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近藤勝重氏に学ぶ文章上達の極意

2017.08.29 公開 ツイート

第1回

文章とはだれも書いていないことを、誰にも分かるように書くこと 中原真智子

好評につき、第二期開催が決定した、コラムニスト近藤勝重さんによる、文章が学べるサロン「幸せのトンボ塾」。近藤さんから直接添削指導が受けられる、少人数制の贅沢な講座です。
具体的には、どんな内容の講座になるのか?あらためて文章を学びたいと思う方へ向けて、2016年に開催した、第一期受講者のお一人で、国語教師の中原真智子さんによるレポートをお届けいたします。

*   *   *

 9月3日(土)東京の幻冬舎へ行ってきました。

《幻冬舎1号館》

 幻冬舎といえば、興味深い本がそろった出版社です。ついに私も出版!…できたらいいのだけれど、それはまだまだ夢です。
 なぜそのような場所に行ったかというと、そこで開かれていた近藤勝重氏の文章サロンに参加したからです。

 近藤さんは毎日新聞やサンデー毎日に連載を持っている方です。文章の書き方や川柳等の本を多数出しています。その中に「健さんから手紙」という本があって、私の最愛の人、高倉健さんとも親交がありました。その方の文章講座が東京の幻冬舎で開かれるという案内が来たので、通うことにしたのです。9月から2月まで毎月第1土曜日の1時から3時までの2時間、全6回です。その第1回目行ってきました。

 幻冬舎は明治神宮近く、渋谷区千駄ヶ谷にあります。そこの一室に17人の受講生がいました。平均年齢はかなり高いです。私より若い人は3、4しかいません。自由な時間がたっぷりありそうな方ばかりです。わざわざ他県から来ている人は私だけかもしれません。いいんです。自己満足なんです。

  講座では、まず話題の本「コンビニ人間」について触れ、近藤さんの近所のコンビニに、最近原稿用紙が納入されなくなった話をされました。それから書くことの核心に及び、「うまいへたよりも、書く以上は誰も書いていないことを書く」ことの大切さを話されました。含蓄のある言葉が次々に出てきます。「文章を書く人間は上から見てはいけない。見下ろしたところに何の文章も生まれない」「決めつけてものごとを見ない」更に、こうも言われました。

「文章とはだれも書いていないことを、誰にも分かるように書くこと」

…ハードルが、高いです。


 近藤氏から配られた「作文10ヶ条」を書き出します。


(1)何よりも見方。脱社会通念、独自の視点を心がけ、誰も書いていないことを書こう。
(2)常日頃の通俗的な事柄に人間のいじらしさと真実を見つけよう。
(3)思うことより思い出すこと。論よりエピソード。要は自ら体験したネタであれということ。
(4)主張より告白。自慢話より失敗談。それらを正直に書いて、人間的弱さをさらけ出そう。
(5)起承転結は「転」のネタが勝負どころ。「起」は場面。「結」はさっと小粋に終わろう
(6)人間とは?生きていくとは?人生とは?をいつも念頭に置いて細部に目を凝らそう。
(7)説明よりも描写。頭より心。頭は物事の筋道の理解にとどまる。心が納得し、うなずける文章を書こう
(8)視る。触る。触るように視る。眼でも聴き、耳でも視る。さらに嗅ぐ。味わう。そうして初めて五感が活用できる。
(9)現在(今の状況の描写)、過去(背景などの説明)、未来(これからどうなる)の順を踏んで伝わる文章を目指そう。
(10)自分と人、物、自然との関係(距離)を描くこと、それが文章だと心得よう。


近藤さんが主催している川柳会にはこんな川柳が寄せられています。

 *ばあちゃんのお腹にパパがいたんだね(7歳)
 *感想を書く気で読めばつまらない(小5)
 *雪だるま作り終わって邪魔になる(中1)
 *抱き上げたこともあったと妻を見る
 *嫌なヤツ アイツのなかに僕を見た

  どれも短い言葉の中に真実が宿っています。はっと気付かされて納得します。ユーモアもあります。こんな風なことが文章で書けるでしょうか。

 近藤さんは「それまで意になかったことに思いが及ぶこと」つまり「気付くこと」には次の4つがあると書いていました。(毎日新聞夕刊に連載しているコラム「しあわせのトンボ」9月1日より)

 (1)「あっ」と思わず声を上げたような体験
    夏目漱石「虞美人草」…「あっと驚く時、はじめて生きているなと気が付く」
  (2)細部に目を向けてわかった本質や真実
寺田寅彦の句…「塵の世に清きものあり白菜哉」
  (3)他と比べて「そうか、そういうことなんだ」と思い知ったこと
  岸本水府の川柳…「ぬぎすててうちが一番よいといふ」
 (4)時の経過とともに実感できたこと
    児童文学者あまんきみこさんの言葉…「若い頃の初体験はまったく知 らないことを知ること。年を重ねた人の初体験は、言葉に身体的な喜び や悲しみが寄り添うものである」

