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2017.06.20

障がいに向き合う母子の物語

小松 成美

障がいに向き合う母子の物語

 58年もの間、障がい者を雇いながら、業界トップシェアを成し遂げた日本理化学工業株式会社。現在も、社員83名のうち62名が知的障がい者であり、福祉と経営の両面で注目を集めています。

 この「日本でいちばん大切にしたい会社」をノンフィクション作家・小松成美さんが3年間にわたり取材し、一冊にまとめた『虹色のチョーク』では、働く社員に加え、普段語られることの少ない障がい者のご家族へのインタビューを通して、「働く幸せ」を伝えています。今回は番外編として、小松さんが障がい者福祉の取材を通して出会った、「トゥレット症候群」という発達障がいのある娘を持つ母親・福井千陽さんの取り組みを紹介します。

*  *  *

発達障がい「トゥレット症候群」の理解啓発活動をする母

 日本理化学工業には3割弱の健常者の社員と7割強の知的障がい者の社員がいる。

 健常の社員たちは皆、「働く喜び」「人の役に立つ喜び」をチョークやキットパスに込めている彼らの姿に心を揺さぶられている、と言った。そして、それは日本理化学工業の社員だけではない。

「障がいのある者が仕事を持ち、輝いて生きていけるのだと、誰かに求められ社会の一員として認められるのだと示している日本理化学工業は、私にとっての希望です」

 そう語るのは、トゥレット症候群の娘を持ち、その障がいを知ってもらうための活動をしている福井千陽さんだ。福井さんは、日本理化学工業の存在が、社会や企業が障がい者を容易に受け入れ、それぞれの能力を活かす社会の扉になる、と話す。

 本書で紹介した本田真士さんや中村傑さんのお母さんと同じように、福井さんも娘の未来に心を動かさない日はない。

「日本理化学工業のことは、ずいぶん前から報道で知っていました。当時の私は、国際協力NGOに勤務していて、途上国で貧困に苦しむ方々のために少しでも役立ちたいと願っていました。それこそが、世界平和につながると信じて仕事をしていたのです。日本理化学工業の知的障がい者雇用という取り組みと、安心安全なチョークを先生や子どもたちへ届けるという事業は、分野は異なれど社会のために活動しているという意味で、同志のような存在だな、と思っていました。それから約10年を経て、私にとって日本理化学工業の存在は、一つの希望になりました。それは、私の娘がトゥレット症候群を発症し、学校でも社会でもその居場所を見失ったからでした」

 トゥレット症候群は、自分の意思に反して、突然「オッオッ」と急に声を出してしまったり、まばたきや首振りなどを繰り返してしまったりする、いわゆるチック症状が慢性化する脳の機能障害だ。「運動チック」と呼ばれる「身体を動かす」ものと、「音声チック」と呼ばれる「音を発するもの」があり、その両方が1年以上続くとトゥレット症候群と診断される。

 奇声や不規則な体の動き、光やある素材への拒絶反応など、周囲から見れば「奇行」や「非常識行動」に見えてしまう疾患に見舞われた娘を守り、また理解を求めるため、福井さんはたった一人で「トゥレット症候群の理解啓発活動をする母」と名乗り、地道な講演活動を続けている。

「中学生になる娘は、学校生活を普通には過ごせていません。小学校1年生の秋に診断されてから、わずか2年ほどで突然、絶叫するチックが始まりました。全身を前後にゆらしながら、動物の叫び声のような雄叫びが止まることなく続き、生活する集合住宅の近隣に響きわたりました。『動物は飼っちゃいけないんですよ』という苦情に、娘の発作の説明をした日々を今も忘れることができません。喉が切れそうなその叫びは体力を奪い、チックのうねりの合間に『助けて~』と嘆く娘の姿に、何も出来ることがなく呆然と見守るしかない無力さと、このような病気を持たせて産んでしまったことへの申し訳なさで、私の心ははち切れそうでした。以後、一時も止まない娘の疾患と闘いながら、社会の理解こそが唯一の救いになると啓蒙活動を始めたのです」

 そんな福井さんが、娘の未来を思うとき、常に心の支えになったのが日本理化学工業と大山会長の存在だった。

「人は成長を遂げた先には誰もが仕事を持ち、糧を得て生活をしていきます。しかし、それが容易にはできない人もいます。娘もその一人かもしれません。母親として私が生涯を賭けて守りたい、と思います。しかし、それ以上に、社会やそこに暮らすすべての人々にこの疾患を理解し、娘を受け入れてほしいと考えます。その先には、彼女が社会の一員として活躍できる場に巡り合ってほしいとも願います。日本理化学工業のような会社が、日本の規範になる日が来れば、娘も安心して仕事をし、生きていけるでしょう」

 福井さんは、小さな活動を積み重ねながら、娘が加護されるだけでなく世の光となって生きる社会を信じている。

 

「トゥレット症候群の理解啓発活動をする母」福井千陽(ふくい・ちはる)さん

伊藤忠ファッションシステム(株)勤務を経て、国際協力活動へ転身。アフリカ・ザンビア共和国にある、マザーテレサの施設にてボランティア活動を行う。その後、フェアトレードNGOにて商品企画や営業を担当。国際協力NGOオックスファム・ジャパンではビッグ・ファンドレイジング・イベントの立ち上げに従事。現在は、全国各地でトゥレット症候群の理解啓発活動を続ける。

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小松成美『虹色のチョーク 働く幸せを実現した町工場の奇跡』
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「彼らこそ、この会社に必要なんです」

社員の7割が知的障がい者である“日本でいちばん大切にしたい会社"を、小松成美が描いた感動のノンフィクション。
人は働くこと、人の役に立つことで幸せになれる――。

神奈川県川崎市にあるチョーク製造会社・日本理化学工業株式会社は、昭和12年に小さな町工場からスタートした。昭和35年に二人の少女を雇い入れたことをきっかけに、障がい者雇用に力を注ぎ、「日本でいちばん大切にしたい会社」として全国から注目を集め続けている。
現在も社員83名のうち、62名が知的障がい者。一人一人の能力に合った仕事を作ることで、彼らが製造ラインの主戦力となり、社員のほとんどは定年まで勤め上げる。同時に、彼らの作るダストレスチョークは業界シェア1位を誇る。
今でこそ福祉と経営の両面で注目を浴びるが、ここに辿り着くまでには数々の苦悩と葛藤があった――。
本書は、日本理化学工業の会長や社長、働く社員、さらには、普段語られることの少ない障がい者のご家族へのインタビューを通して、「働く幸せ」を伝える一冊。

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