北海道から沖縄まで、ふるさとの「名低山」100座を山岳ガイド協会所属のプロが紹介した『日本百低山』(日本山岳ガイド協会編)より、各都道府県の「名低山」をご紹介。
第24回は、三重の「名低山」朝熊ケ岳、八鬼山から、「八鬼山」を。

八鬼山 yakiyama 尾鷲市 647m

世界遺産熊野古道の難所
輝く熊野灘、ヤブツバキも

三重県は、伊勢湾から熊野灘に面した県である。一方内陸部には、養老山地、鈴鹿山脈から始まり布引山地、台高山脈、紀伊山地と実に多くの魅力的な山がある。尾鷲市にあるこの山は、熊野灘側に位置し、世界遺産の熊野古道伊勢路の最難所「八鬼山越え」として知られる。江戸時代は急傾斜の上り下りに加え、オオカミの危険もあったという。

尾鷲駅から市街地南の矢ノ川を渡った先、トイレのある向井登山口までは1時間少々。マイカーの場合は、この登山口に数台駐車できる。あるいは、大曽根浦駅近くの熊野古道センターの駐車場に車を置き、下山した三木里駅より大曽根浦駅へと戻ってもよい。

道は、最初から登山靴にはつらい石畳である。歩き始めは、車道が並行するなどして落ち着かないが、車道といったん交差した後は、植林の中の静かな道となる。所々にある石仏の柔和な顔に癒やされながらゆっくりと歩こう。古道歩きに急ぎは禁物だ。豊富な雨を受け、びっしりとコケに覆われた石畳の道は、滑りやすい。途中には、籠立場 、茶屋跡などの史跡も見られる。

急な七曲がりを経て九木峠まで来れば、もう山頂は間近である。周囲には、本来の自然
植生である照葉樹の森もわずかながら残り、早春にはヤブツバキの赤い花が暗い森に彩り
を添えて楽しませてくれる。

下山道は二つあるが、江戸道を下りよう。少し先のさくらの森広場まで行き休憩したい。開けた広場では明るく輝く熊野灘の眺望が眼前に広がる。この先は、今までとは打って変わって急な下降となる。道幅も狭く足元も不安定となるので、山歩きの経験の少ない方は、来た道を戻った方がよい。もう一つの下山道、明治道は荒れていて歩きにくい。

急な下降を終え、明治道と合流して名柄一里塚跡まで来れば、名柄の集落は近い。石垣に囲まれた石畳の道は集落へ続き、振り返れば青空にくっきりと八鬼山が映える。伊勢路最難所を越えた充実感に浸りながら、古い家並みの中を三木里駅に向かう。
(日本山岳ガイド協会正会員 上野真一郎)

ガイドの目
平均気温が15度を超す尾鷲では、冬から春が低山歩きの季節であろう。2月にもなれば、尾鷲市の花、ヤブツバキも咲き始め、一足早い春を海風にも感じる。
逆に、年間降水量は4千ミリ近くに達し、夏季の歩行はあまりお勧めではない。
紀勢本線はのどかな景色を眺めながら楽しいが、本数が限られている。尾鷲で前泊して風情ある町歩きを楽しみ、夜にはブリなどの海鮮料理でも味わい、のんびり歩くのも良い。

参考タイム
向井登山口(1時間)−七曲がり(1時間)−九木峠(30分)−八鬼山山頂(10分)−さくらの森広場(1時間30分)−名柄一里塚跡(50分)−三木里駅

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