セックスレス、産後クライシス、家事ハラ、夫婦喧嘩……。これらを単に「悪いもの」として嫌って避けるだけでは、夫婦関係はうまくいきません。どのみち通らなければならない「成長痛」と捉えることで、うまく経験していけば、成熟した人間関係をつくることができるのでは? と、そんな夫婦論が展開されたのが、育児・教育ジャーナリスト・おおたとしまささんの最新刊『〈喧嘩とセックス〉夫婦のお作法』(イースト新書)。

今回はおおたさんが、30代向け女性誌「VERY」編集長の今尾朝子さんと、父親のための育児雑誌「FQ JAPAN」編集長の宇都直也さんをゲストに迎え、「夫婦クライシス」をどうのり超えるか、そして、お互いにどう気持ちよく自由に生き、そして働いていくかについて一緒に考えてみました。(2017年5月19日、本屋B&Bのイベントより)

 


夫はどこにいるんだ?

おおた 今日はご来場どうもありがとうございます。『〈喧嘩とセックス〉夫婦のお作法』(イースト・プレス)の出版記念ということで、豪華ゲストを迎えて語り合えたらなと思っております。ではさっそくゲストをご紹介させていただきたいと思います。まずは『VERY』の編集長の今尾朝子さん。

今尾 『VERY』で編集長をしております今尾です。今日はよろしくお願いします。

おおた ではもう一方、日本唯一のイクメン雑誌『FQ JAPAN』編集長の宇都直也さん。

宇都 『FQ JAPAN』の編集長をやっている宇都です。只今校了中でございます(笑)。

おおた そうなんですよね。こちらが『FQ JAPAN』最新号(2017年4月号)で、表紙は反町隆史さん。ちなみに『VERY』最新号(2017年6月号)では……。

今尾 おおたさんにご登場いただきました。「男がわからない!」という連載なんですけど。

おおた はい、私も出ております。青木裕子さんと対談をいたしました。
今日のトークは、「夫婦関係がうまくいく生き方、働き方」というテーマですけれども、さっそく最近話題になっているおむつメーカーのすごく象徴的な動画を見ながらお話ししたいなと思います。

おおた 映像の最後に、「その時間が、いつか宝物になる」と出てきますよね。これが今話題になっていて、実はこの「炎上」に関しては僕もモヤモヤしているんです。
まず一つは、男性が出てこない。夫はどこにいるんだという話と、それから最後の決め台詞「その時間が、いつか宝物になる」がどうなんだと。あれで美化してしまって、「だからいいだろう」というふうには収まらないよね、という辺りが主なポイントかなと思います。
一方で、CMを作る側の立場からしてみると、こういうふうに孤立無援の状態でなんとか耐えて頑張っているママたちに寄り添いたかったんだろうとは思うんですね。ただ、最後の決め台詞がちょっと美化というか、いわゆる「ワンオペ育児」を容認しちゃっているということになるんじゃないかと。BGMの歌はちゃんとメッセージ性があったし、そこもあわせてみればもう少し理解されるのかなと思うんですけれども。
では今尾さんに個人として伺いますが、今お子さんは?

今尾 もうすぐ3歳です。

おおた バリバリのワーキングマザーであるという立場とメディアを作る側、発信する側として、この問題を両方からどう捉えているかをお聞きします。

今尾 個人としては、あまりなんとも思わなかったというか。私もこの立場でそんなことを言っていたらいけないんですけれど、SNSに疎くてあまり炎上ネタとか知らずにいつも注意されるという感じで、実は知らなかったんです。『VERY』では小島慶子さんに執筆していただいていて、次号のエッセイでちょうどこれを書いていてくださっていたので、それで知ったみたいな。

それで動画を見てみたら、別に個人としては普通で、「こんなだったよな」みたいな感じ。映像も別にびっくりするような映像じゃないし、こんなときもあったよなと思って。最後の言葉にしても、そんなに気にならずに、大らかに見ていました。今世の中には共感を生もうとするものがCMや自分の媒体も含めてあふれているから、特にはなんとも思わなかったんです。

ただ、結論がピンとこなかった。おむつが助けてくれるわけじゃないしな、と。逆に『VERY』を作っている立場としては、自分もしがちなことなので気をつけたいと思いました。

