◯『プラージュ』誉田哲也(Amazon) 
「連続ドラマW プラージュ 〜訳ありばかりのシェアハウス〜」
8月12日(土)スタート 毎週土曜 夜10:00よりWOWOWプライムにて放送(全5話)[第1話無料]

 

 杉井が案内してくれた物件は、
「はあ……こういう感じ、ですか」
 同じ大田区内の南六郷(みなみろくごう)にある、やや風変わりな建物だった。
 家屋、というよりはビルだろうか。いわゆる屋根のような傾斜はなく、ほぼ正方形に近い形をしている。正面から見える窓の数でいえば二階建てなのだろう。ただそうなると、やけに一階の天井が高いことになる。隣のビルと比べてみればよく分かる。二階の窓が、隣の三階のちょっと下辺りにあるのだ。入り口も特徴的だ。一階部分の壁面は縦に三等分されており、左右がクリーム色、真ん中がオレンジ色に塗り分けられている。入り口は、そのオレンジの部分にある。小窓付きの、レトロな木枠のドアには、グリーンのペンキで「Plage」と書いてある。プラゲ? いや、プレイグか。佇(たたず)まいはアパートというより、むしろお洒落なカフェだ。
 杉井がドアを引き開けると、軽やかにカウベルが鳴り響く。
「邪魔するよ」
 そうひと声掛けると、
「いらっしゃいませ……ああ、杉井さん。早かったですね」
 低めだがよく通る、女の声がどこからか応えた。
 中は、案の定カフェになっていた。思った通り天井が高く、大きなシーリングファンが二つも回っている。窓が何ヶ所かあるので、全体に雰囲気は明るい。右側には高めのロングカウンター、左手には丸テーブルが三ヶ所、一番奥には低いソファテーブルの席が一ヶ所ある。妙にガランとして見えるのは、店の広さに対して席数が少ないせいだろう。どことなく、映画に出てくるアメリカのドライブインに似ている。床が板張りだからか。客が一人もいないのは、この時間が準備中だからか。
 応えた女はカウンターの中にいた。大きな黒目が印象的な、小柄な女性だった。年は、たぶん貴生より少し上くらい。三十代前半か半ばといったところ。美人かブスかといったら美人の類(たぐい)だが、それよりも「なんか怖い」というのが貴生の第一印象だった。何が怖いのかは、自分でもよく分からない。いや、「怖い」より「強(こわ)い」かもしれない。なんとなく厳しそうな、杉井ではないが甘えを許さないような、そんな「強さ」を感じる。
 杉井がカウンターの方に進んでいったので、貴生もついていった。
「ジュンコさん、急で悪いんだが、この彼……どうにかならんか」
「ああ、はい」
 ジュンコと呼ばれた彼女が、黄色いタオルで手を拭(ふ)きながらこっちにくる。カウンター越し、瞬(まばた)きもせずに貴生を直視する。
「覚醒剤で執行猶予ですって?」
 こういうことを、ダイレクトに口に出す人なのか。案の定というか、なんというか。
「あ、はい……すみません」
「別に、私に謝ってもしょうがないでしょ」
 貴生の返答も待たず、ジュンコは杉井に視線を移した。
「他所(よそ)は、駄目なんですか」
「こういうのに、いまだ世間は厳しいからな。回るだけ無駄だろう。小菅さんからの紹介なんだ。なんとか、融通(ゆうずう)してくれんか。まだ、ひと部屋空いてるんだろう」
 前後の事情も、各人の力関係も貴生には分からないが、小菅が意外なほど影響力を持つ人物であることには驚きを覚えた。
 ジュンコが、渋々といった表情で頷(うなず)く。
「執行猶予中、ですもんね……ま、仕方ないか」
 大きな黒目が、また貴生のところに戻ってきた。
「うちの事情は聞いてる?」

 

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