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この新刊がすごい!!

2017.04.06 公開 ツイート

権力の理不尽さに立ち向かう、人間の怒りと誇りに、心が熱く震えた。

武内涼『駒姫―三条河原異聞―』 細谷正充

 『駒姫―三条河原異聞―』武内涼
新潮社刊/本体1,800円+税

 波乱に富んだストーリーを通じて、人間賛歌を力強く表現する武内涼が、またもや素晴らしい作品を上梓した。文禄四年に起きた有名な騒動を題材に、愛すべき姫君を助けようとする最上家の男たちの奮闘を描いた、戦国小説である。

 太閤秀吉の甥であり、後継者と目されていた関白秀次。しかし秀吉に嫡男が生まれたことで、風向きが変わった。謀反の罪をでっちあげられ、高野山に蟄居し、ついには切腹に追いやられたのだ。さらに秀次の妻妾や子供のみならず、侍女や乳母など、総勢三十九名が三条河原で処刑された。その中でもっとも悲惨だったのは、羽州の狐と呼ばれた戦国大名・最上義光の娘の駒姫であろう。東国一の美女といわれた十五歳の駒姫は、秀次の側室になるため上洛したところ、この騒動に巻き込まれ、命を散らしたのである。

 作者は第一章を丸々使って、家族や家臣に愛される駒姫の魅力を際立たせた。そして針仕事専門の侍女――御物師のおこちゃと共に秀次の暮らす聚楽第に入った彼女の受難を綴っていく。その一方で、駒姫とおこちゃを助けようとする、最上家の軍師の堀喜吽と、おこちゃの許嫁の鮭延主殿助の奔走を活写するのである。

 デビュー作『忍びの森』から派手なアクションを得意としていた作者だが、本書は控えめ。ほとんどチャンバラ・シーンがない。さらに、喜吽たちが最後に頼る人物にこそ意外性があるものの、ストーリーもストレートだ。いままでの自身の持ち味を、封印したかの感すらある。

 でも、だからこそ、書きたかったテーマが鮮明に浮かび上がってくる。それは理不尽な権力の横暴に立ち向かう、人間の怒りと誇りだ。罪なき者を犠牲にしようとする権力者への、最上家の人々の怒り。座敷牢に押し込まれた駒姫たちが生み出す和み空間に代表される、過酷な状況の中で示された女性たちの衿持。圧巻の筆力で、作者はそれを紙上に刻みつけてくれた。慟哭の史実の上に創られた、熱き人間ドラマ。そこに託された想いに、心が震えるのである。

(「小説幻冬」2017年4月号より)

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