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2017.04.13

第20回

ニートが熱海に別荘を買った話(後編)

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ニートが熱海に別荘を買った話(後編)

 このマンションでは管理費として毎月1万円を払わないといけないことになっている。それはまあしかたないなと思うのだけど、それとは別に家の風呂で温泉を使うための温泉使用料として、月1万円を追加で払う必要があった。最初は「家でタダで温泉に入りまくれる~」とかのんきに喜んでいたのだけど、冷静に考えてみると別にタダじゃないし、月1万円は結構高い。
 そして、あまり家を使ってなくても電気・水道・ガスの使用料は月にある程度かかる。さらに、固定資産税、住民税の均等割、別荘等所有税(熱海市にある制度)などの税金も払わないといけない。それらを全て合計すると毎月3万円くらいの維持費用がかかる感じになっていた。
 僕らは3人で部屋を共有しているので、一人あたり月1万円ずつを払うことにしていた。年間にすると12万円だ。年12万かー。しょっちゅう熱海に行くのなら12万は割安かもしれないけれど、あまり行かないと高い気がしてくる。旅行をするにしても、12万あったら1泊1万円の旅館に12泊できるし、ひょっとしたらそっちのほうが良い部屋に泊まって快適な滞在ができるのではないだろうか。
 もちろん旅館よりも別荘のほうが、「時間を気にせず好きなだけ滞在できる」とか「友達を自由に泊められる」とかそういう面で良い部分はたくさんあるのだけど。

 そんな感じで熱海に行く情熱が少しずつ薄れていきながらも、行かないと元が取れないからなー、本当はちょっと別の場所にも旅行してみたいけど、宿泊費タダだから熱海に行くか……、みたいな気持ちで半ば義務的に熱海に行くようになっていた頃に、また別の問題が持ち上がってきた。
 このマンションはほとんどの人が別荘として使っているため、他の住人と顔を合わせることは少ない。だけどある日、たまたま隣に住んでいる人と会って話して分かったのだけど、このマンションには管理組合が二つあるらしいのだ。
 普通は管理組合というのは一つしかない。だけど、このマンションでは内部でいろいろ揉めて管理組合が分裂してしまったらしい。
 マンションに引いている温泉の配管やゴミ収集所などは元々あった管理組合(第一管理組合)が管理しているので、新しくできた管理組合(第二管理組合)の人はそれらを使えなくなってしまったらしい。なんかキナ臭いな……。
 隣のおじさんは、その第二管理組合の長らしかった。ちなみに第一管理組合を取り仕切っているのは僕らが物件を売ってもらった不動産屋だ。
「君らが買った部屋は元々管理人室だったんだよ」と第二管理組合長のおじさんは言った。彼の家は東京にあって、週末などにちょくちょくここに遊びに来ているらしい。
「ああ、そうらしいですね」と僕は答えた。
「だけど、管理人室というのは元々住人全体に所有権がある共用部分にあたるので、管理組合を仕切ってる不動産屋がそれを勝手に人に売ってしまうのは本来おかしいんだよ」
「えっ、そうなんですか」
「まあ君らは何も知らなかったのでしかたないし、売ってしまったあいつらが悪いんだけど……。あいつらの管理体制はおかしすぎるんだよ……!」
 ええ、そんなことになってたとは……。マンションってそんな面倒臭い問題があるのか……。
「あと、もう一つ相談しておかなければいけないことがあるんだけど」と、ちょっと深刻な顔でおじさんは言った。
「なんでしょうか」
「このマンション、築年数がかなり古いのもあって、上の方部屋では雨漏りがしてきてるんだよね。君らの部屋は一階だから大丈夫だと思うけど」
「ええ、そうなんですか」
「うん。だから建物全体で防水の工事をする必要があるんだけど、結構お金がかかりそうで、住人全員からお金を集める必要があるんだよ」
「えっ、いくらくらいですか」
「多分、二千万円くらいになるになるかな
「そんなにするんですか…………」そんなお金ないぞ、と僕は思った。
「分担額は部屋の広さに応じて決めるから、君らの部屋は狭いほうなので百万円くらい出してくれればいいかなという感じなんだけど」
「百万円ですか……ちょっと考えておきます……」
 そんなお金がかかるのか……。物件を一旦買ったらもうずっと家賃払わず住めるのでお得だー、とか浮かれたことを考えていたけれど、そんな甘い話ではなかったのだ。どうしよう。
 とりあえずSとHと集まって対策会議を開いた。その時点で物件を買ってから約3年が過ぎていた。
「という話なんだけど、どうする?」
「んー、今さらあの部屋にさらにお金はかけたくないなあ」
「うん」
「正直、今管理費を月1万払ってるのももったいない感じがしている」
 どうやらSもHも最近ではあまり熱海に行かなくなっているらしい。
「このままずっと管理費払い続けるのはだるいなあ」
「もう売っちゃう?」
「でもあんなボロい部屋今さら売れるかな」
「不動産って築40年経つと資産価値はゼロらしいぞ」
「でもまあ僕らはよく分からずに買っちゃったわけだし、僕らみたいなバカがまた買うんじゃないの?」
「おー……。それはありそう」
「どこかに別荘欲しがってるバカいないかなあ」
 次の日僕らは、最初に物件を買った不動産屋に「物件を手放したいのだけど買い取ってもらえないか」と相談をしてみた。そうすると「タダ同然で良ければ買い取ります」という返事が来た。
 それで十分だ。タダ同然で全然構わない。管理費や修繕費用を払う義務から逃れられるならもうなんでもいい。
 そうして結局、向こうから提示された「8万円」という金額で元の不動産屋に物件を売却した。8万円は物件の資産価値というよりは、「熱海まで手続きに来ていただいた手間賃みたいなもの」ということらしい。
 あの不動産屋は8万円で買い戻した物件を、また僕らみたいなよくわかってない人に100万円で売るのだろうか。まあそれはどうでもいい。そこから先は僕らの知ったことじゃない。
 結局僕らの熱海別荘計画は、約3年間続き、90万円で購入して8万円で売却するという形で終わった。その8万円で熱海の居酒屋に行って、刺身を食べたり酒を飲んだりして打ち上げをした。

