いよいよプロ野球が開幕しました! 今年はどのチームが優勝するのか、応援しているチームの動向に一喜一憂している方も多いのではないでしょうか。
華やかな舞台で、鮮やかなプレーを見せるプロ野球選手たち。しかし、一軍で活躍するヒーローたちの陰には、たくさんの「二軍選手」の存在があります。
プロ野球通でもなかなか知り得ない、そんな「二軍のリアル」を、現役監督である田口壮さんが解説してくださっているのが『
プロ野球・二軍の謎』です。元メジャーリーガーだからこそ書ける日米ファームチームの違いや、二軍の試合の楽しみ方、監督としての苦労話など、プロ野球ファンなら読んでおきたい一冊です。
本書の発売を記念して、内容の一部を抜粋しお届けいたします。

 

 

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■ 二軍とはどんな存在なのか

 プロ野球の二軍は独立独歩のチームではなく、一軍の勝利のために存在しています。球団における一軍と二軍の関係を、レストランと農場にたとえてみるとわかりやすいかもしれません。

 オリックスの場合、一軍監督の福良淳一さんが、球団が経営するレストランの店主だとすれば、僕は直営農場を管理している責任者です。福良さんの一軍レストランが大評判の人気店になるように、おいしい食材を育て、用意しておくのが仕事です。

 福良さんの店の冷蔵庫には、常に上質の食材が詰まっていますが、ときとして、

「牛肉が足りない!」

「用意してあった立派なトマトに傷が入っていた!」

 だからどうにか補給しろ、という緊急リクエストが入ります。僕はそれに対し、農場で大事に育てた食材を供給するのです。「土の状態はどうかな?」「ストレスはかかっていないかな?」「十分に日光を浴びているかな?」など、自信を持ってお勧めするために、日々、品質管理は怠りません。

 そういったレストランからのリクエストは、意外とけっこうな頻度でもたらされるというのが、農場経営を1年間やってきたあとでの感想です。体感としては、「今日は珍しくリクエストの電話がかかってこなかったなあ」と、思うくらいの頻度と言ったらいいでしょうか。一軍レストランで、できる限り最高の料理を提供するためには、それほどたくさんの食材を必要とするのです。

 逆に、農場側の僕から、

「福良さん! いいアスパラガスがあるんですよー」

 と、一押しの食材を売り込んだりもするのですが、

「いま、アスパラは足りてんねん。それより玉ねぎない?」

 と、売り込みに失敗することも多々あります。それでもめげずに、

「いや、ホンマにおいしい! おいしいんですってば!」

 としつこく言い続けると、

「そうか……ならちょっと使ってみようか」

 となることも、たまーにあります。ともかくこういったシステムが、二軍が「ファーム(農場)」と呼ばれるゆえんです。

 

■ 一軍と二軍の違い

 では、そもそも一軍と二軍の違いとはなんでしょう?

 二軍監督に就任したとき、僕は自分がプロ野球界のシステムを正確に把握していなかったことを実感しました。たとえば「プロ野球選手が全員、プロ野球協約の詳細や正確なルールを知っているか?」と聞かれれば答えはノーですし、スコアは読めてもつけられない選手だっています。

 しかし、選手ならまだしも、監督という立場でそれはアカンやろうということで、ここではしばらくの間、僕と一緒に「一軍と二軍の違い」を把握すべく(調べました)、少々説明的になる文章を読み進めていただけたらと思います。このあたりよーくご存知の方は飛ばしてくださっても一向にかまいません。でも一生懸命調べたので、できたらお読みください。

 

 日本のプロ野球界で言われる「一軍」とは、「出場選手登録(一軍登録とも言います)」をされた選手で成り立つチームのことです。

「出場選手登録」に名を連ねることができるのは、1球団につき最大で28人です。

 この28人のうち、実際にベンチ入りして試合に出場できるのは、事前に指名された25人になります。

 

 ベンチから外れるのは、基本的にどの球団も、ローテーションの中で「上がり」と呼ばれる投手です。わかりやすく言うと、その試合の前にすでに先発した3人。その日の試合には絶対に投げないことがわかっている投手ということになります。 ……いまのところ、ついてこられていますか? 大丈夫ですか? 僕にとってこのあたりまでは、調べなくてもわかっている範囲の情報です。しかし、野球のニュースで一軍の勝敗がわかったとしても、二軍の勝敗はおろか、「二軍ってなあに?」というところまでは追えないのが実情でしょう。今回この本を手にしてくださったことがご縁ということで、このあたりのよりディープな知識を、ともに深めようではありませんか。

 ところで野球は9人で行うスポーツです。なのに「なぜ、ベンチにあんなにぞろぞろと人がいるのか」と先日質問されて、どう答えていいか一瞬迷いました。確かに、ベンチに入れる人数が25人と聞くと、やけに多く感じる方もいらっしゃることでしょう。たとえば高校野球、甲子園ではベンチ入りできるのは18人だけです。そう考えると、さらに身体が大きくて場所を取るプロの25人は、多少多いととらえられるかもしれません。

