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2017.09.05

NYの池波正太郎と青柳飯

矢吹 透

NYの池波正太郎と青柳飯

 90年代の終わりに、ニューヨークで4年ほど暮らしておりました頃、まだ電子書籍などというもののない時代でございました。
 私を含めて、現地に暮らす日本人たちは折に触れ、日本を懐かしく思うことも多く、日本の小説や雑誌などに対する渇望がありました。
 日系の本屋で輸入物の日本の本や雑誌を、お小遣いを叩いて、購入することもありましたが、少々お値段が張ることもあり、仲間内で読み終わった本を貸し借りしたりして、活字欲を満たしておりました。

 私ととある友人は、池波正太郎の時代小説が好きで、回し読みをし、時折り、感想を披瀝し合ったりして、それはまた楽しいものでございました。
 私たちのお気に入りの、アッパー・イースト・サイドのタイ料理屋で、せめてもの、アジア系の食事を頂きながら、あのエピソードに登場したあの料理がおいしそうだった、などと詮の無い話をよくしたものです。
 当時のニューヨークにも、日本のレストランは何軒かございましたが、そういった店で供されるメニューは、どちらかといえば、立派な「ハレ」の料理がほとんどで、私たちの憧れだったのは、池波正太郎の描く、江戸の庶民が日常に口にするような食事でした。
 浅蜊と大根の鍋、蜆のご飯、蕎麦や茶漬け。鬼平や梅安が、事件の合間に食する、そういった食事にとても惹かれたものです。
 ニューヨークでは手に入れることの難しい食材が多く、自分で再現することもなかなかできない状況がございました。
 
 それから長い時間が経ちました。
 現在、私は東京の、下町と呼ばれるエリアに暮らしております。
 ご近所に、東京ならではの食材を調達できる魚屋や八百屋、など古くからある店が散在しています。
 魚屋や八百屋の店先で、並んだ旬の食材を眺めておりましたら、ふと、江戸前の料理を作ってみたい気持ちが湧き起こってまいりました。
 
 先だって、青柳が季節で少しお安くなっていたのを見つけ、買い求めました。
 お刺身でそのまま頂こうか、ぬたにしようか、などといろいろ考えておりましたが、その日、他に刺身用の魚介を買い求めていたこともあり、ご飯ものを作ろう、と決めました。

 池波正太郎風の飯ものを作りたい、と思ったのです。
 あくまで、「風」です。実際に、池波正太郎が描いている一品ではありません。
 池波正太郎を再読し、レシピをきちんと探り、料理を再現する、という楽しみもあると思うのですが、咄嗟の思いつきでしたし、本を探して、再読するまでの余裕もなく、私の中に残っている池波正太郎の料理の描写のエッセンスだけを頼りに、私なりの勝手なアレンジを加えて、作ることにいたしました。

 青柳(舌切)1人分を2等分に分けておきます。
 半分はそのまま、半分は少量の白だしに浸しておきます。
 大葉と茗荷を刻みます。
 ボウルに一杯分の温かいご飯を入れ、白だしに漬けておいた方の青柳を混ぜ込みます。
 青柳を混ぜ込んだご飯を、椀に盛ります。
 その上に、白だしに漬けず、そのままにしておいた半量の青柳を盛ります。
 上から、刻んだ大葉と茗荷を散らします。
 一番上に、山葵をちょんと載せれば、出来上がりです。
 
 別に醤油を用意しておき、食べる時に上からお好みで醤油をかけ、全体を混ぜながら、頂きます。
 ご飯に混ぜ込んでおいた青柳は、ご飯の熱が入り、やや甘みが増し、上にトッピングしたそのままの方は、フレッシュな味わいが楽しめる、というところがポイントです。

 青柳が大の好物、という友人にお出ししたところ、人生で一番美味しい青柳の一品だった、というお褒めの言葉を頂きました。

 人生の折々に、私は、世界のさまざまな場所を旅して来ましたが、どんなところより、日本を愛してやみません。この国が再び、戦争や紛争に向かうことがないよう、心から祈ります。
 鬼平や梅安の愛した、この国の文化や伝統を慈しみ、育みながら、日々、生きてまいりたいと思うのです。

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