おおた まさに、まとまっているようでまとまっていない。体操競技でいうと、「着地失敗したな」みたいなね。

今尾 「なんとも思わなかった」と言ったのは、悪い意味ではなくて、一部を切り取ったらああなるだろうし、普通に共感して終わってしまったという感じだったので、「なんでそれが炎上するんだろうな?」というのが、正直なところですね。


ターゲット以外の人も目にしてしまうCMの難しさ

宇都 実はこれ個人的にはちょっとありだなと、思っていたんですよね。この映像のタイトルに「はじめて子育てするママヘ」とあったので、たぶん右も左もわからないママに対して「泣いてもいいよ」という歌だったんじゃないですか。その辺はありじゃないのかなと思っていたんですが。

ただ、この映像がトークの題材になるということだったので、ちょっと読者のパパたちに投げかけたら、「ひどいね」というような言葉が結構あるんです。うちの編集部にもママがいるので話を聞いたら、子育てである程度つらい体験をしている人たちが反応しているかなと思いました。

実際に作る側からすると、一定のターゲットに向けて作っていると思うけども、今のSNSとかYouTubeとかはそれ以外の人に伝わるので、それ込みで作れなかったのかなと。逆ブランディングになってしまった。

今尾 でも、これをパパがちゃんと「ひどい」と言えるってすごいですね。

宇都 あと、「今日これ言ってください」と読者に言われたことがあります。赤ちゃんが泣いていて、ママがちょっとうつろな感じのシーンがあったじゃないですか。「かわいらしい1歳ぐらいの子が飛び出してきました。その子の1・5メートルぐらい後ろをママらしき人が、その子の背中をぼんやり見つめながら出てきました」。要はそのママらしき人は「危ないよ、止まって」の一言もなく無言で、うつろな感じで子どもの後ろをついていったけど、子どもの挙動は読めないから急に飛び出さないか心配じゃないか、という話だったんですね。そこに、いいイメージを持てなかったという方がいました。

おおた なるほど。もちろんおむつメーカーはママを敵に回すようなことを意図してやるわけはないので、気持ちとしては寄り添おうと思っていたと思います。ただ、「やっぱりそんな綺麗事じゃすまされないよね」という印象を残すことも確かだろうなと思いますね。

これ、当然育児を経験している女性も製作に関わっていたはずです。もしも、ママがボロボロになって「危ない!」という大ピンチのときに、パパが登場して「ああ、大丈夫?」とねぎらいながら、「大丈夫だよ」と子どもの世話を笑顔で引き取って、ママも笑顔になったというハッピーエンド……だと、それはターゲットとしている人たちは、「うちとは違う」と思うわけですよね。その辺がやっぱり難しいなと。
こういう情景は当事者以外に見えない情景だからこそ、みんなに見せようと思って作ったんですよね。だから誰も周りに登場人物がいないという作りは、設定として合理的ではあると思うんですよ。でも、やっぱりいろんな受け止め方があるというのが、育児にまつわる夫婦関係の難しいところだなというふうに思います。


産後クライシス、『VERY』と『FQ JAPAN』の場合

おおた 夫婦関係、家事分担、子育てに関する夫婦の関係というところは、どうしたって炎上することが多いわけなんですけれども、「産後クライシス」という新しい言葉が2012年にNHKの情報番組「あさイチ」で大きく取り上げられて話題になったことがありました。産後クライシスという言葉は、今かなり浸透しましたよね。『FQ JAPAN』も『VERY』も特集でいろいろ扱ったと思いますが、宇都さんの『FQ JAPAN』ではどのような感じで?

宇都 2013年には巻頭、フロントでやりましたね。結構、世間的には危機感をあおるような感じでしたけども、やっぱりお父さんは鈍感といいますか気づかないので、とりあえず危機感をあおるような感じで出しました。おおたさんにも書いていただきましたね。

おおた 『FQ JAPAN』の読者、育児を頑張っているパパたちの反応はどうだったんですか。

宇都 実は読者アンケートに関しては、ママのほうが多くて……。

おおた パパ雑誌なのにママからのほうがリアクションが大きい!

