全体の95%を占める「親に認められていないAV女優」

 1月に発売された「うちの娘はAV女優です」では、親がAVに出ていることを知っている「親公認AV女優」たちを取り上げた。

 もちろんAV女優たち全員が「親公認」ではない。皆が稼業について親に打ち明けられるわけではないし、親が認めて、応援してくれているわけではない。親公認でAV出演している女優ほどメディア露出の機会が増えるため、彼女たちに当たる光は強まっているから、その存在が際立っているだけで、数としてはごく一部である。そんな説明も本書では記した。

「アケミンさんの作品は上層AV女優の話なんだよね。それなりに努力をした勝ち組。エリート層。上位5パーセントかな」
 刊行にあたっての対談では、ライターの中村淳彦氏はこのように述べていた。

 残り95パーセントはどうか。親には言えずに「東京でOLしているよ」と話しているから、住民税や保険料やマイナンバーの話はできるだけ避ている。一度はバレてしまったので表向きは「辞めた」と言いながらも「次の仕事が見つけるまで」細々とAV撮影を続け、残りの生活費は風俗でまかなっている。デビュー早々に親バレてして引退したものの親がどうにか作品を回収できないか弁護士に相談している…そんな「親非公認AV女優」がマジョリティかもしれない。

「親に打ち明けるかどうか」という問題に24時間体制で向き合えるわけでもなく、それは一旦保留にして、気持ちを切り替え笑顔でファンと接し、体調を整えてセックスをして、今月の家賃とカードの支払いをどうにかすることのほうが優先事項だったりする。

 イベントでもらうハンドクリームとジェラピケの部屋着は自分で買う必要はないくらいには甘やかされているし、隠れ家バーで出会ったイケメンと一夜を過ごす程度にはチヤホヤされている。でもちょっと目線を自分の足元に再び向け直すと、これから親とどのように向き合っていこうか、という問題が頭にチラつく「親非公認AV女優」たちが抱える苦悩や煩わしさも、親公認AV女優たちの決意や覚悟と横並びでこの世界には横たわっている。

 そんな「親非公認AV女優」の中で「うちの娘はAV女優です」を買った、と報告してくれたひとりの女優がいた。「みんな色々大変な状況をくぐり抜けているんですよね。親との問題で悩んでいるのは私だけじゃない、って思って何度も読み返しています」

 そんなけなげなメッセージをマネージャー経由で送ってくれた大島悠里(仮名、20歳)に今回、話を聞いた。


大島悠里(おおしま ゆうり・仮名)
20歳 栃木県出身
母親(55歳)、姉(26歳)、兄(22歳)の4人家族 
両親は2歳のときに離婚、母方に引き取られる
158センチ 
スリーサイズ B85(C)W58 H85
2015年に大手単体メーカーと専属契約を結ぶ単体女優としてデビュー、現在は企画単体女優として活躍中。


母親はAVの仕事を絶対許してくれない

「今年の春、お母さんが事務所にやってきてマネージャーと話しました。めっちゃ大変でしたね。まさに修羅場。お母さんは『AVなんて断固として許さない』って。縁も切られた。まだちゃんと確認してないけど、戸籍も外すって言われてます、どうなってるのかな」

 取材当日、時間通りに事務所の会議室に現れた悠里は、開始早々このように切り出した。白を基調としたスタイリッシュなオフィスの清潔で静謐な空間に悠里の声がよく響き渡る。ブラインドが全開になった南向きの窓からは、初夏の日差しが降り注ぎ、悠里のみずみずしい頬を照らしている。

「AVデビューしたのは18歳のとき、高校卒業した年で夏頃には撮影を始めたいましたね。半年ぐらいは誰にもバレてなかった。平和。でも作品が発売されて半年ぐらい経ったころ、お姉ちゃんにツイッターのアカウントがバレたのがきかっけで、お母さんに話がいった」

 2015年秋、大手メーカーと専属契約を結ぶ単体女優としてデビューした。黒目がちの瞳が印象的なクッキとした顔立ちにバランスの取れたスタイル、そしてなにより18歳という若さはAV女優として無敵の武器だ。月1回の撮影をコンスタントにこなし、約1年間の専属契約を終えた現在は、さまざまなメーカーの作品に出演する「企画単体女優」として活動している。また最近ではレズやアナル、SM、レイプドラマなどハードな内容の作品にも出演している。

