毎日を1%ずつ新しく生きる! 刺激と感動のマガジン&ストア

★がついた記事は無料会員限定

2017.06.07

第1回

結婚した瞬間、夫婦の財布は法律的にひとつになる

藤沢 数希/山口 真由

結婚した瞬間、夫婦の財布は法律的にひとつになる

「結婚」とは、国の制度です。
この意味するところを、きちんと把握できている人は少ないのではないでしょうか?
2月に『損する結婚 儲かる離婚』を上梓した作家の藤沢数希さんと、弁護士を経て、現在は大学院で家族法を研究している山口真由さんが、日本の結婚制度に抱く問題意識、現行の制度に対して思うこととは? 3回にわたって語り合います。
(構成:池田園子)

 


夫の稼ぎの半分は自動的に妻のもの

山口 損する結婚 儲かる離婚』、拝読しました。法律的観点からみると結婚には、「財産」の側面と「身分」の側面があります。本書は財産寄りに書かれていますね。

藤沢 とくに「婚姻費用」についてはかなり頁を割いています。簡単に言うと婚姻費用とは、夫婦の収入から税金と生活に必要な経費を引いて残ったお金を夫婦で平等にわけるためのもの。夫の所得、妻の所得、子どもの数と年齢から、家庭裁判所でほぼ機械的に算定され、離婚成立まで支払われる必要があります。要は、婚姻届を出した瞬間に財布がひとつになる、という劇的なものです。

山口 法律上、日本の婚姻制度では、結婚している間はずっと夫婦のお財布は別々というのが原則です。離婚するときには、婚姻期間中に築き上げた財産を夫と妻で、概ね半分にするという運用がなされており、夫だけがものすごく稼いでいる場合でも、妻は半分もらう権利がある、というのはすこしおかしい、という意見もありますね。

藤沢 もちろん、結婚している間、お財布をどうするかは、それぞれの夫婦が勝手に決めればいいわけですが、信頼関係が壊れて、司法の場に出ていくと、婚姻費用と財産分与で実質的にお財布をひとつにすることを強制されますね。それが、本で伝えたかったひとつのポイントなんですが、日本人のほとんどが、この婚姻費用をはじめ、結婚に関する法律を知りません。離婚騒動になって、裁判所から毎月の支払い命令が出て、はじめて婚姻費用の存在を知る、というのが実情です。決められた額を数ヶ月支払って、ようやく「結婚ってこういう仕組みだったんだ……」と理解することになるんです。

現在も家族法を研究する山口真由さん

山口 そうかもしれませんね。

藤沢 婚姻費用の支払いが滞ると、給料や預金など何でも差し押さえられてしまいますから、まともな仕事をしている人なら逃れることは無理ですね。当たり前ですが。婚姻費用を受け取る側、ほとんどは女性側なんですが、まとまった婚姻費用を受け取れると、なかなか離婚に応じません。相手に非があるように見せて、やむにやまれず別居している体で、婚姻費用を搾取し続けるわけです。

また、理屈の上では、妻が働き始めて収入を得るようになれば、それに伴い婚姻費用も減ることになりますが、実際は、別居中の妻が働いているかどうか、夫にはわかりませんから、延々と満額払い続けることになります。コンピ(婚姻費用)地獄ですね。こうなっても、日本の裁判所は簡単には離婚を認めてくれません。

山口 裁判で、婚姻関係が破綻しているとして離婚が認められる条件のひとつに、「別居期間」の長さがあります。特に、不倫をしたりして、婚姻関係を破綻させる原因を作った「有責配偶者」からの離婚請求に対して裁判所は厳しく、昭和の時代には「30年以上」の別居期間を以ってはじめて離婚を認めたケースもありました。最近では短期化していて、両方ともに原因があるケースで、5年を切る別居期間で破綻が認められる場合もあります。

藤沢 それでも5年単位なんですよね……。また、奥さんが子どもを連れて出ていった場合は、まず、離婚は認められませんね。だから、養育費よりだいぶ高い婚姻費用を、払い続けることになりますね。


