果たして現在の科学は、どこまで地球外生命に迫っているのか?
そもそも、地球外生命は存在するのか?

研究国立天文台天文情報センターの縣秀彦(あがたひでひこ)さんの新書『地球外生命は存在する!』からの短期集中連載、第4回は地球の生命誕生の謎に迫ります。

 

なぜ地球上の生命は左手型のアミノ酸なのか

 地球上の生命誕生を巡る謎はいくつもあります。そのうちのひとつは、なぜか地球上の生命はすべて「左手型」と呼ばれるアミノ酸のみでできていることです。

 アミノ酸はその構造によって、「右手型」のもの(Dアミノ酸)と「左手型」のもの(Lアミノ酸)に分けることができます。

 例えば、アミノ酸のひとつであるアラニンを見てみましょう。左手型アラニンの場合、アミノ酸を構成しているアミノ基、カルボキシル基に対し、向かって左手側にある水素が近くのメチル基と結びつく構造をとり、右手型はその逆です。つまり、鏡に映すと、ぴったりと重なるような関係が右手と左手の関係です。これをホモキラリティと呼びます。

左手型のアミノ酸と右手型のアミノ酸

 

 とても不思議なことに、地球上の生命体に含まれるすべてのアミノ酸は、左手型のアミノ酸です。アミノ酸を化学的に無作為に合成する際には、右手型になるか左手型になるかは確率の問題で、どちらかでなければならないという理由がないため、右手型と左手型は同数生まれます

 では、なぜ、地球上の生命体は左手型しか利用しないのでしょうか。

 タンパク質を合成する際、もし、左手型のアミノ酸に右手型のアミノ酸が混じってしまうと、結合するときの向きが合わず、ペプチド結合した後、タンパク質の特徴である丸まった構造をとることができなくなります。そのため、左手型には左手型のアミノ酸、右手型には右手型のアミノ酸というように、ホモキラリティが同じタイプ同士を集めないとタンパク質の合成ができません。

 けれども、地球上で左手型のアミノ酸のみを形成することは不可能なため、宇宙空間で、ある条件の下に形成されたのではないかと考える研究者が増えています。

 

隕石の中のアミノ酸が教えてくれたこと

 宇宙からの情報は、光や電波すなわち電磁波として地上で捉える情報ばかりではありません。宇宙に存在する物質そのものが、地球に落ちてくることもあるのです。例えば、隕石や流星、宇宙塵じんなどです。その隕石の中からも、微量ながらアミノ酸が検出されることがあります。

 隕石の中から初めてアミノ酸が見つかったのは、1969年、オーストラリアのマーチソンに落下した「マーチソン隕石」からでした。この発見により、宇宙から生命の素となる物質を地球に届けることが可能であることが証明されたわけですが、さらに宇宙空間では、生命活動とは別の化学反応によって、アミノ酸が合成される可能性も示していました。なんと、宇宙から落ちてきた隕石の中から70種類を超える地球外起源のアミノ酸が検出されているのです。

 

 最近の分析研究によると、ごく一部のアミノ酸に対してですが、「アミノ酸対称性の破れ」が見つかっています。隕石の中では、左手型アミノ酸の方が右手型アミノ酸よりも少し多いことが確認されました。地球上の実験では、左手型と右手型はどうしても同数生まれるはずなのに、宇宙空間では偏ってつくられる可能性があるというわけです。

 地球上の生命はすべて左手型のアミノ酸でできているということは前述の通りですが、なぜ、宇宙においても左手型が多いのでしょうか。

 2010年、福江翼氏をはじめとする国立天文台の当時の研究グループが、星形成の現場として有名なオリオン大星雲の中心部で、「円偏光」と呼ばれる特殊な光が太陽系の大きさの400倍以上も広がっていることを突き止めました。

 円偏光とは光の特殊な状態を指す言葉ですが、この円偏光の光がアミノ酸生成時の対称性を乱し、理屈のうえでは左手型か右手型のどちらかを多くつくり出すことがすでにわかっていました。

 福江氏らの観測結果は、オリオン大星雲のような大質量の星が生まれている現場においては、何らかのメカニズムで円偏光が発生し、その影響を受けて形成されるアミノ酸には左手型が多いと解釈できます。つまり、宇宙空間、特に星間分子の集中する大質量星形成の現場こそがアミノ酸誕生の現場だと考えることができるのです。

 

