体長わずか数ミリメートルの小さな昆虫を求めて、アマゾンの密林や広大なサバンナへと世界を旅する昆虫学者・丸山宗利氏。「昆虫こわい」と半ば本気で、半ば興奮を戒めるためにつぶやく丸山氏の旅を追ううちに、虫の驚くべき生態がわかる笑いと涙の昆虫旅行記『カラー版 昆虫こわい』が幻冬舎新書より発売中です。今回はその中から「第9章 でっかい虫もいいもんだ フランス領ギアナその1」の一部を試し読みとして公開します。最近、日本での発見が相次いでいるヒアリ。実際に刺されたことがある丸山氏の体験談をご覧ください。

 

アントガーデンとの対決

 翌日から、昼間は雨の合間を縫っては外に出て、ツノゼミやアリの巣を探す毎日が始まった。ツノゼミはペルーに比べるとかなり少ない。やはり森が良すぎるのだろう。

 あるとき、森の中にある木に、植物の生えた黒い塊があるのが目に付いた。よく見るとアリの巣である。「アントガーデン」といって、アリが木屑で作った巣に、自ら植物の種を植え付け、その根で巣を補強した構造のものである。

 少しくずしてみると、中から大量のアリが飛び出してきた。オオアリ属の一種とシリアゲアリ属の一種で、どうやら二種のアリが共同で巣を維持しているようだ。熱帯ではたまにある現象で、東南アジアでも、とくにオオアリとシリアゲアリのなかまが仲良くしていることが多い。

 これは何かいるかもしれないと思い、奇人とたっくんの三人で、巣を解体し、中から好蟻性昆虫を探すことにした。
 オオアリはとにかく凶暴で、咬まれるととても痛い。六~七ミリメートルほどの小さなアリなのだが、大顎の力が強く、咬みつくと放さないうえ、皮膚のやわらかい部分を咬まれると出血するくらいだ。

 そんな感じで全身を咬まれると意気消沈してしまうのだが、たっくんはたまたまツルツルした素材のズボンをはいていて、これだとアリが這い上がってこないという。
 巣の解体はみんなでやるとして、巣の採集はたっくんにお願いすることにした。

 巣の中には、予想通り、いろいろな好蟻性昆虫がいた。とくにアリヅカムシとゴキブリはかっこよく、ゴキブリは本でしか見たことのないミルメコブラッタという非常にかっこいいもので、感激した。アントガーデンにしかいない好蟻性ゴキブリである。

 とにかくこのアリの巣の解体は、アリとの戦いで、満足するころには体中のあちこちに咬みついたアリの頭が残り、血がにじんでいた。しかし、それを補って余りある成果があった。

 

危険なヒアリ

 痛いといえば、ロッジの周囲にはヒアリの一種の巣がたくさんあった。巣は枯れ草を積み上げたもので、よく見るとハネカクシの仲間が歩いている。その巣に板切れや石をかぶせ、たまにひっくり返してみると、それらのハネカクシを容易に採集することができた。どれも本でしか知らなかったものだった。

 そのアリが非常に神経質で、うかつに触るとその瞬間に刺してくるうえ、二~四ミリメートルの小さなアリなのに、猛烈に痛い。一匹でミツバチ一匹に刺されたくらいの痛みで、板切れをどけるたびに何匹にも刺されるのには参ってしまった。しかしハネカクシは欲しいので、結局、毎日のように何度も痛い目に遭うこととなった。

 ヒアリのなかまは南米原産で何種もおり、数種が日本の離島を含む世界各地に外来生物として帰化している。とくに、「ヒアリ」という名のヒアリはきわめて毒が強く、最近神戸に入ったようだが、もし定着したら大変なことになるのは間違いない。すでに定着したアメリカでは毎年のように死者が出ており、日本でも同じようなことになるかもしれない。今後日本で一番気をつけるべき外来の昆虫である。

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体長わずか数ミリメートルの昆虫を求めて、アマゾンの密林や広大なサバンナへと世界を旅する著者は数々の恐ろしい目に遭ってきた。ペルーでは深夜の森で、帰り道の目印に置いた紙片をアリに運ばれ遭難しかけたり、カメルーンではかわいい顔したハエに刺されて死の病に怯えたり、ギアナでの虫採りが楽しすぎて不眠症になったり……。「昆虫こわい」と半ば本気で、半ば興奮を戒めるためにつぶやく著者の旅を追ううちに、虫の驚くべき生態や知られざる調査の実態がわかる、笑いと涙の昆虫旅行記。

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