毎日を1%ずつ新しく生きる! 刺激と感動のマガジン&ストア

★がついた記事は無料会員限定

2017.05.20

サーからフォーへ!続・女もたけなわ その7

焦げ焦げの恋

瀧波 ユカリ

焦げ焦げの恋

「アラサー」時代に書いた女の「たけなわ期」にまつわるあれこれ。「アラフォー」になって再考してみました。サーからフォーへの峠を越えて、分かったことは……?

焦げ焦げの恋(サー篇)

 彼女がいる人を好きになってしまったことが、二度ある。
 どちらも、ただ好きになっただけではなく、男女関係にもつれ込み、その秘密を共有した。一度目は秘密が明るみになり、すったもんだを繰り返した。二度目は、相手が本命の彼女と別れたものの、私の立場は「遊び相手」のまま変わらなかった。結局、どちらの場合も私がちゃんとした「彼女」になることはなかった。

 きっかけは「夜にたまたま2人になってしまった」としか言えないほど些細なもので、男女関係になることを積極的に望んでいたわけではなかった。むしろ、「この人、私に興味があるみたいだけど全然タイプじゃないな。でもちょっと人恋しいし、1回だけ遊んじゃおうか。好きじゃないから、後腐れもないだろう」くらいの気持ちだったのである。

 ところがどっこい、一夜限りのつもりでいたのに、全然タイプじゃなかった相手の顔が頭にこびりついて離れない。時間が経つごとにもう一度会いたいという気持ちが、豪雪地帯の雪のようにドカドカと降り積もっていく。コトに及ぶ時の男のシリアスな顔を思い出しては、ああ全然タイプじゃない上にちっともかっこよくない……と思い、むしろ笑えるとさえ思い、なのにそのブサイクな顔が無性に恋しい。そんな自分が狂ってしまった気がして怖くなり、恋しさと恐怖がないまぜになり、「もう一度会って自分の気持ちを確かめよう」と思い立ち、また会って「やっぱりタイプじゃないわ……」と確認し、なのに恋心は収まるどころか2倍にも3倍にも膨らみ、これはやばい、洒落にならないと思っているうちに相手の方も味をしめたのか頻繁に会うようになり、こんなに会ってくれるということは自分のことを好きなのでは? と勘違いし、このあたりからようやく彼女の存在をうとましく思い始めるとともに「彼女がいるってことはいい男なんだ、苦しんででも奪い取る価値がきっとある」と間違った基準で判断を下し、連絡が取れない日が続けば「きっと彼女に会っているんだ」と嫉妬の炎に身を焦がす。そうして黒焦げになった身を抱かれれば、ヒリヒリした痛みすら悶絶するほど気持ち良く、その時だけは噓のように心が癒え、「彼女をさしおいて私のところに来てくれた」と優越感に酔いしれる。でもまた体が離れれば、身を焼く炎の熱さに涙を流し七転八倒、こんなはずじゃなかった、もうやめたい、そう思ってもこれまで費やした時間と苦しみを思うと、手を引く気などおきやしない。それに何より、黒焦げの身を抱かれる時の身も心も粟立つような快感を、手放すことなんてできない。

 涙は意外と涸れないし、欲望はとどまるところを知らないし、つらい日々にもけっこう慣れる。そうして逢瀬と一人寝の夜を繰り返すうちに「どうしても勝てない、愛されない」という思いは募り、自尊心は損なわれ、心身の疲れから日常生活もままならず友達にも見放され、本命の彼女に対する罪悪感にもさいなまれる。もう忘れるつもりで他の人を好きになろうとしてみるも普通の恋が退屈に感じられ、むしろ忘れたい方の恋の火に油を注ぐ結果となり、あしたのジョーも顔負けの真っ白な灰になるまで身を焼いて焼いて焼き尽くしてやっと、我に返ったのである。

 両方を足しておよそ2年ほど無間地獄(そう、地獄だった)を経験してわかったことは、人を好きになる気持ちは自分ではまったくコントロールできないということ。アマゾン奥地の森林火災のように、恋心は密かに発火する。満たされない思いは風になり、火の勢いを高めてしまう。そこに嫉妬心という名のガソリンが注がれれば、もう手の施しようなんてない。もしかしたら火消しが上手な人もいるかもしれないけど、私はそうじゃなかった。でも、燃やしたこと自体は悔やんでいない。あの恋をしなかったとしても、結局人恋しさという苦しみからは、逃れられなかったと思うから。