 まあ振り返ってみれば、一人あたり数十万円の出費で3年間のあいだ物件を好きに使って遊べたので、なかなか悪くない遊びだったと思う。不動産を買うというのも初めてだったので良い経験になった。
 ただ、今から思うと、別荘が欲しいとしても全く物件を買う必要はなくて、賃貸で借りれば十分だった。
 僕らは90万円で購入して毎月3万円の維持費を払っていたわけだけど、結局これは頭金90万円で毎月の家賃が3万円の家を借りるのと同じようなものだった。
 そう考えると頭金が高すぎる。普通に賃貸の部屋を、初期費用を20万円くらい出して月3、4万円で借りたほうが安くついた。
 僕らが買ったような格安物件は「リゾートマンション」と呼ばれていて、熱海や伊豆などの温泉地や、湯沢や苗場などのスキー場の近くにたくさん存在するようだ。どうも、バブル期などに大量に建てられたものが余っているらしい。
 僕らが買った90万円よりももっと安い物件はたくさんあって、50万円とか60万円とか、激安のところでは10万円なんてのもある。10万円で不動産が買えるなんて、ちょっとしたパソコンより安い。驚愕の値段だ。
 もちろんこれには罠があって、購入価格が10万円だとしても、共益費や固定資産税などの毎月の維持費が数万円ずつかかるようになっているのだ。
 不動産というのは自ら放棄することができない。つまり、誰かが買い取ってくれなければ、永遠にずっと維持費を毎月数万払い続けなければいけないということだ。要は激安物件というのは、他人に維持費を払う義務を押し付けあおうとする「ババ抜き」みたいなものなのだ。
 その後、「自分も別荘を持っている」という人に何人か会うことがあった。別荘を持った経緯にはいろんなパターンがあって、「突然親が競売で安く買ってきた」とか、「お金が余ってるので軽井沢の別荘を買った」とかそれぞれ事情は違うんだけど、みんなに共通するのは「別荘、行くのが面倒臭くてほとんど使ってないんだよね……」と言っていることだった。
 僕の話を含めてこれらの話から分かる教訓としては、
「別荘という単語を聞くとなんかテンション上がるけど、実際買うとほとんど行かなくなって維持費だけがかかる」
「それでも別荘が欲しいなら、とりあえず賃貸でしばらく借りてみて、通い続けられそうだったら買えばいい」
 といったところだろうか。
 ただ、別荘を別荘として使うのではなく本気で移住したい場合は、別荘地で安く売っている物件を買うのはありかもしれない。田舎に住むと、地元の人たちとの近所付き合いや地域のしがらみを避けられないものだけど、別荘地ならよそ者ばかりなのでそういうしがらみが存在しないからだ。
 ただし、リゾートマンションの場合は、「あくまで別荘としての利用に限って永住は禁止する」という規約がある場合があるので注意が必要だ(ただしこれも法的拘束力があるわけではないので、実際いつの間にか住んじゃう人が多かったりするという話もある)。
 なかなかうまい話はないものですね。別荘を買う際はよく調べてから買いましょう。

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