青天井の婚姻費用には上限を設けるべき

山口 成人していない子どもがいれば、婚姻関係の破綻を理由にした離婚は認められにくい傾向がありますが、子どもがいないと5年以下の期間で離婚が認められた判例もあります。有責主義(相手の不倫など特定の離婚原因がない限り、離婚請求を認めないこと)から破綻主義(実質的に破綻している夫婦であれば、離婚請求を認めること)になってきているのは、世界的な趨勢と言われています。

藤沢 でも、妻が離婚したくないと主張すると、そう簡単には離婚できませんよ。子どもが成人しているケース、子どもがいないケースでも、5年単位なわけです。それすらも早い方で、10年くらいかかることが多い。その間、自分の稼ぎの半分、奥さんが子どもを育てていれば7割程度を払い続ける必要がある。個人的には、子どもを育てているお母さんに父親が支払う、というのは腑に落ちても、子どももいない別居中の奥さんにお金を払い続ける、という制度はおかしいと思います。やはり、1年くらいで離婚を認めてあげればいい、と思うんですけどね。

山口 1年はちょっと早いかもしれません。離婚が認められるための別居期間があまりにも早くなると、また別の問題が生じると思います。日本では結婚時や第一子出産時に、女性が専業主婦になるケースが多いです。結婚によって、妻が夫に経済的に依存する関係ができあがった場合、妻に「婚姻解消したのだから、今すぐ社会に出て稼ぎなさい」とするのは酷です。婚姻費用には上限を設けるべき、ともお書きになってますが……。

藤沢 最大でも月100万円ぐらいで止まる養育費とは異なり、婚姻費用は青天井ですから、たとえばダルビッシュ選手と別居した当時の紗栄子さんだと、月1000万円以上はもらえることになります。これは民法に「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。」と定められていて、それが法的根拠になっているのですが。

山口 婚姻費用については、家裁で広く使われる「婚姻費用算定表」に記載された年収の最高額である2,000万円を上限(相手の年収がゼロで子供がいなければ、婚姻費用は月26~28万円程度)として、夫の年収が上がっても婚姻費用はそれ以上増えないという考え方もあれば、増加に応じて増えるという考え方もあり、実務が統一されていないところですね。夫の年収が2,000万円を大きく超える場合には、やはりそれに従って調整される場合が多いようですが。

藤沢 紙面の関係で2,000万円までしか表がありませんが、あれは数式があってそれより上も計算できるんです。ただ、めんどくさいので、2,000万円からそんなに離れていなければそこで止めてくれるラッキーなこともありますが、年収5,000万円の人が月28万円で許してもらえることはありませんね(笑)。また、婚姻中に形成された財産は、妻の内助の功があるから、共有財産の半分は妻の取り分になりますね。昔は、医師やスポーツ選手など特殊な技能を持つ人の場合、2分の1ルールを適用するのは合理性を失する、とする判例もあったようですが。

山口 今は2分の1が原則になっている点で、財産分与の考え方は扶養から清算へと変わってきていると指摘されていますね。


日本社会に存在する「普通の結婚をしない人」へのスティグマ

藤沢 ここまで話してきたように、結婚はお金の面で言うと、所得の多い方が少ない方に、月々の婚姻費用と最終的な財産分与で支払って、所得差が均されてお互いが使えるお金を同じにしよう、ということです。

要は稼いでいるほうが損をする。結婚した途端に財布がひとつになるって、すごいことじゃないですか。年収数千万円の男性が専業主婦と結婚すると、潜在的に稼ぎの半分が妻のものになるんですよ。しかも、生涯ずっと。それなのに、なぜ多くの人はわざわざ法律上の結婚をするんだろう、と僕は不思議なんです。月30万円や40万円、場合によっては50万円ぐらい生活費を払うのはいいと思うんです。しかし、高額所得者の場合は、婚姻費用が月に数百万円になっちゃうこともある。

しかも、信頼関係が破綻して、別居して音信不通になった状態でも、支払い義務だけは残り続け、支払いが滞ればすぐに財産を差し押さえられる。それはおかしいんじゃないのか。もっといいやり方もたくさんあるんじゃないか、と思うのです。