「お姉ちゃんからは、お母さんに私から直接話すように言われました。しばらく無視していたけど、デビューして1年ぐらいたった時かな、私が言わなかったらお姉ちゃんが自分がお母さんに言う、って言い出したので仕方なく電話で打ち明けました。私の話を聞いたら、お母さん、すごくびっくりしてた。そして何度も『大丈夫なの? 売られたんじゃないの?』って聞かれた」

 AVを辞めて地元に帰るように説得されたが、悠里が帰ることはなかった。
 
「『これはお前だけの問題じゃない。一家の恥だ』そんな風にも言われましたね」

 その後、母とは音信不通になった。2月には二十歳の誕生日を迎えたが、家族とは顔を合わせることはできなかったという。

「特に去年の秋から冬にかけては、精神的にどん底。なにかあると衝動的にガーって食べて、ひたすら吐いた。誰にも会いたくないし、気分の差も激しくて。自分でも意味がわからないぐらいテンションが上がったり、下がったりしていました」

 撮影や仕事以外では自宅に引きこもった。マネージャーたちは、そんな彼女を心配し、一日に何度も生存確認のLINEを送った。ときには寝られないと訴える悠里に付き合い、朝までカラオケや居酒屋で過ごすことも多くあった。もちろん男女の仲はご法度だし、過酷な精神状態の中では下心を抱く余裕は悠里にもない。そんな彼女のもとに今年の3月、母親が突然上京し、事務所で話し合いが行われた。

「お母さんには『お前はなにをやってるんだ!』 って何度も責められましたね。でも私が言えるのは、『私は仕事してるんだよ』ってこと。ごめんね、って言う気持ちはないし、なんで認めてくれないの、って言う疑問しかなかった」

「なんでお前はその仕事が好きなんだ! おかしい!」

 母親は声を荒げ、何度も繰り返した。しかし話は平行線に終わった。

「ヴイ(AV)の撮影は、仕事として本当に好き。私の中身そのものを受け入れてくれるんですよね、Vは。受け入れてもらえてうれしいし、達成感がある。この仕事を始めてはじめて知ったんです。絡みの最中は、特に何も考えてないですね。とにかく集中してます。他のことを考えるスキもない。その日の撮影が全部終わったら…もうすご〜〜くハイになってますよね。クスリやるとこんな風になるのかな、って思っちゃうぐらい、あはは!」

 刺激、高揚、達成感。その若い肌でリアルに感じた手応えは、どれだけ言葉を尽くしても母親に伝えることはできなかった。

「本当は、すっごくさみしいかった。今でもさみしいし、お母さんに会えないのが辛い。思い出さない日はない。お母さんに会いたい」 


暴力とセックスがむき出しだった家庭環境

 悠里は栃木県小山市で生まれた。両親は彼女が2歳のころ離婚、2つ上の兄と6つ上の姉と共に母親に引き取られた。離婚後、母親は地元の駅前でスナックを開き、休みなく働いた。
 
「私、本当にお母さんが大好きで、高校のときも寝るのも一緒、お風呂も一緒。学校から帰ったら、すぐお母さんにべったりみたいな子だった。ず〜っと一緒。高校を卒業するときも就職せずに、お母さんのスナックで働きたいと思っていた」

 悠里は友達以上に恋人のように母親を慕っている。スナック開店後、しばらくすると母親には10歳ほど年下の恋人ができた。その男は、ほぼ毎日のように悠里たちの家に入り浸るようになる。

「中学のころまでは、あの男がいたし、お母さんとは一緒にいられなかったから、私がお母さんにべったりなのは、その反動なんです。……ほんとアイツは最悪。無職だし、暴力振るうし、虐待するし、最悪!」

 顔を歪めながら、悠里は吐き出すように語る。
 
「殴る蹴るだけじゃなくて辱めみたいなのがあって、頭にパンツ被らされたまま家の外に出されたりした。お母さんがいない夜は特に暴力がひどくて〜私もお兄ちゃんもあざだらけでしたね。なにかと理由をつけて殴るんですよ。テレビがちょっと故障した、とかほんのちょっとしたことでキレて殴る。あとは飼っていた犬の毛をむしったり、何日も物を食べさせなかったり。血が出たら針と糸で縫うみたいな、おかしいでしょ!」

