(写真:iStock.com/tiero)

「ふつうの幸せ」が難しい時代です。憧れの仕事、理想の結婚、豊かな老後……を手に入れることができるのはごく少数。しかし、そこで「人並みになれない自分」に焦り苦しむことなく、満たされて生きるにはどうすればいいのか――?
『人生を半分あきらめて生きる』には、人生を上手にあきらめる知恵、そこから生きるエネルギーを取り戻す工夫が詰まっています。
臨床経験豊富な心理カウンセラーの言葉をお読みになって、少しでも気持ちを楽にしてください。

「理想の自分」に追いつけない「現実の自分」を否定する

 先に私は、キューブラー・ロスが「喪失」について書いた言葉を、「あきらめ」に置き換えて、こう言いました。

「人生はあきらめであり、あきらめこそが人生である」

「あきらめは人生でもっとも苦しいレッスンのひとつである」

「人はあきらめなくしては成長できない」

 では、本書を読んでいるような向上心の強い人が、「もっともあきらめられないもの」が何かと言えば、それは、「自分自身」ではないでしょうか。

 人は、自分自身をあきらめるのが、もっともつらいのです。

 そして、あきらめられないからこそ、「こんなんじゃ、まだまだ、だめ」「もっともっと、がんばらなきゃ、だめ」と自己否定を重ねていき、さらに自分を追い込んでしまうのです。

 向上心が強い、努力家の方は、「あきらめない気持ち」が強すぎるがために、目標に到達できない自分を否定し、自分を追い込み苦しむ「自己否定傾向」が強くなってしまいがちです。

「現実の自分」が「理想の自分」に追いつかないことで、つねに焦り続けてしまうのです。

 カウンセリングに来られる方や、心理学を勉強される方にも、同様に、向上心の強い方が少なくありません。そして、もうすでにじゅうぶんにがんばってきたように見える方が、どこまでがんばっても「まだ、だめだ」「もっと、がんばらなくては」「こんな私じゃ、だめ」と自分を責めて、自己否定感を募らせていることが、たいへんに多いのです。

 努力家であり、理想が高いことはもちろん悪いわけではありません。

 しかし、「がんばり教」「あきらめない教」の信者とでも呼びたくなるような、何のためにがんばっているかわからないけれど、ただやみくもにがんばり、理想に至らずに苦しんでいる人とお会いしていると、「がんばること」「あきらめないこと」を大切にしすぎることの弊害を実感せざるをえません。

 思い通りの仕事ができないからと、毎日不全感を抱えている。「自分の今の実力はこんなものか」「とりあえず、これでいいか」と思えない。

 思い通りの結婚ができないと、「私の努力が足りないんだ」「自分磨きが足りないんだ」と自分を責めてしまう。

 子育てが思い通りにいかないと、「どうして私はもっといい親になれないんだろう」「この子がこうなったのはすべて親である私の責任だ」と自分を責め、意欲を失ってしまう。

「~できないのは、私のせい」と、いつも原因を自分に見出し(自己責任)、自分を責める自己否定の癖がついてしまっているのです。

 

「あきらめる」と自己否定の念から解放される

「じょうずにあきらめる」ことを学ぶと、余計なとらわれや、自己否定の念から解放されて、もっと安心して、自分の好きなように、自由に生きていくことができるようになります。

 自分の中の無用な「完全主義」や「自分の思い通りにいかないこと」からくる自責の念、自己否定感をやわらげることができます。また、「ふつう」から外れていくことへの不安から解放されて、「安心感のある人生」を送ることができるようになるのです。

 人間の心は不思議です。

「小さなあきらめ」をうまく重ねていくことで、より深いところでは「あきらめない生き方」が可能になるのです。

 逆に、「あきらめ下手な人」は、いつまで経っても、「こんな仕事しかできない自分」「こんな年収しか稼げない自分」はだめなのではないか、と自己否定感ばかり募らせていきます。生きる意欲とエネルギーを減退させてしまうのです。

 いつまでも「真っ白な理想の人生」「誰から見ても欠点のない人生」にこだわってしまうため、だんだんと精神のエネルーが衰退していき、「もういいや」と、人生の根本のところで投げやりになってしまいがちです。「理想」にこだわる完全主義の人がうつ病になりやすいのも、いったん理想から外れてしまうと、生きるエネルギーがそがれてしまいやすいからです。
(『第五章「理想の自分になる』ことを、あきらめる』より)

*続きは、書籍『人生を半分あきらめて生きる』をご覧ください。

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「ふつうの幸せ」が難しい時代だ。憧れの仕事、理想の結婚、豊かな老後……そんな選択ができる人はごく少数。日本は、個人の努力とは無関係に、就職できない人、結婚できない人、孤独のまま死んでいく人がますます増える社会になる。そこでは「人並みになれない自分」に焦り苦しむより、人生を半分あきらめながら生きることが、心の奥深く満たされて生きる第一歩となる。自分ではどうにもならない現実に抗わず、今できることに集中する。前に向かうエネルギーはそこから湧いてくる―。臨床経験豊富な心理カウンセラーによる逆説的人生論。