アフリカの東岸に浮かぶマダガスカルへこれまで二度スケッチに出かけたことがある。この島に棲む珍しい動植物やフランスの植民地時代の街並み、人々の暮らしはとても魅力的だった。また、アジアとアフリカ、中東などが混ざり合った食文化も素晴らしかった。
 旅行中、町のどんな食堂へ入っても食事が終わるとかならず給仕の人がデザートのメニューを持ってやって来た。昼食に「スープシノワ」と呼ばれる中華そばをひとつ食べてもそうだった。プリンなどの焼き菓子やヨーグルト、パパイヤやマンゴー、ライチなどの果物が出てきて、コーヒーを飲んでゆっくりと食事をしめくくるのである。熱帯雨林地帯の農園ではバニラが栽培されているので、どんな安食堂へ行ってもテーブルに置かれた壺のなかの砂糖には香りづけに黒色をした乾燥バニラが交ぜてあった。僕はこの国を旅してデザートの習慣がすっかり好きになった。  
 そのなかでも一番好きだったのはバナナフランベ。あまりにうまいので一カ月半の旅行の間に方々の店でこればかり食べていた。首都のアンタナナリボにあるコルベールという最高級クラスのホテルの食堂では、コックがうやうやしくワゴンの上にガスコンロとフライパンをのせてテーブルまでやって来て作ってくれた。バターでバナナを焼き、仕上げにラム酒をかけると炎があがった。僕はカバンからノートをとり出してこれはチャンスとばかりにその作り方をメモしておいた。  
 そのときのメモをたよりに帰国してからもバナナフランベをよく作る。家での食事会のデザートに作ると、友人たちからおいしいと褒められるのでうれしい。フランベしてフライパンから炎があがると、お客たちはきゃあと歓声をあげる。あるとき、びっくりさせてやろうと調子に乗ってフランベのときにラム酒の量を増やしたところ、天井近くまであがった大きな火柱が、台所の網戸を燃やして腰がくだけそうになったこともあった。  
 作り方は、まず弱火で熱したフライパンにバナナ一本あたり大さじ二~三杯ほどのバターを溶かす。バターは少し多すぎるくらいがよい。そこへバナナを並べて黒糖をふりかけ、そのまま弱火でゆっくりと焼いていく。砂糖の量はバナナ一本あたり大さじ三杯くらいだろうか。この菓子はやたらと甘いのがうまい。高カロリーで体によくない、といったことはしばし忘れたい。バターも黒糖も、他の菓子作りとちがって少々分量をまちがったってかまわない。陽気にちょっと鼻歌など歌いながら気楽にやるのがいい。その方がきっとおいしく出来るはずだ。  
 バナナから水分が出てきて、バターと砂糖が絡まり合い、ぐつぐつと煮詰まってカラメルソースが出来てきたら、それをスプーンで掬ってバナナに何度も丁寧にかけてやる。やがてバナナの表面に少し焦げ目がつきはじめたら、傷をつけないようにゆっくりとひっくり返して全体に焦げ目をつけていく。何度か繰り返すと、そのうち「く」の字に曲がっていたバナナはやわらかくなってまっすぐ伸びてくる。ほどよくアメ色になり、うっすらと焦げ目がついたところで、いよいよフランベだ。ここまではずっと弱火だが、ほんの少しだけ強めてラム酒を大さじ一杯ほどまわしかけ、マッチを一本すって近づけると、ボッと炎があがる。僕はめんどうだから、フライパンを斜めにして炎を移し入れてしまう。髪の毛が燃えたりしないように、少し手を伸ばしてフライパンを握っておいた方がいい。また、くれぐれも炎があがったときにびっくりしてフライパンを放り投げたりしないように、まずは心を落ちつけて。  
 火から降ろすとカラメルが冷めてすぐに固まるので、手早く皿に移して食べる。バニラアイスや焼いたパン、イチジクやりんごなどの果物やミントの葉なども一緒に盛りつけるとなかなか洒落たデザートになる。さらに、アイスに甘口のシェリーのペドロヒメネスなどをかけると大人の味になるだろう。グラッパやカルヴァドス、ウィスキーなどの食後酒とも相性がよい。

 

 

この記事をシェア
この連載のすべての記事を見る

★がついた記事は無料会員限定

関連書籍

牧野伊三夫『かぼちゃを塩で煮る』
→試し読み・電子書籍はこちら
→書籍の購入はこちら(Amazon)