 ときに男は騒ぎを起こし、警察が出動することもあったという。

「そんな異常なやつと過ごしてた時期は地獄でしたね。友達とも遊びに行けないし。いっつも相手の顔色を伺っていた。夜、家の前で車の音がするたびに『あいつが来る』って常にビクビクしてた。自分の部屋に逃げ込んでも兄と姉の泣き声や殴られる音が聞こえるのが本当に嫌だった」

 聞こえてきたのは、泣き声だけではない。

「家ではみんなセックスばっかりしてましたね〜。お兄ちゃん以外、してたんじゃないかな〜。お母さんが最初、その男とセックスして、それが収まったと思ったら、今度はお姉ちゃんの声が聞こえる。私も中学のころには『すごいな〜』と思ってその声を聞きながら、部屋で自分でしてた。家にはその男が読んだエロ本がいっぱい落ちてたし、お姉ちゃんがベッドの下に隠してたバイブやローターをこっそり使ったりしてましたね、あはは。学校の友達にはエロいとか変態って言われてた!」

 セックスと暴力が当たり前のように存在していた。やがて彼女が高校に上がるころ、男は一家の元を去っていった。

「生活は全然変わりました。友達と自由に遊べるし、なにより殴られる恐怖もない。恐怖に怯えなくていいって幸せ! だってうちのママも脅されていたからね〜しょうがなかったと思う。男が来なくなって『やっと別れられた!』って言ってたから。もうホント、ひどいやつだったなあ〜。あ、でもそのあとそいつ、糖尿病と心筋梗塞になって、こないだは失明しかけたって噂を聞いた。私たち兄妹を虐待した報いが来たのかも!」

 どことなく芝居がかったコミカルな口調で悠里の話は続いていく。

「でもね、今はなんとも思ってないから、もうそのころのことは、どうでもいいしねー!」
 

AVの仕事だけが集中して続けられる

「お母さんと一緒にいたかったけど、地元にはいたくなかった。刺激がほしかったし、私はこのまま人生をここでやり過ごすのかなっていつも思ってた」

 高校3年の冬、女友達と興味本位で始めたマッチングサイトで知り合った男性から、スカウトマンを紹介された。何度かチャットをしただけで、オフラインで顔を合わせることはなかった。高校卒業後、地元のファミレスでアルバイトをしていた時期にそのスカウトマンとは初めて会った。その直後、AV出演の話を持ちかけられた。

「もちろん最初は怖いところかなって思ったけど、話していてみたらみんな親切だし、すぐに決めた。今はAVの現場は本当に好き。だって私、今までなにをやってもうまくいかなかったから…」

 途端に悠里の表情が真剣になり、その語気が強まる。

「なにをやっても人と違うことをしてしまう。みんなと同じことができない。馴染めない。集団行動ができない。浮いてしまうし、友達からは信頼できないって言われたり、それで落ち込むこともあった。達成感なんてなかったな〜。集中できないんですよ、どうしても注意力が欠乏している。たとえば一人でテストをやっていて終わらなくて私だけ次の時間まで居残りになる、とかね。私、変なんですよ〜!  一生懸命やったとしてもみんなと同じようにできない、一人だけなにをやっても遅いことにずっと悩まされて生きてきた」

 家事全般も不得意だ。現在は都内のワンルームで一人暮らしをしているが、部屋の片付けも苦手ですぐに散らかしてしまう。

「わかってます、これってADHDっていうんですよね。ネットで診断すると全部当てはまるし、病院に行ってアドバイスを受けてみようと思っていますっ!」

 悠里は笑顔で続ける。

「でもね、ヴイ(AV)をやってるときって唯一、集中できるんですよね。絡みもお芝居のシーンも『よーい、スタート!』でスイッチが入る」

 悠里のセックスシーンは独特だ。クライマックスには別人格が憑依したように激しく悶絶し、全身を痙攣させて絶頂する。時には白目さえ剥くこともある。その異常なまでのセックスへの没入感と集中力の高さは制作スタッフからも定評がある。

