「アラサー」時代に書いた女の「たけなわ期」にまつわるあれこれ。「アラフォー」になって再考してみました。サーからフォーへの峠を越えて、分かったことは……?

奴隷力はいらない(サー篇)

「恋の奴隷」という歌がある。40年以上前に大ヒットした奥村チヨの代表曲だ。歌詞を要約すると「何でも言うことをきくし、あなたの望むように変わります。だからそばにいさせてください。私が悪い時はぶってください。それが私の幸せ」……といった感じ。自分が思ったこともない情念が満載で、これが100万枚も売れる昭和ってすごいなーと、私などは思ってしまうのである。

 ところがどっこい、昭和は遠くなりにけり……ではなかった。奥村チヨも真っ青の奴隷力向上推進ネットコラムを、最近やけに目にするのである。

 先日読んだのは、「男性から『愛車以下』と思われる女性のNG行為」というもの。タイトルからして女性と愛車がてんびんにかけられているという不穏な構図。そもそも、愛車と恋人をてんびんにかけて考える男性がどれだけいるのか怪しいし、もしいたとしてもそんな男性はこっちから願い下げだという女性だって多いだろう。そこらへんの感覚をまるで無視して、車を愛する男性に対していかに奴隷力をつけていくかを、当然のように指南する強引さにボウゼンとしてしまう。

 紹介されていた「NG行為」はこの3つだった。「こぼれやすいものを車内で飲食する」「ルームミラーを勝手にいじる」「サイドミラーが見えない位置に手を置く」。……ひとつひとつケチをつけるのも面倒なくらい、ちっぽけなことである。こんなことに気を使うくらいだったら、私はひとりで電車とバスに乗る。

 車が好きで、同乗者に独自のルールを守らせる男性のことは否定しない。そういう人もいるだろう。でも、こういったコラムにこめられている「男性様のご機嫌をそこねないよう配慮できる女性になりましょうよ、それができなきゃ愛されないよ」というメッセージについては、全力で否定したい。そういうのはマナーでもなんでもなく、ただの奴隷根性である。

 バブルの頃、「アッシー君」(車を出してくれる人)「メッシー君」(食事代を払ってくれる人)なんて言葉が流行っていた。女が男の上に立つ、強い女の時代が来たというムードがあった。でも、当時(中学生くらい)の私はこう思っていた。

「それって結局、移動するにも食事するにも男の力を借りてるってことじゃないか。本当に強くて自立した女を気取るのなら、自分の車に乗って自分のお金でおいしいものを食べればいいのに」

 いつか、そういう時代が来ると思っていた。だけど、フタをあけてみれば今は「愛車以下」にならないように気を使うことを勧められるという有様だ。なんだか、前進どころかグッと後退してしまった気がする。

 私は、もっともっとみんなにわがままになってもらいたいと思っている。神経質な男の子とドライブする時に、こぼさないようにとウイダーinゼリーなどをすするような事態におちいってはいけない。まずは、ドライブの最初に立ち寄ったコンビニで、スナック菓子コーナーをこれみよがしにうろつきながら「買うよ? 買うよ?」と揺さぶりをかけてみてほしい。「こぼれるものはやめて!」と彼が制しても「車の中じゃ食べないから!」などとごまかしつつ、トルティーヤチップスなどの「クズも落ちるし粉も舞う」タイプのお菓子を買い込んでほしい。そして、ドライブ中に彼が何かえらそうな発言なんかしたら、「デーデン……デーデン……」とホラー系のサウンドを口ずさみつつ、スナック菓子の開け口に手をかけて脅してほしい。同様に、ルームミラーに手をかけて「それ以上言ったら動かす!」と攻めてみるのもよい。

 海(そう、目的地は海だったのです)に着いたら、さんざん砂まみれになって暗くなるまで遊んでほしい。そして、砂をきれいに払い落とすように命じる彼を強引に車の中に引きずり込んで「もうどうなってもいいじゃない……」とささやきながら、小言を言わんとする彼の唇を唇でふさいで、シートが砂と汗でべったべたのジャリジャリになるような激しい情事に持ち込んでほしい。そして、全てが終わって虚脱する彼の横で、「もう、いいよね?」とニッコリ微笑みながら、トルティーヤチップスをパリパリと食べてほしい。

 奴隷根性を疑いなく持ち続け、奴隷力に磨きをかけ、「聞き分けのいい私を愛してね」とアピールする日々の先にあるのは、幸せな奴隷としての人生であり、女の人生ではない。聞き分けのいい奴隷しか愛せないような男や、奴隷化を勧める風潮は蹴り飛ばしてしまおうではありませんか。女の人生、行きましょう。(「GINGER」2013年10月号)

奴隷力はいらない(フォー篇)

 あれから4年。奴隷力を磨け系の圧力は増す一方で、つい先日は「彼氏はあなたの生理に困っているからタンポンを使おう!」という動画を生理用品メーカーが公開して炎上したばかりです。知るかボケ。

 もうね、ほんと、知るかボケですよ。関係ないのに遠くからああしろこうしろ言ってくる連中が多すぎるこのご時世、「知るかボケ」を身につけるしかないです。

 合コンで男性に嫌われる5つのNG行為? 知るかボケ。多少の嫌悪感くらい越えてこいよ。彼を萎えさせないセックスのテク? 知るかボケ。萎えない奴だけ相手にしてやんよ。アンダーヘアを手入れしないと彼氏がドン引き? 知るかボケ。後生大事にマネキンでも抱いてろ。これくらいの切り返しがするする出てくるようになるくらい、SB力(知るかボケ力)を上げていきましょう。

 こういうこと書いてると、だれかが絶対「わあ、いい大人がなんて口汚い」って言ってくるんですよ。しかしね、口汚いことの何が悪いんでしょう。対象の卑しさに合わせた言葉を使っているまでのことです。私はここぞという時の口汚さで自分の心を立て直してきたし、損をしたことなんて一度もありません。なのでそこもハイ、知るかボケ。

 そうそう、サーからフォーに向かう女子を「オトナ女子」と称して、「オトナ女子のマナー講座」とか「気配り上手なオトナ女子になるには」みたいな読み物があるじゃないですか。でもこれ以上、マナーなんて向上させちゃいけませんよ。こっちがお行儀よくすればするほど、それを見ている下の世代が息苦しくなる。オトナ女子の役割は、女全般に対する無粋な圧力を「知るかボケ」と突っぱねてみせることです。

 往年のアメリカ女優、メイ・ウエストは言いました。
「Good girls go to heaven,bad girls go everywhere.」
 よい子は天国に行ける、悪女はどこにでも行ける。
「知るかボケ」をモットーに、だれのいいなりにもならないごっつい悪女になりましょう。(2017年5月)

 

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瀧波ユカリ『女もたけなわ』

長い女の一生で、恋に仕事に遊びに全力で取り組む時間と体力があり、最高に盛り上がっている時期が、女の「たけなわ」。でも「たけなわ期」は、恥をかいたり、後悔したり、落ち込んだりの連続。そんな茨のたけなわ期を滑って転んでを繰り返しながら突っ走って見えてきたのは……。煩悩を笑い飛ばす、生きるヒント満載の反面教師的エッセイ。