続々と紹介している、貫井徳郎さんの最新刊『宿命と真実の炎』の書店員さんの感想。あまりに熱い感想が届くので、実際に作者の貫井さんと語り合っていただこうと、鼎談の場を作りました。
ご登場いただくのは、貫井マニアで知られる二人の書店員、内田俊明さん(八重洲ブックセンター)と新井見枝香さん(三省堂書店)です。
(構成:神田法子)

 

 

どっちを先に読んでも面白い

内田 新作は、『後悔と真実の色』の続編ですが、ミステリの続編のあり方としてすごく理想的なのではないかと思いました。前作とは主人公が変わって、絡んでくる登場人物もかなり違う。別な話のようになっているけれど、前作の主人公である西條はしっかり本筋に絡む形で出てくる。結構難しいことだと思うんですが、だからこそすごいな、難しいからこそ見事な成果を生んでいる印象を受けました。

貫井 新キャラ(高城理那)を出すというのは最初から決めていました。というのは、西條はもう警察官じゃないから、代わりに手足になって動くキャラクターは必要だと思ったので。ただ、西條を脇に回したつもりはなくて、あくまでも西條の話ではあるんですけど、今回は主役を複数にしたわけです。

内田 でもやはり、メインの主役は高城理那ですよね。映像化されたとして、一番に名前が来るのは彼女でしょう。たしかに複数の視点でストーリーが進む入り組んだ作りになっています。この入り組み方は魅力的なんだけど、今までにない感じだと思いました。
 

貫井 一回雑誌に書いたものを冒頭から全編書き直したこともあり、自分の頭の中にストーリーが入っていたので、今回は珍しく複雑なプロットになりました。ふだんは割と行き当たりばったりで書いているんですけどね。

内田 貫井さんの作品といえば叙述ミステリ、パートパートで交互に別々のストーリーが進んでいって、実はこうでしたと最後に明かされるパターンの作品が多いですよね。今回は一本道なんだけど、一本道の中に隠された事実が切り込みのように入っていて、最後に全部皮がめくれて真実が明かされる、と。それが新鮮でした。

新井 私は割とすぐ読んだ本の内容を忘れてしまうので、『宿命と真実の炎』を「初めまして」みたいな感じで読んだんです。そこで「面白い!」って思って『後悔と真実の色』を読み返したら一本につながりました。シリーズものって前作を読んでないといけないって思われがちですが、この二作に関してはそういう壁がなくて、どっちを先に読んでもいいんじゃないかと思います。

内田 僕も新刊の方を先に読んでもいいと思いましたね。

貫井 前作『後悔と真実の色』の中で西條に何があったのかというのは、『宿命と真実の炎』の方ではあえて伏せておいたので、『宿命と真実の炎』から先に読むとどうなのかなと思ったけど、面白く読んでもらえるならよかったです。

新井 新作の方では伝説の人扱いだから、逆に前作を後から読むと「そうだったんだ西條!」と腑に落ちるような楽しみ方もできます。何とかして読者の方には両方読んでほしいですね。


書き直しでキャラが立った!

貫井 純粋な作品評価としてはどっちがいいですか? 自己評価としては、雑誌の連載時に前作に追いついていないと感じていて、書き直してやっと同等レベルになったかなと思っているんですが。

新井 『後悔と真実の色』は読み直して改めてすごい事件だと思いましたけど、『宿命と真実の炎』は捜査をしながら理那がちょっとずつ成長していくんですよね。自分も一緒に捜査している気持ちになります。私が警察小説を好きなのは、地道な捜査の積み重ねがあるからなんだと思いました。

貫井 これまでは女性の読者に警察の描写がよくわからないと言われることが多かったんですが、今回は女性が主人公だから、入り込みやすいかもしれません。

新井 理那はすごく現実感のある女性の警官ですね。男性が書いた刑事物って、女性の口調がいかにも作ったような女性っぽいことが多いんですが、理那は堅い言葉やへりくだった言葉で話すので、警察の男社会の中にいるリアリティがありました。

貫井 僕も頭の中で理那のキャラ設定をそんなふうに考えていたんですが、実は雑誌連載の時は村越とコンビを組んでいなかったので、理那の行動が何か違ったんですね。書き直しでまさに狙った通りになりました。