宇都 例えばFacebookだと「いいね」を押さない人が多いけども、ウェブのクリック数は多いみたいな、反応がちょっと見えづらい部分のなかで、やっぱり気にはなっているのかなとは思いましたけれどね。

おおた パパ雑誌の立場からはなかなか見えづらいということでしょうか。『FQ JAPAN』を読んでいる人たちは、「俺は大丈夫だぜ」ときっと思っているでしょうからね。

宇都 たぶんそこを勘違いしているなというのは、雑誌を作っている中でちょっと感じますね。「格好いいイケメンの育児もできるお父さん」という感じで取材をしていて、奥様に「すごいですね、格好いいですね、育児もこんなに頑張られて」と言ったら、「はぁ……?」みたいな感じになる。この差というのはありますよね。

おおた 今のは「イクメンの妻あるある」ですよね。確かに育児をやっているとは思うんだけど、妻としても、奥さんとしても、100%認めるのは悔しいところもあるかなと。『VERY』では産後クライシスはどんな扱いで?

今尾 やっぱりあのNHKの番組があって、産後クライシスというのに読者の方がすごく注目されて、そのキーワードが頭に入ったところで誌面化したのが2014年2月号でした。誌面ではNHKの番組を作った方に出ていただいたり、読者さんに処方箋をということで産後ケアのNPO「マドレボニータ」さんや何人かにご登場いただいたりしたんです。「産後クライシスって特別なものではなくって、産後の人たちはみんな産後クライシスだよね」ぐらいの認識で、今2017年は産後クライシスという言葉を使うときもあるし使わないときもあるし、その渦中にいる方たちが『VERY』読者の方たちだという気持ちがあるので、いろいろ形を変えて今も企画はしています。

おおた なるほど。赤ちゃんが生まれた後の夫婦のごたごたというのは、多かれ少なかれみんな経験するとは思うんですけど、そこにパシッと言葉が入ってそれぞれの体験にハマッたんですよね。

NHK「あさイチ」で取り上げられたときには、ベネッセがとったデータが出てきました。「配偶者といると、本当に愛していると実感する」の設問に対して、そう感じている夫の割合が妊娠期は74・3%だったものが、子どもが生まれた直後は63・9%まで下がり、さらに2歳児のときには51・7%まで下がるというグラフです。
 

それが今度、妻側から見たときに、最初のスタート地点は同じく74・3%なんだけれども、子どもが生まれた直後には半分を切って45・5%、子どもが1歳になったときには36・8%、2歳のときは34・0%まで下がっている。

夫婦の差が約18%あるというところで、「ほら、奥さんの愛情がこんなに減っているのに、旦那さんはなにをのんきなことをやっているの」「こうやって愛情を失っていることに男が気づいていないから産後クライシスになるのよ」みたいな論調で、最初はまとめられました。


「あさイチ」の報道は一面的だった?

おおた ただ、まず一つ言えるのは、だんだん愛情が減っているのではなくて、「本当に愛している」に堂々と「YES」と答えられる人数が減っている、ということですね。

さらに、もしこれが逆だったらどうですか? 旦那さんのほうが子どもができてから34%しか妻のことを愛していないと言ったら、それはそれで問題だったでしょう。「こんな大事なときに、頑張っているところも含めてちゃんと愛さなきゃダメでしょう」みたいな話になって批判されると思うんですよね。そういう意味で、男性の過半数が奥さんのことを、「本当にこの人のことを愛している」と捉えていること自体は、もともとポジティブな意味があるのではないかと思います。

だけど、そこで「育児や家事をちゃんとやらない男性は見放される」「こうならないように、育児も家事ももっと頑張りましょう」みたいな文脈で報じられたので、僕はちょっと違うかなと思ったんですね。

実はこのベネッセのデータは、さらに見ていくともう一つ質問をかぶせているんです。「私と配偶者は幸せな結婚生活をおくっていると思う」と「配偶者といると本当に愛していると実感する」とは、下がり方が違うんですよね。要は、幸せではある、本当に愛している、をYESかNOかで問われるとちょっと微妙だけれども、「結婚生活として幸せか?」と言われると、夫婦でほぼ一致しているんですよ。ずれていない。
 

番組では最初のデータだけを取り上げて、「これだけ愛情のひらきがある」というけれども、これは「愛情のひらき」じゃない、「割合のひらき」なんですよ。

さらに、家事や育児の助け合いに関して、「私と配偶者は子育てや家事などの分担に関して、お互いに助け合っている」と思っている割合は、妻のほうが高いんですよ。

宇都 これ意外ですね。

おおた 夫のほうが謙遜しているんだと思いますけれどね。だから、決して男性のほうが「俺はやっているぞ」で、それに対して奥さんから評価が低いというわけじゃなかった。
 ついでにもう一つ。「お互いに相手の不満に耳を傾けている」割合もほぼ一致しているんです。ということで、最初のあのデータは確かにセンセーショナルなんだけども、他のデータも丁寧に見ていくと、必ずしも夫婦関係が壊れたことを示しているわけじゃないんですよね。