 しかし、プロの試合がいかに精神的にも肉体的にもきつく長丁場であるかを考えたとき、全員が満身創痍でシーズンを戦っていく中では、我々の感覚では「たった25人」となります。実際、「もう今日、野手が足りない! どないすんねん!」と頭を抱えることすらあるくらいで、9人、またはDH(Designated Hitter の略。投手の代わりに打席に立つ攻撃専門の選手)を入れて10人で戦うスポーツに対して25人は、むしろ少ないときもある、というのが実感です。チーム事情にもよりますが、25人どころか、年間で延べ40人以上登録されることもあるのです。

 一方、各球団によって実際の人数は異なりますが、選手として契約している「支配下登録選手」はそれぞれ70名までと決まっています。すなわち、この70名から一軍の28名を引いた人数──最大42名が各球団の「二軍」ということになります。

 

 

 つまり、日本における「プロ野球選手数」とは、毎年各球団70名×12球団で、最大で840名しかいないのです。少子化やスポーツの多様化に伴い、年々野球人口が減ってきていると言われていますが、それでも2016年度の硬式高校野球人口が16万7635人(日本高等学校野球連盟公式ホームページより)とされています。高校生だけで17万人近くいるのです。さらに少年野球や社会人野球など、野球をやっている人口すべてに調査を広げたら、「プロ野球選手になる」というのは、非常に狭き門なのだと言うことができるでしょう。そんな途方もない数を考えれば、自分がプロ野球選手になれたことの強運を思い、支えてくれた人たちへの感謝の気持ちがふつふつと湧き上がってきます。

 余談ですが、あるとき、少年野球大会の開会式で祝辞を述べた来賓の言葉が、保護者の間で話題になっていました。

 来賓「この地域は、多くのプロ野球選手を生み出した土地柄です。みなさんの中から将来の野球選手やメジャーリーガーが誕生するかもしれません!」

 親たち、子供たち、目を輝かせる。

「しかし! ほとんどのみなさんには! そういったことは起こらず! 普通に大人になって普通に就職します。それでも、みなさんが日々培っている挨拶や礼儀の習慣は、必ずみなさんの将来に役立ってくれることでしょう。それでは! 頑張ってください!」

 全員「…………」

 非常に実のある内容でありながら、試合直前だっただけに、夢や希望に燃えていた子供たちが一気に現実に引き戻された、という伝説の来賓挨拶。会場のあちこちから「ぷしゅー」と気の抜ける音が聞こえたといいます。しかし、おっしゃることはまさに正論であり、厳しい道とわかっているからこその親心的なお言葉だったのでしょう……。

 

次回の試し読みは、「プロ野球選手の『昇格』と『降格』」について。4月7日(金)の更新予定です。お楽しみに。 

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■田口壮さんの本

プロ野球・二軍の謎

這い上がるか、クビか。
奮闘する二軍のリアルを現役監督が解説!
一軍を支え、一軍を目指すプロ野球の二軍。各チームに所属する約70名の「支配下登録選手」のうち、一軍登録された28名を除く最大42名の彼ら二軍選手は、どんな日々を送っているのか? 一軍の状況次第で急遽昇格することもあれば、二軍戦への出場機会ですら一軍選手に奪われることも。調整中のベテランと新人選手が入り交じり、「プロの厳しさ」を肉体的・精神的に学ぶ「二軍のリアル」を元メジャーリーガーの現役監督が解説。さらには、日米ファームチームの違いや二軍の試合の楽しみ方、監督ならではの苦労や裏話も満載。


第一章 プロ野球の二軍は何をしているのか?
▶一軍と二軍の違い/二軍と育成の違い/二軍にはどんな選手がいるか/プロ選手の練習、その一例…
第二章 日本の二軍とアメリカのマイナー
▶ピラミッド型のマイナー、一軍の調整場である二軍/文字通り「ハングリー」なマイナー/身分が保証される日本と明日をも知れないマイナー…
第三章 二軍の試合が100倍面白くなる!? 観戦ガイド
▶ウエスタン・リーグ、各チームの特徴/二軍のオーダーの組み方/二軍の試合の特徴/ファンとの距離が近い二軍…
第四章 新人監督のマンスリー・ダイアリー
▶いまが這い上がるチャンス 「負け癖」が最大の敵/野球の基本が「勝負の鉄則」とは限らず/エネルギーは内に秘めるな 表に出せ…
第五章 二軍監督という仕事
▶時代によって変わるのはプロ野球界も同じ/「新人類」と「ゆとりど真ん中」世代のギャップ/選手を納得させるのも監督の仕事/監督には「瞬発力」が必要…