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インカメ越しのネット世界

2017.05.17 公開 ツイート

逆ブランディングは今日も、よくばりな私を救う りょかち

SNSが広がり、個人がソーシャル上でも情報の集合体となったときから、「ブランディング」という言葉は、個人が持ちうる言葉となった。

はあちゅうさんが『自分の強みをつくる』『半径5メートルの野望』といった著書で綴っている、“なりたい自分をソーシャル上で発信していくことで、その自分をリアルに引き寄せてくる”という言葉は、今になってもなお多くの人の心をつかんでいる。

「キラキラ女子」も「インスタジェニック」も、そんな「みんなが『いいね!』と思う日常を、『自分』として発信していく」という作業を、発信する情報のカテゴリや特徴によって異なる言葉にしたものだ。

TwitterやFacebookといったグローバルに広がる巨大なSNSプラットフォームの中で、「いいね!」ボタンが設置されている以上、私たちの「いいね!」と思われたい欲求は鳴り止まない。

私たちの肩の荷を降ろしてくれる「逆ブランディング」

「ウソじゃないけど本物よりもちょっと背伸びした自分」を発信していくことで、たくさんの人が自分を好きになれたのかもしれない。好きな自分をリアル世界に持ち込んで、たくさんの人に認知してもらえたのかもしれない。

けれど一方で、私はすでにあるブランディングを壊していく「逆ブランディング」のような行為もまた、SNSが個人にもたらした救いであると思う。逆ブランディングとは、「リアル世界で見せるには少し恥ずかしい自分を発信する」という行為のことを言っている。

例えば私はいつも、強気な気持ちでこの原稿を書いているけれど、本当はとっても弱気で、人に嫌われるのが怖くて、凹みやすい人間である。だからこっそり深夜に弱音をTwitterに書いたりする。

さらに本当はとてもだらしない人間なので、酔っ払うとふわふわした気持ちでどうでもいいことを書いてしまう。ときには文章になっていないときだってある。

「そんなみっともないこと、オープンなインターネットでやるべきではない」と思う人もいるかもしれない。だけど私は、このゆるやかな実名文化の上に成り立つ素晴らしいネット上の現象に、何度も救われている。

本当は泣き虫だった「しっかりしてそうな女の子」だった時代

私は幼稚園の頃から「しっかりした女の子」というイメージを背負わされて生きてきた過去がある。

長女だったし、誰よりも身長が高くて見た目が大人びていたせいもあるかもしれない。小さいときから本が好きで、変に斜に構えるところがあったのかもしれない。とにかく、幼稚園の先生からいつも「しっかりしてる子だね」と褒められていたことを今でも覚えている。

そしてそんな私を、お母さんはこっそり甘やかしてくれた。「しっかりしているってよく言われるけれど、誰よりも寂しがりで甘えたがりなのお母さん知ってるからね」といつも言っていた。お母さんがそんな言葉をかけてくれるときはいつも、自分に過度なプレッシャーがかかったりしていても、弱音を上手に吐けずにいたときだった。

私はそう言ってくれるお母さんの前では、いつも泣き虫だった。そして、そんな自分を知ってくれているお母さんがいたからこそ、また外の世界では強がって頑張ることが出来たのである。

「弱さ」をゆるやかに許容する世界としてのSNS

そんな自分の経験があるかもしれないが、リアル世界で誰にも弱音を吐けなかったあの頃から救い出してくれたSNSという場所を、私は愛している。周りの限られた人間がなんとなく私を私だと認識していて、誰にともなく弱音を吐くことが出来る世界は、私にとって大きな救いになっている。

ソーシャル上では、誰に言うわけでもなく「しっかりした女の子」をやんわり否定することが出来るのだ。次の日には投稿を消して、また「しっかりした女の子」を演じることだって出来る。

SNSで弱音を呟けば、誰かがそっと「いいね!」を押してくれる。思いの丈を叫んだときには一緒になって同じ話題について語ってくれる人だっていたりする。

私たちは、ソーシャルを介してならば、やんわりと本当の自分を開放することが出来るのだ。そして反対に、外部からのイメージをはみ出してしまった自分を発信する人に対して、「いいね!」や「エアリプ」で、やんわりとした共感や応援を伝えることも出来る。

