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2017.03.24

第9回

いわしの酢じめ

牧野 伊三夫

いわしの酢じめ

 魚屋で新鮮ないわしが青や銀色にまぶしく輝いているのを見ると、食べたくなってついつい買ってしまう。僕はこの魚が好きで、水族館で飼育係の人が演技のごほうびにと、オットセイに向かってバケツから放り投げたりしていると、オットセイよりいわしの方をずっと見ている。オットセイは噛まずにペロリと飲み込むのだが、ああ、もっとよく噛んで味わえばいいのにと思う。  
 いわしは酢じめにして食べる。魚屋で買うと三枚におろしてもらい、身が傷まないようにと足早に家に帰る。  
 家に着いたら、いそいそと塩をまぶす。塩は多すぎると思うくらい、表面がじゃりじゃりするほどまぶしてザルに並べる。ほどなく、身から水が出てくるから、ザルの下にはボウルかなにかを置いておくとよい。三〇分から一時間くらいたったら、酢を入れた別のボウルでいわしを洗い塩を落とす。このとき後で臭みが出る原因になるから決して水で洗い流してはいけない。酢は上等なものならばなおよいはずだが、安く市販されているもので十分だ。そのあとバットに並べ冷蔵庫に二、三時間寝かせておけば出来上がる。酢はカルシウムを軟化させる働きをするから、いわしの小骨もやわらかく食べやすくなる。へぎ切りにしてレモン汁をかけて生姜醤油で食べる。さらにもう二日ほど冷蔵庫に寝かせると、酢や塩がなじんで鮨屋のタネのような実にうまい酢じめとなる。  
 また、西洋風の味付けもいい。へぎ切りにして皿に並べ、上等のオリーブ油、コショウ、レモン汁、パセリのみじん切りをかけて薄切りの玉ねぎ、トマトを添えれば、白ワインやシェリーによく合う前菜になる。あるいは、ローリエとオリーブ油に漬けてオイルサーディンにするのもいい。

 

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