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2017.03.23

第14回

大失敗したことに気がついた。今日はあの日だ。

中山 祐次郎

大失敗したことに気がついた。今日はあの日だ。

ある人から送られてきた、私の激励の似顔絵。

福島第一原発から22キロ、福島県双葉郡広野町にある高野病院は、震災後も1日も休まず診療を続けてきました。病院でただ1人の常勤医として、地域の医療を担ってきたのは高野英男院長。その高野院長が、2016年末に火事でお亡くなりになり、病院の存続が危ぶまれる事態になりました。その報に接し、2017年2月~3月の2カ月間、高野病院で常勤医として働くことを決めた中山祐次郎さん。中山医師が、高野病院での日々を綴ります。

* * *

【Day 41】

今日は大変だった。まだ夜の10時だがもう起きていられない。今日もいろんなことがあったが一つも思い出せない。

一つだけ、「辛くないと言えば嘘になるけど幸せです」と言うさだまさしさんの歌「風に立つライオン」の歌詞を思い出した。カッコつけ過ぎだ、おやすみなさい。

【Day 42】

東北は朝から雨だった。車のラジオから流れるFMは、永遠を誓い合った愛を歌っていた。

家のドアを開けると、静かな雨が降っていた。明らかに冬とは違う雨。春の雨はいつも、優しい。細かい雨の粒子が、フロントガラスを点描画のように埋め尽くす。ワイパーは容赦なく水滴を全て拭い去る。それでもなお水滴はフロントガラスを濡らす。

車を運転しながらラジオを聞いていて、僕は大失敗をしたことに気がついた。なんと、今日は男性から女性へお返しをするあの日じゃないか。東京で何か買って行こうと思っていたのに、完全に忘れてしまっていた。まいった。

仕方ない。来週にでも何か買って行こう。

雨だから、窓を開けて雨の音を聞く。16年前の3月もこうして、横浜の自室から雨の音を聞いていた。医学部の大学受験に2回思いっきり失敗した僕を、非難せず、励ましもせず、ただ無言で包んでくれたのは、春の雨だけだった。僕は受験した大学から送られてきた「不合格通知」を自分の机の前に貼り、毎日眺めた。そのうち穴が開くんじゃないかと思うぐらい毎日見た。20歳だった。人生の一番美しいとき、僕は、友達付き合いを完全に止め、頭を丸め、履いている靴には穴が開いていた。惨めさを胸いっぱいにして、うなだれて歩いた。前なんて、向けなかった。

もしかしたらこれを読んでいるかもしれない、今年受験に失敗した人たちよ。がんばれ。浪人はきっと無駄なまわり道だ。だけど、「無駄なことを必死にやる」ということは決して無駄なことでは無いのだ。

昼食で出たオムライス。患者さんもおいしそうに召し上がっていた。

病院につくと、たくさんの書類が出迎えてくれた。それらに目を通しながら、今日一日のスケジュールを小さい紙に書いていく。午前中にはずいぶん多くの外来患者さんがいらした。きっと土日に我慢していた人も多かったのだろう。普通雨の日には外来患者さんは減るものだが、高野病院ではそういうことは無い。

今夜は当直だから、これから連続36時間勤務。あまり最初から飛ばしてはいけない。休みながら業務を続けていく。

仕事の合間に、ふと待合室のロビーの窓から見える雨に見とれる。窓を開けて音を聞きたいが、そうもいかない。カーペンターズの「Rainy days and Mondays」が流れてくる気がした。

そのまま当直の時間(17時)になった。看護師さん、事務の方々がひとり、またひとりと帰っていき、病院はすぐに静けさに包まれる。18時半にもなると、まるで夜中のような静けさとなる。僕は食堂に行き、いつも準備してくれている食事を食べる。真っ暗な食堂で、冷たい空気の中ひとりで食べる。

当直中、空腹に堪えかねて食べた非常食用のチキンラーメン。

当直は平和だったが、真夜中3時半ごろに仕事が発生した。一番深い眠りについている中で起きて仕事をする。泥のプールの中から起き上がるような全身の重さを感じる。口の中がネバネバしている。自分で自分が何を喋ってるのかたまにわからなくなる。この夜、今年一番の雪が降ったが、僕は全く気付かなかった。

→次ページ(Day43に続く)

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