「ええ〜やだ〜なんで見たことあるんですかっ! 恥ずかしい〜!」
 
 頬を赤らめながらも、嬉しそうな様子で悠里は語る。

「本名の自分でセックスするのと『AV女優・大島悠里』としてセックスするのは、全然違うんですよ。カメラが回った瞬間に自分が変わる。どんなにハードなプレイでも、その設定通りにのめり込むことができるんです」

 特にドラマものの撮影では、本名の彼女でも大島悠里でもなく、作品の主人公になりきってセックスをする。

「その子がどんなセックスするんだろうって考えて、その女の子になりきってセックスするのが楽しいんです。逆に本名の私のまま、カメラの前でセックスしろって言われたほうが怖いかな」

 最近ではプレイの幅も広がっている。

「こないだやったアナルもののVRの撮影は難しかったな〜!  あとベテラン女優さんたちとの共演はやっぱり緊張する。セックスって深いですね〜。これまでカメラにどう映ったらいいのかだけ考えていたけど、どれだけ相手を気持ち良くさせられるか、っていうことを教わりましたね。一生懸命やるのはいい、でも単に激しくやるのは違うって、監督さんが現場で丁寧に話してくれて。あとはイベントも好き。こないだファンの人と握手したら、緊張して手が震えているんですよ。誰かに喜んでもらえているんだな〜って思うとすごく嬉しい。毎日勉強だし、やりがいを感じます!」

「AV女優・大島悠里」のセリフは、淀みなく続いていく。そしてふと和らいだ表情になり、また一息ついて語りだした。

「私の理想は、家族にこの仕事を理解してもらって、みんなで東京に住むこと。お母さんのために、働いていい思いをさせてあげられたら嬉しいな。一緒に東京で映画を見に行ったり、ぶらぶらショッピングをしたら楽しいだろうなって! 本当は今は、それがしたい。『今日は仕事でこういうことがあったんだよ〜』って話したい。自分は人に流されやすいところもあるけど、母親はすっごい頑固だし、なかなか意見を変えない人だと思うからまだまだ難しそうだけど」

 最後に恒例の質問をぶつけてみた。

──もし自分の娘が、AV女優になりたいと言ったらどうする?

「させていいと思ってる。その子がやりたいことをさせたい。ただやるからにはテッペンを狙え、って言いたいな〜。子どもには歌も習わせて、なんなら芸能界にも行かせたいな〜! 私自身が勉強をまともにやってこなかったから、子どもには勉強をまともにさせたいんです。勉強も歌も、そしてAVもやりたかったらさせる!自由にさせたいと思います。お母さんは、この業界を知らないからこそ、私が無理やりやらされてるんじゃないかって思うんだろうな。あ〜あ〜、お母さん…この仕事、理解はできなくても、せめて許してほしいよね」


ずるくてしたたかで、でも律儀でけなげな女たち

 数年後、彼女に会った際には「あんなことあったけど、今は親も応援してくれています」と語る親公認AV女優として書ける日が来ることを望んでいる──なんて書くと、体(てい)のいいまとめだと言われてしまうかもしれない。

「親に認めてもらえないけど頑張ります!」 と言ったその口で現場をドタキャンすることだってあるだろうし、来月には地元に帰っているかもしれない。AV業界だから私はやっていける、ここでしか生きられない、なんて言ってカメラの前で裸になっても、また再び、服を着ている時間のほうが長くなったっていい。

 親は愛しているから娘を応援するし、愛しているから、人前でセックスを見せるなんて許さない。

 娘たちも、「AV女優として全てを捧げる」なんて美談では到底収まりきらないし、悲惨で不幸な話で終わるほどヤワじゃない。

 ずるくて美しくて、したたかでけなげで、きまぐれで律儀な女たちを、これからも書いていきたい。
(終わり)

 

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AV女優は、親も応援する普通の職業になったのだ。「裸を売る仕事」をめぐる親子関係、価値観の変容を浮き彫りにする衝撃作!

「お母さん、ごめんね。
……でもどうして、謝らなくちゃいけないんだろう。」
―――紗倉まな(AV女優)

「AV女優は別世界の存在ではない。
彼女たちの言葉には、常に現代社会が映し出されている。」
―――中村淳彦(ルポライター)