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2017.03.31

最終回

新聞紙

牧野 伊三夫

新聞紙

  家から少し離れたところにアトリエを間借りしていた頃、昼食に弁当を持って通っていた。弁当は四角い竹編みの箱にめしやソーセージなどを詰めた簡単なものだが、その弁当箱を新聞紙でくるみ、ぱちんと輪ゴムをかける。ハンカチで包んだり、布袋に入れたりしてもよいが、僕には新聞紙にくるんだ方が、なんとなくおいしそうに見えた。子供の頃に親がよくそうやって包んでくれ、それが懐かしいせいかもしれないが、そういう簡素な雰囲気が好きなのである。焼き芋や八百屋の野菜なんかでも新聞紙にくるまれているのを見ると、どことなく素朴な生活臭が漂っていていいなと思う。  
 アトリエでは長い時間、誰と話すこともなく画布と向き合って過ごす。時折、描きながら独り言などをつぶやく。
「うーん、なかなかいいんじゃないかな」
「ああ、この色じゃないなぁ……」  
 ほとんど体を動かさないで過ごしているが、お昼が近くなるとお腹が空いてくる。しかし、時計の針が一二時になるまでは、と弁当を開くのは我慢していた。  
 やがて昼になるとまた独り言である。
「そろそろ、弁当にしよう」  
 茶を淹れてラジオをつけ、弁当箱を開く。食べはじめると、ついつい机に広げた何週間も前の新聞記事を読むことになる。時折、面白い記事を見つけて切り抜いたりもする。新聞紙で弁当を包むと、そんなこともある。

 

 

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