生命は宇宙で誕生したのか、地球上で生成されたのか

 地球上の生物の生存極限を調べてみると、温度122℃という過酷な環境下でも生き長らえる生物が見つかっています。さらには、pH12・4というかなり強いアルカリ性の環境下でも、高塩分の中でも、1000気圧以上の高圧の世界でも、生息可能な生物がいることがわかっています。

 つまり、人類が快適とは思えない環境=とても生きていけない環境でも、生命は存在することができるのです。広大な宇宙においても、生命が生まれるかどうかは不明ながら、住み着いて生きていける環境はたくさんありそうです。

 近年、地球大気の高層部にまで微生物が存在することが明らかになってきました。生命は、いったいどんな環境下まで耐えることができるのでしょうか。

 

 もし、生物が宇宙空間でさえ生きたまま移動することができるなら、宇宙には普遍的に生命が存在するのかもしれません。この考えを「パンスペルミア仮説」と言います。

 パンスペルミアとは、ギリシャ語でパン=汎(すべて)+スペルム=種を意味する言葉が語源となっており、パンスペルミア仮説は「汎種仮説」または「宇宙種広布説」とも呼ばれるアイデアです。

 もともと18世紀に提唱されていましたが、スウェーデンの科学者でノーベル化学賞も受賞しているスヴァンテ・アレニウスが、1908年に出版した著書の中でこのアイデアを紹介し、広まることになりました。パンスペルミア仮説という言葉も彼が名づけたものです。

 彼は著書の中で「生命を伝える『種子』は、宇宙を漂流している。それらは惑星に遭遇し、生命が存在し得る環境が成立するやいなや、惑星の表面は生命で満たされる」と記述しています。

 しかし、この仮説が発表されてしばらくは、科学者の多くは懐疑的でした。なぜなら、そんな証拠は見つかりそうもなく、検証できない空論のように思われたからです。当時、多くの人々は、最初の生命が誕生したのは地球上のどこかだと考えていたのです。

 けれども、生物の耐久性に関しての研究成果のほか、先ほど説明した通り、宇宙空間にもアミノ酸が豊富に存在している可能性が示唆されているいま、生命の素となるアミノ酸やタンパク質が地球上でしか生成されないという考えは、完全にその論拠を失ってしまいました。

 さらに、パンスペルミア仮説を支持する生物学者は、46億年前に地球が誕生し、その直後のあまり物質変化の余裕がない40億~38億年前にはすでに生命が誕生していたことの不思議さを、この仮説ならうまく説明できると主張しています。

 外界と自己を分ける単純な1枚の膜が形成された後、数億年程度でなぜ、自分と外界を区別することができ、選択的に膜から物質を出入りさせ、さらには自己を複製するという極めて高度な化学反応をコントロールできるようになったのか、いまだにうまく説明することができないのです。

 原始地球は酸性が強く、アミノ酸の合成には不向きな環境でもありました。であれば、アミノ酸は宇宙からやってきたと考える方が合理的です。

 しかし、タンパク質や生命そのものが宇宙からもたらされたという仮説には、いまのところ何の証拠もなく、想像の域を脱しません。

 

 地球上の生命体の遺伝子を詳しく調べ、その進化の過程を追った結果として、タンパク質の合成や生命そのものの起源、すなわち「RNAワールド」が最初に発生したのは、高温の条件下であったことは、現時点ではほぼ間違いないようです。そして、そのような条件を満たす、原始海洋の深海底における熱水領域で最初の生命が誕生したという説と、原始大陸の火山地帯で熱水の存在するところ、つまり温泉のような場所で誕生したという説の2つの地球上誕生説と、パンスペルミア仮説の3つの説が、三巴(みつどもえ)で激しく議論を戦わせている段階です。

*   *   *

※次回「織姫と彦星が長電話になってしまう理由(仮)」は7月7日(火)公開予定です

この記事をシェア
この連載のすべての記事を見る

★がついた記事は無料会員限定

縣秀彦『地球外生命は存在する! 宇宙と生命誕生の謎』
→試し読み・電子書籍はこちら
→書籍の購入はこちら(Amazon)

「人類が21世紀中に、地球以外の星で生命を見つける可能性は50%以上」と著者。というのも、地球外生命が存在する可能性が高い、地球とよく似た環境の系外惑星(太陽ではない恒星を周回する惑星)が、最近になって次々と発見されているからだ。地球外生命は、人類のような生命体なのか、それともはるかに進化した生命体なのか? そもそも生命はどのように誕生するのか。生命誕生の謎から系外惑星探査の最新動向まで、わかりやすくドラマチックに解説。人類究極の謎に迫る一冊。