漫画家、エッセイストとして大人気のカレー沢薫さん。シュールで自虐的、かつ凛々しい文体に魅了される読者が急増しています。そんなカレー沢さんによる連載エッセイ、テーマはずばり「沼」。そこは、地獄かはたまた天国か。七転八倒しながらも「沼」に飲み込まれていくカレー沢さんの勇姿をとくとご覧ください。

 

私は、1日64時間ほどツイッターをやっており、知識の全てが、そこに流れてくるソース不明情報で構築されているのだが、最近「楽しみは老後に取っておくな」という主張を良く見かける。

老後、趣味を楽しもうにも、まず体力がなくなっているし、足腰も弱って目も悪くなっている、そして何より死んでいるかもしれない。
そんな状態で、旅行や読書、激しいモッシュが楽しめるわけがない、よって体力があり、死んでない状態のうちに楽しんでおけという主張だ。

確かに正しい。
しかし自らの老後を「金と時間はあるけど体力がない」と仮定している時点で「SWEEEEET!」じゃないだろうか。
まず金がないと思わないのだろうか、そして金がない理由は、人には色々事情はあるので一概に本人のせいとは言えないが、若い頃楽しめば楽しむほど老後の金がなくなるのは確かだ。

「楽しいことは若いころの方が楽しめる」
これが正しいとしたら「キツい事は年取ってから耐える方がキツイ」も真な気がする。
暑い、寒い、腹減った、他金がないことで起こる不便は、それこそ若いときは体力で乗り越えられる気もするが、老になってそれらの不便は死に直結しそうだし、なにより惨めになりそうだ。

つまり若い頃楽しむのも大切だが、せめて「屋根のある家でティッシュを食わなくていい老後」を目指して、蓄えることも必要である。

だが、使っちまうんだな、金を。

何故か、愚問だ、回してしまうのだ、ガチャという名の経済を。

突然だが、ちょっと聞け、拒否権はない。
自分のはまっているジャンルの話をしたくてしょうがないオタクに捕まった時は、妖怪に両足を掴まれたと思って諦めろ、尻子玉を抜かれたくなかったら最後まで聞け。
そして反論も同意もするな、全てが1億倍になって返って来る、怪談における「決して声を出してはいけない」と同じだ。


ソシャゲのガチャ。
やったことない人間でもそういう恐ろしいものが存在する、ということぐらいは知っているだろう。
簡単に言うと、くじみたいなものだ、当たることもあるが外れることもある、そしてゲームによって差はあるが、大体そのガチャを10回引くのに3000円ぐらいかかる。
今まで努力や技量が重視されてきたゲーム界に「完全に運と金」という革命が起きたのだ。

普通、革命というのは貧乏人がブルジョワに下克上するものだと思うが、この革命は貧乏人が確実に負けるし、勝とうと思ったらさらに貧乏になる、という逆レボリューション21!なのである。

私は複数のソシャゲをやっているのだが、先日その中の一つFGO(Fate/Grand Order)のガチャに土方さんこと土方歳三が来てしまったのだ。

土方歳三がわからない奴は今すぐ船から降りろ、浮き輪ぐらいはやる。

とにかく、ムチャクチャ欲しいキャラが来たと思ってくれて良い。しかもこのキャラ、正味、二週間くらいしか出ないのだ。

老後の楽しみどころの騒ぎではない。
土方さんは、こっちがババアになるころどころか、二週間も待たないのだ、さすが生き急いでいらっしゃる。

しかし、土方さんは相手がババアだからと言って邪険にしないといいますか?ヘルシングのアーカードの旦那の如く、年を重ねた女性に対し敬意的なものを持って接してくれるいいますか?ドプフォwwwつい夢豚発想が出てしまいましたwwwいや失敬失敬www

ともかく、二週間内に出さなければいけないのだ。
しかし、ガチャというのは努力ができない、何度も言うが全て運と金だ。

そして結果から言うと出なかった。病床にある霊帝よりも「とても つらい」

が辛いかというと、その敗因だ、運がなかった、金がなかった、などというのは言い訳にすぎず、一番の敗因は「理性があった」ことだ。

今の世の中の良いところは「今ない金を使えることだ」
正確に言うと将来自分が稼ぐであろう金を先に使えるのだ、実に未来志向であり、支払い方法もリボとか便利なものがたくさんある。

つまり、まだ戦えたのに、自分でストップをかけてしまったのだ。敵前逃亡による、士道不覚悟で、市中引き回しの上、打ち首獄門である。

しかし、つらい、つらい、と言っても具体的数字を出さないとわかってもらえないだろう。
そこで、私も把握しないようにしてきた、今年に入ってからの課金額を計算してみた。

今までの口座履歴を出力、マーカーでチェックを入れ合計額を出すという、凄腕のマゾにしか出来ない行為をした、ご褒美として、30連ガチャ回していいはずである。

結果は「\268,140」である。
これだけあれば老後しばらくは土などを食わずに生活できるだろう。

そして、これだけ出して、ほぼ何も得ていないのだ。
進撃の巨人の「何の成果も得られませんでしたーー!」は、まだでかい声出す元気あるんだから、いいじゃねえかと思う。
「成果?なかったよ」と、2,3度聞き返されるボリュームでしか答えることができない。

オタクは、自分のはまっているものを「沼」と表現することがある。

好きなものなのに、なんでそんなネガティブな表現をするのか、というと、本当につらいことが起きるからだ。まだ、首までリアル沼につかっている方が楽な時がある。

本コラムは、そんな楽しくてつらい、そしてつらい沼の話である。

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