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2017.05.19

第十一回

というわけで五十歳、これからの十年どうする。

内澤 旬子

というわけで五十歳、これからの十年どうする。

 というわけで、五十歳。これからの十年間を、どうしたらいいのだろうか。このままガンガン突き進むべきなのか。それとも加齢を考えて、運動量もセーブしていくべきなのか。なまじ成果が出ている分、四十歳のときの自分よりも確実に「やる気」はアップしている。とはいえ老化は着々と進んでいるのも事実。どこでどう折り合いをつけるのか。とりあえずは今まで通り、大怪我をしないレベルを手探りしながら、体当たりで、進んでゆくしかないのであるが。

 さて。小豆島に移住するにあたってのこと全般は、2016年8月に出した『漂うままに島に着き』(朝日新聞出版)にまとめてあります。で、その中に東京で続けていたヨガとバレエをどうやって移住先で続けるかについても、少しだけ書いたのでした。多少重複しますことを、お許しください。
 まずはバレエからいきましょうか。バレエ教室を検索すると、高松市内にいくつもある。大人向けのレッスンを開講しているところも一つではない。高松は、私が想像していたよりも、ずっと都会だったのだ。
 そんな高松の中心地まで、小豆島からは、高速艇に乗って港まで35分、港から琴平電鉄かバスで十分以下でたどり着ける。その気になれば一時間切るのだ。十分に通える距離なのだった。すばらしい。
 というわけで引っ越して一か月も経たないうちに、船に乗って某バレエスタジオの大人向け初心者レッスンに参加した。ところがこれが、とんでもない高レベルなクラスだった。参加者のうちの半分くらいの方がポワント、つまりトウシューズを履けるのだ。次のポワントレッスンを連続受講していたために発覚。
 大人からはじめてトウシューズを履けるようになるということが、いかに大変かつ困難なことか。爪先立ちで踊ってみようとした人でないとわかるまい。体幹筋にバランス感覚その他を完備させ、爪先立ちできちんと踊れるようになってようやくポワントに挑戦できる。不完全な状態で挑戦すれば、怪我のもとになるとも聞く。負け惜しみではないけれど、おそらくは子どものときにある程度やっていた人が大半なのではないかと思ったり。
 いや他人様と自分を比べてもしかたがない。問題は、レッスンにまるっきりついていけないという現実。バーレッスンはまだいいのだが、センターで、はいこれやってと言われても、まるっきりついていけない。しかもついていけないのは、自分だけ。あ、また他人様と比べてしまった。いかんいかん。しかしこの状況は、辛い。しかも先生の教え方も、とても厳しい。
 K先生がいかに丁寧に優しく教えてくださっていたのか、今更ながらに感謝。それと、ひょっとしたら、東京の大人向けバレエ教室は、子どもの頃にやっていた人から私のようななんちゃってまで、幅広く対応しているということなのかもしれず。そういう厚みが都会ってことなのかしら。
 ああ、センターにひとり放り出されてみると、しみじみ思う。私はぜんぜん踊りたくないのだと。人前で、音楽に乗って、美しく、華やかなポーズを決めることに、まるっきり興味がない。そしてリズムも、全然とれない。
 高松の教室の先生に「裏拍がとれないとバレエを踊ることはできない」と冷たく言い放たれ、そりゃ至極ごもっともなのであるが、とれません。まるっきり、とれません。はい。生来のリズム音痴です。ライブハウスでの単純な縦ノリですら、ずれていく私です。裏拍は、レベル高すぎます。
 そもそもどうしてバレエに夢中になったのかといえば、バーレッスンがとっても楽しかったからなのだ。センターなんていらない。自分の身体を鏡で確かめながら、正しい位置で、手足を美しく振り回すのが、ものすごーく楽しかったのだ。しかも尻と腿の境目の、特に内側にガッツリと利かせる動きをたくさんできたのだから、言うことなし。
 他のバレエスタジオを探すことも検討したのであるが、大人向けの、ゆるそうなクラスをやっているところは、高松市内といっても車でないと行きにくい立地。そう、高松市は、思ったよりもはるかに広かった。引っ越してくる前は、高松市内ならばどこでも通えると思い込んでいたのだけれど、大間違い。瓦町などの繁華街にも駐車場はたくさんある。つまりは、高松は車がなくても暮らせないこともないけれど、車があることが前提にある店が多いのだ。ドン・キホーテも、チェーンのメガネ店も、話題になっている美味しいケーキ屋さんすらも、車がないと、むちゃくちゃ遠い。バスで動くと、本数が少ないため、高速艇の時間を逃してしまう。車を島から持ってこようとすると、フェリー代金が七千円以上かかる。
 バーレッスンだけ、自分の家でやるしかないのかも。ほら今YouTubeにいろいろアップされてるし。
