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2017.04.20

第3回

社会問題を白か黒かで判断できるなら誰も苦労はしない

プチ鹿島/石戸 諭

社会問題を白か黒かで判断できるなら誰も苦労はしない

『芸人式新聞の読み方』を上梓したばかりの時事芸人、プチ鹿島さんと元毎日新聞記者で、現在は、BuzzFeed JAPANで活躍する石戸諭さんの新聞の読み方論。第3回は、半信半疑で読むことの重要性を語ります。
(構成:福田フクスケ 撮影:菊岡俊子)


白か黒かで切り捨てず、半信半疑を楽しもう

鹿島 今はみんな白か黒かで判断したがる風潮があって、自分の意見に合わないものをすぐに切り捨てようとしますよね。本にも書きましたが、「産経新聞によると」って書いただけで、「産経を引用してる時点でダメ」みたいなことを言われてしまう。『朝日新聞』でも同じです。

石戸 僕も新聞記者時代に、安保法案反対の国会前デモに行って、Twitterで「すごい数の人がきている」と投稿したら、ネトウヨっぽい人からすぐに「はい捏造」「はい水増し」ってリプライがきて……。

鹿島 ありますねえ。それ、誰が言ってるかという肩書きだけで怒ってませんか? というね。

石戸 僕や鹿島さんも含めて、もともと人間は、自分の見たいものを見たがるバイアスからは逃れられないですよね。自分に都合のいい情報だけを選んでしまうのは、生きていく上である程度は仕方ない。あらゆるものについて、きちんと調べてから発言していたらきりがないですから。ただ、それが許される場面と、許されない場面の切り分けくらいはしようよって思いますね。

鹿島 みんな、自分の嫌いな意見や、バカにしている側の意見は、案外ろくに読んでないんですよ。僕はむしろ、嫌ったり、からかったりしたければしたいほど、その相手のことを読んだほうがいいと思うんですけど。

石戸 新聞記事も、今はスマホからも読めたり、SNSでもシェアされたりするようになった結果、一本一本の記事だけでジャッジしたがる人たちが相対的に目立つようになりました。そういう意見も影響力を持っている気がします。だからこそ、何が書いてあるのか、本当にそう読めるのか、きちんと真意を汲み取ろうという姿勢が問われてくると思うんですよ。

鹿島 みんな『産経』が嫌い、『朝日』が嫌いと二分してしまうんですけど、「おじさんが偉そうなこと言ってるな」と思いながらどっちも読んだほうが絶対おもしろいのに。新聞を楽しむためにも、僕は『朝日』には偉そうでいてほしいんです。それに対して他の新聞が、「朝日がまたこんなこと言ってた」と叩いてるのを見るのが大好きなんで。でも、今は『朝日』の元気がなくなっている気がして寂しいですね。

石戸 鹿島さん、本の中で『朝日新聞』を「高級背広を着たプライドの高いおじさん」と擬人化していましたね(笑)。

鹿島 アンチ『朝日』の人に、「朝日の元気がなくなってしまって、今、楽しいですか?」って逆に聞きたいですよ。元気があって偉ぶってるほうが、ファンもアンチも楽しめるのに。

石戸 その通りだと思います。今、どちらかといえば右派、保守論壇の方が勢いよく見えるけど、「朝日憎し」が王道になって、両方の軸がきちんと機能しなくなったら、言論空間自体が縮小して、おもしろくなくなっちゃいますよ。

鹿島 ダイナミズムがなくなってしまいますよね。

石戸 鹿島さんがで書かれていた、疑う人にも“怒りながら疑う人”と、“半信半疑を楽しんでワクワクしながら疑う人”の2通りいる、という話がよかったです。

鹿島 僕は70〜80年代に子供時代を過ごしたので、川口浩探検隊や徳川埋蔵金のような、ハラハラドキドキしつつ「なんだこれは?」と自問自答するエンタメがたくさんあったから、“半信半疑を楽しむ”という感覚を身に着けることができた。

石戸 川口浩探検隊はリアルタイムではないのですが、あの仰々しさ、謎の見出しとか、いまでもパロディの元ネタになっているのが面白い。

鹿島 「なんだよ、謎の怪魚なんていないじゃねえか」と何度も裏切られながら、それでもまた「本当にいるの?」と疑いながら魅了される経験を積み重ねてきたわけです。大人もそれに目くじら立てずに、しょうがねえなあと思いながらその存在が許されていた。きっと今だったら、「ウソだろ?」「根拠は?」と怒られて成り立たないでしょうが、にやにやしながら「本当にいるの?」と疑うのが大人だと思うんです。そこが、ただ否定するだけのニヒリズムとは違う。