新井 村越と理那は名コンビすぎて、そうじゃないパターンは想像できない。村越は『後悔と真実の色』ではあまり印象良くないですけど、『宿命と真実の炎』を読むといいところもあるじゃない! って評価が変わりました。

貫井 僕としては前作と新作で村越のキャラを変えたつもりはないんですが、前作は村越のキャラのダメなところばかり出ていて、いいところは出せなかったのかもしれない。

内田 『宿命と真実の炎』では、西條の不在が村越に何か影響しているのではないかという読みもできますね。西條にはもう頼れないわけだから、捜査一課みんなにに変化が起こっているんじゃないかと。そういう意味で西條の凄さがわかる『後悔と真実の色』はインパクトがあって、圧倒される感じ。それを越えるのは難しいでしょう。でも、『宿命と真実の炎』がだめというわけでもなく、むしろ『宿命と真実の炎』を入り口にして『後悔と真実の色』をさらに楽しめると思います。


パターンを外す人物造形

貫井 個人的には、『宿命と真実の炎』で初めて書いた西條と兄貴との付き合いが気に入っているんだけど、どう思いましたか。

内田 面白かったです。この関係はなるほど!という感じです。

新井 比べられても認めるしかないほどのお兄ちゃんがいたらこういうふうになるんだ!と思いました。

貫井 西條が周囲から嫉妬されてもなぜ超然としていたかという理由が、兄が登場することで初めて明らかになるというのは、最初から設定としてあったんですよ。だから西條の名前も、「輝司」というのは「二」でも「次」でもないけど次男的な名前として付けたものです。実家が金持ちという設定も『後悔と真実の色』にすでに書いていたんですけど、あの作品のなかでは特に意味をなさないので、山本周五郎賞の選考のときに「この設定は何の意味があるんだろう」と話題になったらしいです。後日、選考委員の北村薫さんに「あれは何なの」って訊かれて、続編を書く予定があるんです、と打ち明けたんです。

内田 さすが選考委員のみなさんはよく気づかれますね!

新井 超然としていた西條が、お兄ちゃんと一緒に飲みに行って話をして、「お兄ちゃんの幻影を見ていたんだよ」って言うところが印象的です。

貫井 そこまでの関係は珍しいかもしれません。コンプレックスを持っていたらギクシャクするというのがよくあるパターンだけど、絶対に勝てないとわかっていても、兄貴のことがただ好きというのはあまりない。

新井 誇らしい、と言わんばかりでしたよね。

内田 でも好きな半面コンプレックスが浮き上がってくるという書き方は新しいんじゃないですか。

貫井 いわゆるパターンを書くのが嫌なんです。普通、頭が良くて顔も良くて何でもできる人は性格が悪いと決まっているじゃないですか、そこを性格までいい完璧な兄にしてみるとどうなるかを書いてみたい。理那だって、紅一点の女刑事なら当然美人キャラに設定するところを、あえて不美人にしたのもそうです。常にパターンを外す書き方をしたいと考えているところがあります。
(後編につづく。5月22日公開予定です)


<書店員さんプロフィール>
内田俊明(うちだ・としあき)
1969年生まれ。1991年に八重洲ブックセンターに入社。本支店勤務を経て、2016年より商品企画部に所属。おもにイベントを手掛けている。


新井見枝香(あらい・みえか)
三省堂書店有楽町店、池袋本店で文芸書を担当し、現在は営業本部でMD販促担当。貫井徳郎作品は、書店員になる前から愛読。当時は読書仲間が一人もおらず、貫井ファンは世界で自分だけだと思っていた。


<お知らせ!>
この3人が、5月24日(19時~)八重洲ブックセンター本店にてライブで語り合います! たくさんの方のご来場をお待ちしています。

貫井徳郎さんトークショー
<日時>5月24日19時~
<会場>八重洲ブックセンター本店8階
<参加方法>参加整理券が必要です。詳しくはこちらをご覧ください。

 

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止まらない面白さ、圧倒的読み応え。これぞ貫井徳郎の真骨頂!

 

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