 ホームセンターで、介護用の手すりを買い、部屋に取り付けると同時に、バレエ教室へ通うことを、諦めた。とても残念だけど、大人なので、詰(なじ)られ惨めな思いをしてまで、できそうにないことを、続ける気は、ない。心がついていけないときには素直にやめる。あくまでも、楽しくできる範囲であることが信条。この歳で根性入れ直してスポ根、なんて、できるわけないもん。
 というわけで、島に来て早々にバレエから脱落したのでした。あ、家にバーはつけたものの、やっぱり家でひとりではなかなかできなかった。せいぜい股割りに使うくらいが関の山。あーあ残念。
 そんな私がなぜにどうして三年後に開脚前屈だけでなく、骨格筋率まで上げることができたのか。それは、ひとえにヨガ。ヨガのおかげ。ヨガはなんとか続けることができたからなのである。しかも、ヨガをはじめた頃には大の苦手だったアシュタンガという流派をメインにやるようになってしまった。
 これまで、ヨガの流派について、語らないで済むならば語らないようにしてきた。なぜならろくに調べずに体験しながらきたから。今もほとんど理論を読まずにインストラクターの先生方の導きだけを頼りにやっている。あくまで私個人の場合なのだが、活字を読んで頭でっかちになると、身体の欲求や反応がよくわからなくなってしまうからだ。さすがにそろそろちゃんと勉強しようかなという気持ちになっているのだけれど、やっぱりイマイチ腰が据わらない。
 とりあえずアシュタンガをやってる人の、大まかな外見的特徴から述べてみようか。肩から二の腕にかけての筋肉がガッツリついている人が多い。他のヨガの流派と比べると、男性が多い。そして男女ともに身体の露出度がとても高いウェア着用。夏ともなると大量に汗をかくため、男性は上半身裸も珍しくない。女性もぴったりしたスパッツとスポーツブラで、臍(へそ)というか腹筋丸出しもあり。ポーズの関係上、短パン率も男女ともに高め。万が一ヨガ初心者がそんなクラスに紛れ込んでしまうと、「場違い??」とクラスがはじまる前から、気おくれしてしまう。
 私も最初はあの雰囲気がとても苦手だったはずなんだが、続けているうちに毒されて?どんどん身体のラインを隠す布地が少なくなってきてしまった。他の流派に比べて運動量が多いために、冬でも暑くなるし、頭が下になるポーズがたくさんあるため、身幅にゆとりのあるTシャツなどを着ると、顔に掛かって息がしにくくなるのが鬱陶しいのだ。
 あまりの運動量と難易度の高いポーズの連続に、一回試しただけで、そのまま二度とやらず、ヴィンヤサなど別の流派のヨガをしているひとは、結構多い。
 ちなみに、インストラクターの先生も、どういうわけだか、スポ根風味が強い方が、すくなくない。ヨガと言えば「絶対に無理しないで、周りの人と比べないで、少し痛いけど気持ちいいくらいのところまでで止めましょう」なんて言ってくださる優しいインストラクターの先生が大半なので、ちょっと驚く。
 私が初めてアシュタンガに挑戦したのは、たぶんヨガをはじめて四年は経っていたはずで、それなりにパワーヨガとかヴィンヤサヨガとか、自分としては運動量の多いヨガにもついていけるようになっているつもりだったのに、後半のポーズはほとんどできなかった。いや、まがりなりにも形がつくポーズも、数えるほどしかなかったように思う。それなのに、ついていけないまま、ポーズからポーズへと流れるように淀みなく進んでいかねばならないのだから、腐って二度とやらないとなる可能性のほうが高かった。
 けれども幸運なことに、インストラクターの先生が、とても寛大だったのだ。水が低いところを目指して流れていくように、私はいつも優しい先生のところに流れ込んでゆく。「できなくて当然」みたいな空気に包まれ安心して、できないままに動けるまで動く。半分くらいでも、自分としてはクタクタになるため、その日は気持ちよく眠ることができる。いやそれどころではなく、即落ちだった。これはいいぞ。
 しかも。アシュタンガは最初から最後まで、順番通り、全て厳密にとるべきポーズが決まっている。最初のうちはこれがものすごくつまらなくて、自由が利かなくて、面白くなーいと思っていた。けれども順番もポーズも決まっているならば、一度覚えてしまえば、言葉の聞き取りが不要となるため、海外でもできる。英語どころかフランス語でもロシア語でもチェコ語の先生だって大丈夫だ。運動量も一定してハードなため、あとで「動き足りなかったな……」などと思うことも、ない。
 東京にいた頃は、自分好みのハードさでレッスンしてくださるヴィンヤサ系の先生を数人知っていたため、アシュタンガをメインにやろうとは思っていなかった。ただ海外取材の予定がいくつもあったし、現地での時差ボケ対策にもなるために、アシュタンガを覚えておこうとはじめたわけだ。
 ところが小豆島への移住を決めて、高松のヨガスタジオを調べてみたら、ちょうどアシュタンガ中心のスタジオがあるではないか。ていうか、ヴィンヤサをやってるスタジオが見つからないし。それならばと、小豆島での家探しと並行して、東京にいるうちにアシュタンガクラスの受講を増やしていったのだった。(次号に続く)

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