山口 結婚を「身分」の側面で見たとき、夫婦の間に生まれた子どもは嫡出子とされることが、結婚の最大の効果だと思います。つまり、結婚には子どもに男親と女親を確保し、子どもを保護する側面があるということ。そのため、婚姻関係にない男性が子どもを認知しない場合は、認知を求める訴えを起こさなければなりません。認知する気のない男性を親として確保するのは難しいから、その点で結婚という制度にはまだ意義があると思うんです。

藤沢 何かこう気持ち的な意義があるとしても、国が強制できるのはお金の支払いだけですよね。

山口 それに加えて、社会的・象徴的な意味が、日本の結婚では大きな意義かと思います。

藤沢 今や、子どもの約半数が法律上の結婚をしていないカップルから生まれてくるヨーロッパに目を向けると、結婚の社会的・象徴的な意味はあまり重要視されていない気がしますが。

山口 そうとも言えないと思います。というのも、カトリックの国では結婚しない同棲を宗教的な不道徳と結びつけてきた歴史もあり、フランスなどはもともとは婚外子に冷たい法律なんです。ただ、フランスでは今や社会的にはスティグマがない。日本もそうなっていけばいいですが、今もなお事実婚や婚外子への偏見は強いと感じています。

藤沢 そう、おっしゃいますが、日本でも、事実婚で何ひとつ困ることはないですよ。

山口 男女共に意思と法律の知識がある前提なら、事実婚のほうがお互いに良いということもあると思います。国が用意した結婚という制度の枠の外でふたりで自由に決められるわけですから。

ただ、事実婚の男女は簡単に別れる傾向があると感じます。私が知っている事例では、10年以上事実婚状態にあった女性(男性の意向で子どもアリ)が、男性から突然「他の女性と結婚するから」と別れの手紙を手渡され、それで関係を強制終了されても、損害賠償なんかは請求できないというのがありました。たった1枚の手紙で10年もの歳月を清算ですよ……。その後、男性は別の女性と結婚。結婚していれば、奥さんが死亡するか離婚しない限り、他の女性とは結婚できなかったはず。別れにくいというのも、結婚の効果ではあります。

藤沢 それは金融的な側面から制度を眺めれば必ずしもそうではないんですよ。ひとつの例ですが、年収1000万円の女性がヒモみたいな男性と結婚したとします。女の人って、僕が観察した範囲では、ヒモの男性に大した生活費を渡さないんですよ。1日2000円ぐらいしか払わず、これでご飯食べといてとか言って、あとは部屋の掃除とかさせています。こういう場合は、ヒモの男性側に離婚騒動を起こすインセンティブが生じるんですよ。DVや言葉の暴力で追い詰められたとか言って別居して婚姻費用を請求すれば自動的に月に15万円もらえる。掃除をする必要もありません。


稼ぐ女性は事実婚を選ぶほうがいい理由

山口 そのお話とちょっと関連するかもしれませんが、アメリカの興味深い判例を1つ紹介します。夫が医学部生で妻が看護師というケースで、夫に稼ぎがない期間の生活は妻が支えていました。夫の卒業間際に彼が作った原因で、結婚から2〜3年で離婚することになったとき、裁判官は「この結婚の財産はなにか?」と問いました。

藤沢  へえ。

山口 妻は夫が医学部生だった期間、家賃や労働力などあらゆるものを提供し、夫はずっと勉強していました。裁判所は「妻だけが投資をしていて、その結果得られた財産=夫の医学部の学位だ」と判断。それを半分にする、つまり将来的に夫が医師として稼ぐであろう費用の半分を妻のものとする、という結論を下したんです。

藤沢 そんな判決が出たんですね。日本ではそういった人間味のある判決はないですね。離婚に到った個々の事情や背景はあまり考慮されず、単純に所得から婚姻費用が計算される。日本で同様のケース(妻が稼いでいて夫の所得はゼロ。男女が逆の場合も同じ考え方)だと、妻がお金を支払うことになるんですよ。盗人に追い銭状態ですよね。