  ふふん、なるほどなるほど。このような話を2時間聞いた後、次回のための宿題が出ました。「気付いたこと」について原稿用紙1枚分の文章を書くことです。

 しゃ~!予想はしていたけど、やっぱり書くのね、当然ね。テーマは「気付いたこと」。何に気付けばいいんでしょう。(1時間経過)で、さっきこんなの書きました。ん~「あっ!」も「へ~なるほど。」もない文章です。どんな指導を受けるでしょう。追って報告します。(気が向いたら)

 

   気付いたこと            中原真智子

 この夏、オランダへ一人旅をした。
 中学生の時「アンネの日記」を読んで、少女アンネの感性と悲惨な最期に心を打たれた。自分と変わらない年頃の少女の筆力と人生に圧倒された。大人になって、時間とお金が自分で管理できるようになると「アンネの隠れ家に行きたい。この目で見たい。」と思うようになった。隠れ家はオランダにあった。
 英語が話せず地図も読めない自分が、ちゃんと行くことができるのか。予約していた宿は隠れ家のすぐ近くだ。着いたその日、中一英語で話した。「アイライクアンネ。アイワンチューゴー!」すると、翌日の予約をしてくれた。アンネが暮らした家をこの目で見て歩いた。壁に貼られた写真や屋根裏部屋の窓から見えたポプラの木は、アンネが見たものと同じなのだ。無理やり感動を探して歩いた。
  夢は、あっけなく叶うことがある。ちょっともの足りなく感じてしまうのは、ぜいたくというものだろう。

 

9月19日(月)
   3連休最終日
   中原真智子

*   *   *

<2017年9月9日から開催決定!>
近藤勝重さんから直接文章指導が受けられる、第二期「幸せのトンボ塾」のお申し込みも受け付けております。

関連書籍

近藤勝重『今日という一日のために』

毎日新聞夕刊(一部地域朝刊)に連載のコラム「しあわせのトンボ」。新聞が届いたらまずここから読む、という人も多い大人気コラムです。週1回、10年に及ぶ連載分から64編を厳選し、大幅な加筆修正をして1冊にまとめました。 著者の近藤勝重さんは端正な文章に定評のあるコラムニストであり、ジャーナリストです。毎日新聞の社会部時代にはグリコ・森永事件や山口・一和会の大阪戦争、日航ジャンボ機墜落事故を最前線で取材し、記事にしてきました。しかし「しあわせのトンボ」では堅苦しい話は抜きにして、散歩中に心奪われた風景、友との会話で気づいたことなど、身近な話題と世相をていねいに織り上げることを大切にしています。「日々の暮らしが穏やかに続く。その日々のほんのささやかな幸福感やありがたさを書かず、語らずして、政治に物申すことも、政治を変えることもできない」と、近藤さんは言います。 心は内に閉じ込めるものではなく、外に連れ出すものなのかもしれない。そう気付いて始めたのは、外に出て自然に触れることであった。(「心は外に」) 改めて言うまでもなく、人の心はわかりにくい。本音と建前の物言いもあれば、うそも言う。さらに言うなら、自分の心すらわかっていないのが人間だ。鏡の自分を見て、そこに映っていないもう一人の自分がささやく。「本当のことを言ったら」と。(「『わかった』はわかっていない」) その一日、何か無為に過ごしたかのような気もしたが、思い返せばよく笑った日であった。ぼくは何人もの笑いの天使に会った。今日という一日も、こんなぐあいに過ぎてくれれば日々これ好日である。(「笑いの天使とともに」) しみじみと味わい深い文章で日常のなにげない風景を鮮やかに切り取った名コラム。近藤さんとゆく〈読む散歩〉をぜひお楽しみ下さい。

近藤勝重『書くことが思いつかない人のための文章教室』

「文章を書く」とは、長い間の記憶から体験を引き出して描写することだ。自分にはそんな特別な経験はないと考える人でも、うまい引き出し方さえわかれば書ける。また、伝わる文章にしたいなら、くどくどと説明してはいけない。とにかく描写せよ。細部に目をこらして書けば、真に迫る。たとえばさびしい気持ちなら、「さびしい」と書くな。さびしさを表わす「物」を描写してそれを伝えよ――ベテラン記者で名コラムニストの著者が、ありきたりにならない表現法から、書く前の構成メモ術まですぐ使えるコツをやさしく伝授。

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近藤勝重氏に学ぶ文章上達の極意

好評につき、第二期開催が決定した、コラムニスト近藤勝重さんによる、文章が学べるサロン「幸せのトンボ塾」。
プロのコラムニストである近藤さんから直接添削指導が受けられる、少人数制の贅沢な講座です。
具体的には、どんな内容の講座になるのか?
あらためて文章を学びたいと思う方へ向けて、第一期受講者のお一人で、国語教師の中原真智子さんによるレポートを全7回でお届けいたします。

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中原真智子 国語教師

中学校国語教師。岡山県倉敷市在住。 近藤勝重氏主宰の文章教室「幸せのトンボ塾」第一期生であり、その授業内容をまとめたレポートを近藤氏に評価され、幻冬舎plusでの連載にいたる。 趣味は旅・映画・読書。

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