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2017.04.20

サーからフォーへ!続・女もたけなわ その4

回転寿司と昔の恋

瀧波 ユカリ

回転寿司と昔の恋

「アラサー」時代に書いた女の「たけなわ期」にまつわるあれこれ。「アラフォー」になって再考してみました。サーからフォーへの峠を越えて、分かったことは……?

回転寿司と昔の恋(サー篇)

 先日、おいしいと評判の回転寿司屋に友人を連れて行った。回転寿司とは言っても、カウンターには店員に直接手渡す注文票が置いてあり、ほとんどの客はそれを使って出来たての寿司を楽しんでいる。私と友人もさっそく注文票と鉛筆を手にした。私がメニューを眺めて最初の一皿目を何にするか熟考していると、友人は目をキラキラと輝かせながらすでに鉛筆を走らせている。どれどれ、と彼女の注文票をのぞきこみ、私は絶句した。そこには「ウニ3皿 トロ3皿 イクラ3皿」とデカデカと書かれている。ちょっと、そんな頼み方したら、一気に9皿来ちゃうよ! たじろぐ私を気にもせず、彼女は注文票を板前さんに元気よく手渡した。

 あっという間に、彼女のもとには9皿の寿司が大集合。彼女は「いぇーい! やったあ!」と子供のような歓声をあげるやいなや、ウニとトロとイクラのお寿司を気の向くままに飲み込み始めた。「ん〜! おいしい! 最高〜!」そんな彼女の盛り上がりをよそに、私は「最初の1貫は白身魚」という聞きかじりの知識をもとに選んだエンガワを口に運びながら、猛烈に後悔していた。エンガワを頼んだことではなく、過去の恋愛について。私の心は小皿の上のお寿司になって、時空のレーンに乗せられてぐんぐんと過去へと遡っていった。

 大学2年の夏。私は、遠距離恋愛中の彼女がいる男の人と付き合っていた。要は、ていのいい二股要員だ。本当は別れてもらってから付き合いたかったけど、言って別れてくれるような雰囲気ではなかったし、言う勇気も出なかったし、しっかりしたプロセスを求めることが最終的にはよい結果につながりやすいという今ではわかりきっているセオリーも、19歳の自分はまだ持ち合わせていなかった。イレギュラーな形での交際を受け入れざるを得なかった私は、なるべく「それらしく」した。目立たず、騒がず、荒立てず。人目に付くところでデートするより彼の部屋でダラダラ、「彼女と私どっちを取るの!?」などと騒ぐのも極力控え、「来週彼女が家に来るから」と言われれば、彼の部屋に置いていたパジャマなどをまとめて持って帰って証拠隠蔽に協力した。また、その年頃の女の子ならばめいっぱい楽しむであろうおしゃれにも、あまり本腰を入れなかった。人の男を横取りしている分際で、楽しんだり自己を主張したりキラキラしているのはよくないという、自分なりの配慮のつもりだった。

 だけど、そういった「それらしさ」は全て間違っていたし、もっと言えばそれらは配慮ですらなく、現状が思い通りにならないことを自分のせいにしないための言い訳だった。目立たず、騒がず、荒立てずをよしとしたのは、ただ単に彼に面倒くさい女だと思われるのが怖かったから。おしゃれをしなかったのは、「あまりイケてない自分だから本命になれないのは仕方がない」と思い続けていたかったから。私は、ひたすら戦うこと、奪うこと、見限ることから逃げていた。「イレギュラーな形の恋愛」だから仕方がないと、全ての自主的な行動を放棄していた。

「イレギュラーな形の恋愛」だって、「自分が選んだ自分の恋愛の形」なのだと胸を張っていればよかったのだ。「イレギュラーならではの楽しみ方がある!」って、開き直って全力で恋を満喫すればよかったのだ。そんなことを、イレギュラーな寿司の頼み方をして、全力で寿司を楽しむ彼女を見ながら思った。レーンの上のお寿司がぐるりと一巡するくらいの時間を経て、やっと現実に心を戻した私は彼女に聞いてみた。

「ねえ、そのお寿司の頼み方って、かなり個性的だと思うんだけど……」
 彼女はこともなげにこう言った。
「えっ? そうかな? 私、今日お寿司を食べに行くって聞いた時から、こうしたいってずっと思ってたの! 好きなものを全部頼んで、ずらーっと並べて食べようって決めてたんだ!」

 彼女の中には、レギュラーとかイレギュラーといった感覚すらなかった。寿司は寿司。恋は恋。こういう精神のありようを、「強さ」と言うのではないか。

 二皿目の寿司ネタを決められないまま、私は寿司を飲み込み続ける彼女にずっと見とれていた。結局、私はその彼を手に入れることはできなかった。もう一度チャンスがあればとは思わない。だけど、もし今後の人生でそんな恋をすることがあったら、今日の彼女の姿を思い出そう。そんな決心を胸に、私は注文票に「コハダ」と無難なセレクトを書き込むのだった。(「GINGER」2013年7月号)

 

回転寿司と昔の恋(フォー篇)

 回転寿司のネタのチョイスから恋愛の話に……この、この思考回路が、サーですよ。まだサーなんですよ。フォーはまかりまちがってもそんなこと考えません。きっと今なら「あ〜わかる、好きなものから行っとかないとね、すぐお腹いっぱいになっちゃうよね〜」と夢のないタイプの共感を示しながらただ寿司を食らうのみでしょう。

 気が付けば、昔の恋に想いを馳せることもとんとなくなりました。もともと私には気持ちよく浸れるような良い思い出もないのですが、それでもサー時代は記憶の引き出しから比較的ましなエピソードを引っ張りだしてはときめきをリサイクルしたり、臭いもののにおいを確かめるように最悪な出来事を思い返しては「やっぱり最悪」と無駄に悶えたりしていたものです。

 たぶん、飽きたんだと思います。自分の過去に。大学の時には高校の頃を思い出し、社会に出たら大学時代を思い出し、そんなふうに振り返りながら生きてきたせいで、今や自分の過去は繰り返し読みすぎた漫画のように、ただ振り返るには退屈なものになってしまった。

 しかし物語は続く。スマホをタップすれば「あの人は今」情報を簡単に得ることができます。寿司を見て思い出した私の昔の恋の相手は、ここ数年なぜか女装にはまっていてSNSに自撮りをアップしまくっています。彼の女装画像を見ると、なんとも言えない気持ちになり内臓がつっぱる感じがして絶対身体に悪いのに、4ヶ月に1回くらい見てしまいます。今、これを書きつつ彼のホームを確認しにいったら新作があがっていました。笑顔の作り方が古臭いのは、きっと彼がもう42歳だから。もう少し若者文化を研究するべき……なんてアドバイスを指先ひとつで送ることもできますが、関わって楽しいことなどきっと起きないのでつっぱる内臓を手のひらでさすりつつただ見ているだけです。

「関わって楽しいことなど起きない」。そういう冷静な判断ができちゃうところが、フォーのフォーたる所以です。(2017年4月)

 

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関連書籍

瀧波ユカリ『女もたけなわ』
長い女の一生で、恋に仕事に遊びに全力で取り組む時間と体力があり、最高に盛り上がっている時期が、女の「たけなわ」。でも「たけなわ期」は、恥をかいたり、後悔したり、落ち込んだりの連続。そんな茨のたけなわ期を滑って転んでを繰り返しながら突っ走って見えてきたのは……。煩悩を笑い飛ばす、生きるヒント満載の反面教師的エッセイ。

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