山口 アメリカは日本と違い、コモンローの国ですからね。

藤沢 アメリカの方が法律では融通が利いていて、柔軟な考え方をしますよね。日本はある意味で、法治国家で、どちらかというと杓子定規的ですね。僕はこの差を教育の違いだとも思っています。日本の教育では、たとえば、現代文という科目では、僕なんかはいろいろな答えがあっていいと思うのですが、テストではひとつしかない答えを求めていくわけです。そのせいか、裁判ではあまり裁判官の個性は出ずに、ブレない判決が出やすいんですよ。

山口 基本的に日本は保守的。判例は徐々には変わっていくのでしょうが、急激に変更されることはほぼありません。加えて、家制度の縛りがある。民法では家制度は完全になくなったものの、その名残は社会の規範として今も残っているように思います。また、こういう考えは誤解だという指摘もありますが、国として結婚(法律婚)に誘導しようとしているのは否定できないのではないでしょうか。法律上でも社会的にも、結婚しない限り、子どもを持つことは好ましくないとされているふしがある。

藤沢 これまでは稼ぐのはほとんど男性だったのですが、いまは所得格差がなくなってきて、女性も稼ぐようになった。高収入の女性が婚姻費用や離婚時の財産分与を支払わなければならないケースも多くなってきています。実際に、以前勤めていた外資系の金融機関では、数千万円稼いでいた女性の同僚がいたんですが、彼女は離婚騒動になって多額の金銭を払うことになりました。

山口 男女関係なく、社会で稼ぐ力のある人が稼いだお金をそうして再配分していくのは、悪いことではないんじゃないでしょうか。

藤沢 僕も男女同権はいいことだと思います。その点では、山口さんと同じ意見です。ただ、実感として、そういう気概のある女性は少ないと思います。その同僚の女性にしろ、こんな自分が払うんだったら結婚しなかった、と言っていました。多くの女性は基本的に「結婚とは幸せなものだ」と信じていて、まさか、そんな自分が支払う側に回るとは思っていないわけです。

山口 まあ、そうですね。

藤沢 僕も、あえて自分より低収入の男性と法律婚をする意味はないのに、と思いますよ。男性はやむにやまれず結婚しなければいけない場面はありますが、女性はそうでないのだから、事実婚も選択肢に入れればいいと思うんです。しかし、法律的なことを知らずに結婚する女性が多くて、そのうちの何人かは大変な金銭的な損失に直面します。そういうこともあって、こうした本を書こうと思ったんです。
(第2回に続く。6月12日公開予定です)

 

★がついた記事は無料会員限定

関連書籍

藤沢数希『ぼくは愛を証明しようと思う。』
→試し読み・電子書籍はこちら
→書籍の購入はこちら(Amazon)


はあちゅう/藤沢数希『男と女がいつもすれ違う理由』
→試し読み・電子書籍の購入はこちら(幻冬舎plus)
→電子書籍の購入はこちら(Amazon)


山口真由『ハーバードで喝采された日本の「強み」』(扶桑社)
→書籍の購入はこちら(Amazon)

記事へのコメント コメントする

コメントを書く

コメントの書き込みは、会員登録とログインをされてからご利用ください

この記事を読んだ人にはこんな記事もおすすめです
  • 過敏な人が、幸福で充実した人生を送るためのヒントを満載。
  • シリーズ累計13万部のベストセラーの第二弾!
  • 実家に久しぶりに帰った姉が、引きこもり中の弟に大事な相談を持ちかける
  • 美人かどうかは目元で決まる。
  • 不確かな未来と冒険の物語を、その情熱で捕まえて、前へ進め!!
  • 異世界に転生した冒険者の視点から、経営のコツとビジネススキルが学べる、異色のビジネスライトノベル。
  • ワケあり男女がシェアハウスに!
  • 人気芸人の、笑って、共感して、思わず沁みるエッセイ集。
  • 物語が、海を超えてつながった——!
  • 専門知識不要、伸び続ける投資法のしくみがわかる
過敏な人が、幸福で充実した人生を送るためのヒントを満載。
異世界に転生した冒険者の視点から、経営のコツとビジネススキルが学べる、異色のビジネスライトノベル。
学生限定 全商品10%キャッシュバック中!
今だけ!プレゼント情報
かけこみ人生相談 お悩み募集中!