 強いてひとつ悔やんでいることを挙げるとすれば、どうせなら自分好みのイケメンと燃やせばよかったよ! ということ。だってそんな激しい恋の思い出が、笑っちゃうほどタイプじゃない男の真顔、それも2人……。いや、イケメンだったら未練が残ってしまうだろうから、これでよかったのだと思うことにしよう。(「GINGER」2013年11月号)

 

焦げ焦げの恋(フォー篇)

 欲望……無間地獄……?
 そんな大変な恋をする人っているんですね……って私? うそだー! って感じです。もしかして前世の話かなってくらい遠い……。

 あの時は若かったな、恋してたな、今は全然だわ〜。うっかりそんな感想を書きそうになったけど、ちょっと考えたらそういうことじゃないってわかりました。あれは恋じゃなかった。ではなんだったのか。

 当時の私は、
「あの人が手に入りさえすれば、私は幸せになれるのに!」
 って思っていました。

 要するに、幸せじゃなかった。でも「あの人が手に入らないから不幸」ではなくて、「あの人」に出会う前から私は強い不幸感を持っていたんです。

 そもそもの「不幸」の理由は、自分のことが好きじゃなかったから。まわりと自分を比べて、全然だめじゃんって思って、でもどうやったらだめじゃない自分になれるのかもわからなくて。そうして少しずつ自信も気力も減っていく中で、簡単にできるのが男の人と身体だけで繋がることだった。そして都合のいいことに、そんな関係を続けている間は、幸せじゃない理由は自分の中にあるんじゃなくて、この不毛な男女関係にあるって思うことができた。

 つまり当時の私は、「今幸せじゃない理由」がほしいから、あえて手に入らない人を好きになっていたのです。

 24歳の時に、漫画家としてデビューしてすぐに連載を始めました。思いがけず仕事がうまくいったことで少しずつ自信がついて、霧の中を歩いているような不幸感は薄れていきました。手に入らない人を追うようなことも、全くしなくなりました。それはきっと、幸せじゃない理由を探す必要がなくなったから。

 再び自信を失いそうになったことも何度もあったけど、37歳の私はどうにか幸せにやっています。もう二度と、あんな苦しい恋(という名の逃避)をすることはないでしょう。それもまた寂しい……みたいには全然思わない! フォーも近くなると、涙が出るほど苦しい思いなんて年に1度のバリウム検査でじゅうぶんなんですよ、ほんとにね。(2017年5月)

 

★がついた記事は無料会員限定

関連書籍

瀧波ユカリ『女もたけなわ』
長い女の一生で、恋に仕事に遊びに全力で取り組む時間と体力があり、最高に盛り上がっている時期が、女の「たけなわ」。でも「たけなわ期」は、恥をかいたり、後悔したり、落ち込んだりの連続。そんな茨のたけなわ期を滑って転んでを繰り返しながら突っ走って見えてきたのは……。煩悩を笑い飛ばす、生きるヒント満載の反面教師的エッセイ。

→試し読み・電子書籍はこちら
→書籍の購入はこちら(Amazon)

記事へのコメント コメントする

コメントを書く

コメントの書き込みは、会員登録とログインをされてからご利用ください

この記事を読んだ人にはこんな記事もおすすめです
  • 神仏のご加護をもらうコツを全編書き下ろし
  • 山本周五郎賞受賞作『後悔と真実の色』続編
  • 麻生幾、浦賀和宏、小路幸也らによる書き下ろしミステリー小説が100円で発売!
  • 結果を出すため0のカギを握るのは、「余裕=ゆとり」
  • どうしたら女性であることを楽しめるのでしょうか?
  • 俺はまだ、神に愛されているだろうか?
  • 「上から目線」の憲法を、思わず笑い転げそうになる口語訳にしてみました。
  • 「日本3.0」時代を生き抜くための必読書
  • からだを若く保つ、整体の知恵
  • 10分以内で作れて、洗い物も少なめ、一皿で食べられるヘルシーレシピ集
神仏のご加護をもらうコツを全編書き下ろし
山本周五郎賞受賞作『後悔と真実の色』続編
エキサイトeブックス
今だけ!プレゼント情報
かけこみ人生相談 お悩み募集中!