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高野病院日記

2017.04.06 公開 ツイート

最終回

馬鹿、何かを成し遂げたわけじゃない 中山祐次郎

【Day 59】

朝起きて、いつものように渋滞の中、病院へ通勤する。こうやって「いつものように」通勤するのは明日で最後なのだ。

病院に着き、いつもの朝食をいただく。3カ所の病棟を回り、全ての患者さんの状態を把握していく。9時からは外来だ。今日もたくさんの人がいらっしゃった。

「先生はいつまでいるのかね」「明日で終わりなんです」「そうか、じゃあまた新しい先生には、イチから説明しなくちゃなんねえな」「すみません」

今日はなんだかいつもより忙しい。理由はわかっている。優秀な男性看護師がリーダーなので、診療上気付いた点を、色々と私にツッコミを入れてくるからだ。彼はとても優秀なのだが、それにしても声が小さい。聞けば北海道の出身だという。声が小さいのは、北国の人だからか。

しかも今日はいつもより仕事を巻きぎみでやらなければならぬ。午後から記者会見があり、1時間は取られるだろうからだ。もちろんこういう日に限って、仕事は多いと決まっている。余計なことを考えず、淡々と仕事をする。

今日の昼ごはんもカレーだった。いつものカレーより少し辛い感じがしてとてもおいしかった。手作りのカレーは、やはり美味い。日本カレー学会とかあったら入るのに。抗加齢学会はあった気がするが、もちろんそういうことではない。

午後1時になって、新しい院長先生と杏林大学から毎週来てくださる先生が到着された。簡単に挨拶をし、再び業務をする。

3時になり、気づくと報道陣がたくさん詰めかけていた。全部で20人ぐらいはいるだろうか。

記者会見寸前、後ろから撮ってみました。翌日には4紙くらいに掲載されていた。

皆で席に着いた。病院の代理人の弁護士さんの司会で、理事長、杏林大学の先生、支援する会の先生、新院長、そして自分が座った。

記者会見中。机にマイクが5つ置かれていた。

記者会見は1時間にも及び、新院長に質問が殺到した。あまり自分には質問されず、ホッとした。「ぶっちゃけすげー大変でした」と言った。まあ、いいよね。ぶっちゃけすげー大変だったもん。

記者会見中に。床に座るのは新聞記者さんたち。

記者会見が終わると、テレビ局の取材を受け、今度は新院長に病院業務の説明をした。優しそうな先生だ。

夜。人気のない静かな部屋で、ひとり残務を片付ける。ふとあの患者さんの呻き声が聞こえた気がして、病室に赴く。そうか、あの方はもうおられないのだ。空いたベッドの、ぴんと張ったシーツの白が少し眩しい。

デスクに戻り、再びパタパタとパソコンを叩く。明日の今頃は、何をしてるんだろうか。明日の今頃は、僕は汽車の中……なんて歌があったな。

⇒次ページ【Day60】に続く

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高野病院日記

福島第一原発から22キロ、福島県双葉郡広野町にある高野病院は、震災後も1日も休まず診療を続けてきました。病院でただ1人の常勤医として、地域医療を担ってきたのは高野英男院長。その高野院長が、2016年末に火事でお亡くなりになり、病院の存続が危ぶまれる事態になりました。その報に接し、2カ月限定で、高野病院で常勤医として働くことを決めたのが中山祐次郎さん。中山医師が、高野病院での日々を綴ります。

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中山祐次郎

1980年神奈川県生まれ。鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、同院大腸外科医師(非常勤)として10年勤務。2017年2月-3月、福島県高野病院院長を務め、その後、福島県郡山市の総合南東北病院外科医長として勤務。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医、感染管理医師、マンモグラフィー読影認定医、がん治療認定医、医師臨床研修指導医。日経ビジネスオンラインやYahoo!ニュース個人など、多数の媒体で連載を持つ。著書に『幸せな死のために一刻も早くあなたにお伝えしたいこと~若き外科医が見つめた「いのち」の現場三百六十五日~』(幻冬舎新書)、『医者の本音』(SB新書)がある。

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