実世界とかけ離れた「パラレルワールド」での幸せじゃ物足りない

リアル世界とは違う自分の開放は、インターネットの伝統的な文化だとも言える。オンライン上で、名前は知らないものの、気が合う友達に出会えるといったエピソードは、昔々からあるインターネットの「いい話」である。

確かに、自分が実際に足を運べる範囲を大きく出たところに自分の居場所を見つけられるようになったということは、インターネットがもたらした大きな発明であり、救いであったと思う。

リアル世界で誰にも受け入れられなくても、自分が存在してもいい理由や場所を見つけやすくなったということで、一体何人の人が救われたのだろう。

だけど。一方で、リアル世界とほんの一部だけが交わる「パラレルワールド」じゃ物足りないよくばりな私がいる。2chやその他の匿名の集団からなるコミュニティじゃ、満足出来ない自分がいる。

本当は、この顔で、この名前で、リアル世界に生きている自分で愛されたい。リアル世界でつながっている多くの「あなた」に愛されたいのである。アイコンの私でも、ハンドルネームのあなたでもなく。

私たちはリアル世界での私たちのまま、インターネットに存在している

インターネット上の検索窓に名前を打ち込めば、だいたいの人が自分をインターネットで見つけることが出来る時代だ。それはつまり、「本名」や「顔」でリアル世界に紐付けられた状態で、多くの人がオンライン上に生きている時代と言ってもいいかもしれない。

そしてそれを、サンクチュアリとしてのコミュニティがメインストリームでなくなったインターネットとして寂しがる人も多い。

だけどそれは、悪いことだけじゃないと私は思う。

不器用な私たちには、リアル世界で本当にわかってほしい人に自分の弱さを伝えられない夜がある。大好きな人に、高まる思いを伝えそびれた夜もある。

現実世界でのコミュニケーションには、とにかく関数が多い。どんな表情で、どんな声でどんなふうに伝えれば、この思いや感情が伝わるのか。推敲もないまま即興で伝えられるほど、器用な人間ばかりではないのだ。

リアル世界とそう変わらない住民を抱え、ゆるやかに自分とつながったアカウントを各自が持った2017年のソーシャル世界は、「ありのままの私」としてあまりにも生きやすい世界だと思う。

リアル世界では伝えられない「弱さ」をソーシャル上で見せることを自分に許し、誰かがオンライン上だけに浮かべた「弱さ」にこそ寄り添えるようになれば、より世界はやさしくなるはずなのだ。

インターネットでカッコつけることで、強くなれたり楽しく生きられる世界は確かに存在する。ただ反対に、自分の弱さをオンライン上にアウトプットして弱い自分をインターネット上に拡張していくことで、私たちはもっと、しなやかに生きることが出来ると思うのである。

■■■ひとこと自撮り奥義! ■■■

今日の奥義:「シチュエーションカワイイ!」は美少女カードゲームから学べ】

「カワイイ」とは別に「いいね!がつきやすい(=ウケる)」という指標があるのがSNSにアップする自撮りの面白いところ。
ウケる自撮りを撮るコツは美少女ゲームから学ぶに限ります。美少女ゲーム(カードをたくさんゲットしていくやつ)のカードはフェチの宝庫。あそこに男性の「グッとくる」が詰まっているのです。女性陣は、あのシチュエーションや角度を参考に、「思わずいいねしちゃう!」自撮りを撮影してみてください。

 

 

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某IT企業で働きながら、自撮ラー(自撮り女子)としてネットで人気急上昇中の「りょかち」が真面目にネット世界について語ります!

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りょかち

1992年生まれ。京都府出身。神戸大学卒。学生時代より、ライターとして各種ウェブメディアで執筆。「自撮ラー」を名乗り、話題になる。新卒でIT企業に入社し、WEBサービスの企画開発・マーケティングに従事した後、独立。コラムのみならず、エッセイ・脚本・コピー制作も行う。著書に『インカメ越しのネット世界』(幻冬舎刊)。その他、幻冬舎、宣伝会議(アドタイ)などで連載。

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