分あきらめて生きる』には、人生を上手にあきらめる知恵、そこから生きるエネルギーを取り戻す工夫が詰まっています。
臨床経験豊富な心理カウンセラーの言葉を読み、少しでも気持ちを楽にしてください。

「結婚しない」選択で、人生最大のリスクを回避できる

 ポジティブ心理学の専門家であるプリンストン大学のダニエル・カーネマン教授は、2006年に『サイエンス』誌という、信頼性の高い著名な学術誌に「より裕福になると幸福になるのだろうか――注目による錯覚――」というタイトルの論文を発表しました。

 この論文では、「家計収入が高い人は、幸福だ」と思われやすいけれども、それは「錯覚」だということが証明されています。

 実際の調査は、働いているビジネス・ウーマンを対象に、「前日の気分」を聞くという方法で行なわれました。

 それによると、「収入がかなり高い人」のうち、「悪い気分」であった人、つまり、アンハッピー(不幸な気分)だった人の割合は20%だったのに対して、「収入がかなり少ない人」のアンハッピー率は32%だったといいます。「収入がかなり少ない人」は、半数以上の人が不幸であろうと予測されていたのにもかかわらず、実際には32%で、つまり低収入の人のうち7割くらいは、それなりにハッピーに生活していたのです。

 同様のことが「結婚」の調査でも示されました。

 同じ調査で、40歳以上の「結婚している人」と「独身の人」の「不幸率」を調べて比較したのです。事前の予測では、「結婚している人」の「不幸な人」の割合は28%、「独身の人」の「不幸な人」の割合は41%だったのですが、調査の結果、実際には、「結婚している人」のうち「不幸を感じている人」は23%であったのに対し、「独身の人」で「不幸を感じている人」は、わずか21%しかいなかったのです。つまり、「結婚している人」の方が、「独身の人」よりも「自分は不幸だ」と感じている人が多いのです!!

 結婚は、どんな人にとっても、簡単ではないということがよくわかる結果です。

 独身の方はよく「結婚すれば、幸せになれる」と思い込みがちですが、決してそんなことはありません。

「結婚」すると、人生は激変します。子どもを育てる、パートナーの親の介護をする、家事をする、なにごとも自分一人では決められなくなる。自分で自由に使える時間が途端に少なくなる、自分で稼いだお金なのに、それをどう使うかを、自分で決めることができなくなる……。

 もちろん、結婚で得ることができるものもたくさんあります。しかし、失うものも、それに負けないくらい多いのです。

 そう考えると、必ずしも無理して結婚する必要はありません。むしろ「結婚しない人生」を選択することは、「人生最大のリスクを回避する」ことにつながるとさえ、言えるのです。

「自分が本当に結婚したい」と思っていなかったり、「結婚したいか、どうか、よくわからない」状態のときに、周りの目ばかり気にして、焦って結婚する必要など、まったくないのです。

 

「婚活疲れ」で「うつ」になる

 しかし、やはり「結婚したい」と強く願う男女が多いことに変わりはありません。

 心理カウンセラーをしている私にとって気になることは、「婚活」で自尊心がボロボロになり、場合によっては心の病を負う方が少なくないことです。

「結婚」「恋愛」は人生をかけた一大勝負です。

 相手から断られると、全人格を否定されたような失望感を味わうことになります。

 婚活で何度も何度も断られ、挫折感を味わい続けると、自尊心がボロボロに傷ついてしまいます。自己肯定感(自分はOKだと思う気持ち)が打ち砕かれて、自分の「男性としてのプライド」「女性としてのプライド」が傷ついてしまう方も少なくありません。失恋がトラウマ(心の外傷)となり、心のエネルギーが枯渇して、うつ病になって精神神経科を受診したりカウンセリングを受けにいったりする方も少なくないのです。

「婚活疲れ」が原因で、心の病になってしまう。そんな方を対象にしたクリニックが実際に存在しています。精神疾患全般を治療する、河本メンタルクリニック(東京都墨田区)の中にある「婚活疲労外来」です。婚活疲労外来を担当しているのはこの病院の顧問の小野博行医師で、この方はもともと、うつ病のエキスパートだった方です。婚活の失敗によって、心のダメージを受け、うつ病になる方が決して少なくないことから、そうした人たちのための、「受け入れの場」が必要であると考えて、婚活疲労外来を始められたのです。

 このクリニックには、異性から拒絶されることに対する不安や恐怖、抑うつといった症状に苦しみ、「どうせ俺なんか何度やってもだめだ」「男として(女として)価値がないんだ」といったネガティブな思考におちいった方がたくさん訪れています。患者さんのなかには、婚活で相手に拒否されたことをきっかけに、恋愛や結婚のみならず、人生全般に対してネガティブな思考(どうせ私なんて!)におちいる方が少なくないといいます。

 うつ病の方は、午前中の調子が悪くて、夕方になると元気が出てくるというタイプが大半です。しかし、婚活疲労からうつ病になった方は、合コンなどが夕方から夜にかけて行なわれるせいかもしれませんが、とりわけ夕方にさみしい感情が出てきて悲哀感にさらされるのが特徴のようです。
(『第七章「理想の結婚や恋愛はできない」と、あきらめる』より)

*続きは、書籍『人生を半分あきらめて生きる』をご覧ください。

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「ふつうの幸せ」が難しい時代だ。憧れの仕事、理想の結婚、豊かな老後……そんな選択ができる人はごく少数。日本は、個人の努力とは無関係に、就職できない人、結婚できない人、孤独のまま死んでいく人がますます増える社会になる。そこでは「人並みになれない自分」に焦り苦しむより、人生を半分あきらめながら生きることが、心の奥深く満たされて生きる第一歩となる。自分ではどうにもならない現実に抗わず、今できることに集中する。前に向かうエネルギーはそこから湧いてくる―。臨床経験豊富な心理カウンセラーによる逆説的人生論。