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2011.03.01

待たせる男

狗飼 恭子

待たせる男

 大変に謎なのである。
 たとえば仕事や用事があって、そのあとに会ってご飯を食べようなどという約束をするとき、わたしの恋人は、自分が行ける時間よりも随分早めの時間を指定する。
 たとえば、
「五時に終わると思うから、五時半に待ち合わせをしよう」
 という連絡が四時に来る。ではそのつもりで、と一応五時十五分くらいには待ち合わせの場所へ着くよう準備する。わたしは人を待たせるのが苦手なので、少し早めに行って待ち合わせ場所近くで時間をつぶすのだ。すると五時に
「ごめん仕事が伸びたから待ち合わせ六時半で良いかな」
 という連絡が来る。もちろんこの時点で仕事が終わっていないわけだから、五時半に来られるわけはない。「分かった」以外に言えることはないだろう。わたしはまた時間をつぶす。と、六時半に
「ごめん今仕事場を出た」
 という連絡が来るのだ。結局わたしはおよそ二時間、彼を待たねばならなくなる。二時間ならまだましで、五時にうちへ来るという約束をして、結局来たのは九時過ぎだったりすることもざらにある。
 そんなことが何度か続いたのち、わたしはついに言った。
「ねえ、どうしていつも無理そうな時間を言うの? 五時半に来るってきみが言うから、わたしは待たされたと思ってがっかりする訳じゃない? 最初から七時半ぐらいになる、と言っておいてくれれば、六時半に来てもああ急いで来てくれた、ってわたしは喜ぶんだよ?」
 ああ確かにそうだね、と彼は言った。けれど、その次に待ち合わせをしてもやっぱり、彼は自分が本当に来られる時間よりも随分と早めの時間を指定するのだ。二、三度言って治らなかったので、もう言うのすら止めてしまった。
 謎なのである。
 どうせ会うのなら、ご機嫌な状態で会いたいではないか。待たせたり待たされたりしたあとでは、どんなに会いたかったとしても喜びは三割減だ。それよりは三割り増しのご機嫌を目指し、「七時までかかると思ったのに六時半に来られた」という状況を作ったほうがお互い幸せではないか、と思うのである。
 彼だってわたしが機嫌が良い方が楽しいはずだ。なのに、なぜなのだろう。わたしはたぶん、待たせれば待たせるほど美しくなる薄幸タイプ、なんかではないと思うのだが。
 ひょっとして多くの男の人は、女を待たせるのが好きなんじゃなかろうか。
 という結論を出すのは早すぎるだろうか。
「家に誰かが待っていてくれるのが嬉しい」
 と口にするのはだいたいが男性だ。港々に女を待たせているのも男性だ。
 人を待たせるのってものすごく疲れる、とわたしは思うのだけれど。
 謎である。

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