美談に飛びつく善意は、ヘイトや差別と紙一重

石戸 僕が危ういなあと思ってることの一つは、“主語の大きさ”ですね。「今の社会は」「この時代は」「日本人は」「私たちは」みたいに主語のでかい話は、自分の中でいったん留保したいと思っています。

鹿島 昔、「ウソ社説」という社説のパロディをよく書いてたんですけど、あえてよく使っていたのが、「我々は」という主語。「お前が言ってるだけだろ」ってことでも、「我々は」と書くとでかいことが書けるんですよ。

石戸 たまに自分でも使ってしまうけど、どこか「私たち(笑)」みたいなきまり悪さがあるんですよね。「私たち」を使うときは、範囲をはっきりさせて、限定的に使いたいと思っています。「私はこう思います」くらいなら、現にその人が思ってることなんだからトゲもないんですが、「こんなの日本人として恥」みたいな話になってくると急にきな臭くなる。主語がでかくなった途端に、うさんくささが混ざっちゃうというか、責任が分散されるようなもやっとした感じになりますね。

鹿島 ツッコミを回避してるんでしょう。「私はこう思う」と言えばいいものを、ツッコまれたくないからどんどん予防線を張って、最終的に「私たちは」「この国は」となってしまう。

石戸 主語が大きい意見の中にも重要なものは当然含まれているけど、僕はそこを疑ってかかりたい。それこそ鹿島さんの言うように“いったん寝かせておく”という留保をしたいんです。「私たちは」と言った瞬間に、独特の高揚感をともなう正義感が出てくるというか。

鹿島 気持ちよくなっちゃうんですよね。

石戸 その高揚感が言論において重要な局面はあるけど、一種の線引きにつながるという危険性は忘れちゃいけないと思います。それから、本の中に書かれていた“美談とヘイトは紙一重である”という話も、まさにその通りだと思いました。高校野球の女子マネが、おにぎり作りに集中するため選抜クラスから普通クラスに移籍した、という“ちょっといい話”が物議を醸したことも、本では取り上げていましたよね。

鹿島 スポーツ紙の大仰な芸風と、甲子園という前時代的な場所は、これまた相性がいいですから。

石戸 “おにぎりマネージャー”の件はジェンダー論の観点からもどうなのと思うし、正直あまりいい記事だとは思わないけど、一方で、この件を批判していた人も、別の局面ではこれと構造的に同じような話を喜んじゃっていることもあると思っていて。

鹿島 そうですね。

石戸 たとえば、震災関連の“ちょっといい話”みたいなデマや、「福島の農産物は危ない」と喧伝する人とかも、本人はよかれと思ってやっていることが往々にしてあるんです。「善意」は不当な差別やバッシングに容易に結びついてしまうものです。局面が変わったら、僕もまた自分がすっきりしたい方を支持してしまうかもしれないという留保は常に持っておきたい。本にあった佐村河内さんの話にしてもそうですよね。

鹿島 そう、僕は佐村河内のときに、ああいう“いい話”って苦手だなあ、と黙殺してしまいました。ああいうのを疑っちゃまずいよな、と。それって、「障害があるのにがんばっていて素晴らしい!」と絶賛していた人たちとなんら変わらないな、ということに気付いたんです。あのとき、「これって本当なの?」と疑えるくらいの人のほうが、実はフラットな姿勢だと思う。

石戸 『新潮45』に「そもそも、作品としてどうなのか」という視点も盛り込んで検証した記事がでていたことは、すごく重要だと思いました。「素敵な物語」がでてくる一方で、彼の音楽を作品としてどうなのか、という批評・論評の土俵にきちんと乗せていなかったのではないか。これは障害者やハンディを背負った人たちの表現を報道するとき、必ずといっていいくらいでてくる問題です。美談だけではなく、別の視点から批評しないといけないと思っています。

鹿島 本の最後の章は、半信半疑という姿勢がないから、極端な白か黒かに振り切れてしまうのでは、という話を書きたかったんです。

石戸 あらゆる社会問題には、100%の善も100%の悪もないから、白か黒かで判断できるなら苦労しないんですよね。その微妙なバランスの中で自分の立場をどう選ぶか、何を考えていかなきゃいけないか、が大事。鹿島さんは、その半信半疑をにやにやと笑いながらユーモラスに見せてくれる。たまたま新聞を題材に扱っていますが、これが雑誌でもテレビでもネットでも同じで、“考えることがエンターテインメントとして成り立つ”ということを、この本では見せてくれているんですよね。
(最終回は、4月25日公開の予定です)

プチ鹿島さんの半信半疑を楽しむ力については、『芸人式新聞の読み方』でより詳しく語られています。ぜひご覧ください。

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