「ふつうの幸せ」が難しい時代です。憧れの仕事、理想の結婚、豊かな老後……を手に入れることができるのはごく少数。しかし、そこで「人並みになれない自分」に焦り苦しむことなく、満たされて生きるにはどうすればいいのか――?
『人生を半分あきらめて生きる』には、人生を上手にあきらめる知恵、そこから生きるエネルギーを取り戻す工夫が詰まっています。
臨床経験豊富な心理カウンセラーの言葉をどうぞ。


「なるようにしかならないこと」は手放していい

 この人生、「努力すれば報われる」などというのは真っ赤なウソで、いくらがんばっても、何ともならないことだらけです。多くの人の人生は、仕事も、お金も、恋も、結婚も、友人関係も、子育ても、思い通りにならないことばかりです。老いや病や突然の死も、ある時、否応なく襲ってきます。そして年を重ねれば重ねるほど、また人生のある時点で一挙に、この「思い通りにならないこと」は増えていきます。それが、ふつうの人のふつうの人生です。多くの人は、顔では笑っていても、心のうちでは、何か「思い通りにならないこと」の一つや二つは抱えていて、その思い通りにならない現実を「ま、いっか」とあきらめ、割り切りながら生きているものです。

 そんな、思い通りにならないことだらけの人生を、何とか生きしのいでいくためには、「がんばること」「あきらめないこと」ばかりでなく、それと同等か、ある意味ではそれ以上に、「じょうずにあきらめること」が重要になってきます。それは、「人生は、真っ白ではなく、といって真っ黒でもない、濁りきったグレーなもの」であるということを受け入れていく喪の作業です。この「人生のさまざまな可能性を少しずつあきらめ、現実を受け入れていく力」なしでは、厳しい現実を生きしのいでいくことはできないのです。

 にもかかわらず、「がんばること」「あきらめないこと」の重要性はしばしば説かれても、「あきらめること」の大切さは、あまり説かれることがありません。あきらかに過小評価されています。

 そして、そのためか、私のもとに相談に見えられる方の多くも、「がんばれないこと」ではなく、それ以上に、人生のさまざまな可能性を「あきらめられない」ことに苦しみ、悶もん々もんとしながら、日々を送っています。何かを求めて、「もっともっと」と向上心を持って生きてきた多くの人にとって、「あきらめること」は、しばしば「あきらめないこと」よりはるかに難しいことであり、受け入れがたい苦痛を伴うものだからです。「ま、いいか」「仕方ないか」と深くあきらめることができれば、フワーッと安心感が広がっていくのに、「あきらめてはだめだ」「もっとがんばらなくては」という思いを手放せないために、「どうしてだめなんだ」と自分を責めたり、「何とかしなくては」と焦りや不安ばかりが募っていくのです。

 そこで求められるのは、「じょうずにあきらめる」知恵と工夫です。「いくら努力しても、何ともならない」という「人生の厳しい現実」を、最初は自分から切り離して、見ないようにしたり、考えないようにしたり工夫して、少しずつ少しずつ受け入れていく。そして、人生の大半を占める「どうしようもないこと」「なるようにしか、ならないこと」を少しずつ、少しずつ、じょうずにあきらめながら、心のいちばん深いところだけはしっかり満たされた生き方を心得る。

 さまざまな困難に直面しながら、何とか、幸福な人生を手に入れている人の多くは、いろいろなことをじょうずに「あきらめたり」「手放したり」しながら、人生の本当に大切なこと、たましいのいちばん深いところだけは、しっかりと満たし続ける。そんな智ち慧えと工夫を身につけているものです。

 

じょうずにあきらめる力

 私たち心理カウンセラー(心理療法家)の仕事の一つは、悩んでいる人が「努力しても、何ともならない」という「過酷な現実」に、少しずつ向き合い、人生を、少しずつ、少しずつ「あきらめていく」そのプロセスをうまく支えていくことです。

 いきなり過酷な現実に直面させるのではなく、その現実や、自分の中にある「割り切れない気持ち」を、少しの間、自分から切り離しておいて、「見ないように」「考えないように」する工夫をいっしょに考えて、そしてできるだけ、「とりあえず、今、できること」に集中する。心をひどく傷つけたり、人生に絶望したりすることなく、無理がないように、自分にやさしい仕方で、安心感を抱きながら、「小さく、じょうずに、人生をあきらめていく」。カウンセラーは、相談に来られた方のそんな「あきらめる作業」をサポートしていくのです。

 本書を読み進まれていくうちに、「ま、いっか」と何度もつぶやきながら、いろんなことをあきらめていけるような気持ちになったり、自分を取り巻く厳しい現実を「それでも、いっか」「そんなもんか」と、安心して受け入れていくような力を得ていただければ、幸いです。

 読んだ後に、私のカウンセリングを5回くらい受けたような気持ちになれる、そんな本を目指しています。
(プロローグより)

*続きは、書籍『人生を半分あきらめて生きる』をご覧ください。

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「ふつうの幸せ」が難しい時代だ。憧れの仕事、理想の結婚、豊かな老後……そんな選択ができる人はごく少数。日本は、個人の努力とは無関係に、就職できない人、結婚できない人、孤独のまま死んでいく人がますます増える社会になる。そこでは「人並みになれない自分」に焦り苦しむより、人生を半分あきらめながら生きることが、心の奥深く満たされて生きる第一歩となる。自分ではどうにもならない現実に抗わず、今できることに集中する。前に向かうエネルギーはそこから湧いてくる―。臨床経験豊富な心理カウンセラーによる逆説的人生論。