かつ、私自身が「パパの悩み相談横丁」というオンラインで、悩みをメールで受け付けてお答えするというサービスをやっているなかで、パパたちの「僕は一生懸命やろうと思っているのだけれど、妻が認めてくれない」「家事も育児もこれだけやっているのに認めてくれないだけではなくて、妻からあまり愛されていないような気がして寂しい」みたいな悩みを訴えられる感覚からすると、パパだけを悪者にするというのは違うんじゃないかなって。

むしろ先ほどの「18%」のひらきは、要は「妻からあなたのことを愛していない」と思われているパパたち、自分は愛しているけれども妻は愛してくれていないというパパたち。たぶん、その18%が僕のところにメールを送るんですよ(笑)。この語られ方は一面的だなと思って、当時いくつかのウェブ媒体でコラムを書きましたけども。


「幸せホルモン」オキシトシンの拡大解釈

宇都 『FQ JAPAN』でも「イクメン」という言葉が流行語になって、この2013年辺りから「アンチ・イクメン」みたいな話が出てきたように思います。それで誌面でもイクメンという言葉を使うのを、ちょっと控えたんですよね。

おおた 『FQ JAPAN』は季刊なので年4回出ていて、2010年にイクメンが流行語大賞を獲った年は、4号ともタイトルが「イクメン」だったんだよね。

宇都 乗っかっちゃっているんですけれど(笑)。ただ、この頃から「イクメンという言葉自体がどうなの」みたいな空気がすごくありましたし、タレントさんを取材していても「イクメンって……」と。

おおた つるの剛士さんとか嫌がりますよね。

宇都 嫌がりますよね。「やって当然でしょ」「美化するのはどうなの」と。

おおた それは世の中が進んできたからこその話だとは思いますけれども。

今尾 最初の「配偶者といると、本当に愛していると実感する」という女性側のグラフの下がり具合は本当によく聞くことだし、逆に自分のことだけど「なんで下がるんだろう」「なんでここまで嫌うんだろう」と女性は思うことすらあるわけです。
そんなときに、NHKスペシャル「ママたちが非常事態!?」でも脳科学的に女性はその時期にこういうホルモンでそういう感情がわくとか、おおたさんの本にも書いてありましたがオキシトシンがどうなっているとか、感情論だけではなくて冷静に科学的に言ってもらえたことは、女性にとってすごくわかりやすいし、客観的に自分のことをわかったと思うんです。『VERY』でも脳科学者の方に出ていただいて記事を作ったんですけども、そういうことって必要だと思います。

おおた そうですね。むやみに恐れる必要はなくて、知ることですよね。
「ママたちが非常事態!?」では、「幸せホルモン」とも言われているオキシトシンを取り上げていましたよね。愛し合っている人がハグしたり見つめ合ったりするとオキシトシンが出たり、ママが赤ちゃんに母乳をあげているとオキシトシンで幸せな気持ちになったりする。そのときって幸せな気持ちになるだけじゃなくて、その対象に対しての愛着も増す。一方で、オキシトシンがほとばしる対象を誰かが傷つけようとしたときにはその対象を命がけで守ろうと、本当の母性本能というのかな、そういうことも働くということが番組の中で報じられていたわけです。

でも、オキシトシンの作用を拡大解釈して、「だから旦那さんが役に立たないと余計にイライラする。攻撃性が増す」というふうに番組内では報じていましたが、それは「赤ちゃんを傷つけようとした者に対して攻撃性が増す」だけであって、別にパパが手を出したりするのでなければ働かないはずなんです。なにもしないパパに対してイライラしちゃうのは、おそらくプロラクチンというホルモンのほうです。母乳の分泌を促進する作用があります。

イタリアの研究では、プロラクチンが敵対的感情に関係していることが報告されています。近寄る者すべてに警戒心を発揮する、子連れの熊みたいな状態になるんですね。これは鳥とか多くの生き物について共通していえることだそうですが、それをごっちゃにしてオキシトシンのせいにしていました。「モヤモヤとしたなにか気持ち悪い産後の夫婦関係」を「産後クライシス」というパッケージ化によって、概念として伝えやすくなったのはいいのですが、間違った解釈が多かったように思います。
(後編に続く)

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