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2017.03.19

第13回

医療と介護。現場はとてもシビアだ。

中山 祐次郎

医療と介護。現場はとてもシビアだ。

暖かい陽射しが病院の待合室に差し込む。

福島第一原発から22キロ、福島県双葉郡広野町にある高野病院は、震災後も1日も休まず診療を続けてきました。病院でただ1人の常勤医として、地域の医療を担ってきたのは高野英男院長。その高野院長が、2016年末に火事でお亡くなりになり、病院の存続が危ぶまれる事態になりました。その報に接し、2017年2月~3月の2カ月間、高野病院で常勤医として働くことを決めた中山祐次郎さん。中山医師が、高野病院での日々を綴ります。

* * *

【Day 36】

当直明けから始まった今日。当直室でシャワーを浴びコンタクトレンズを装着する。すると、左目の調子がおかしい。明らかにコンタクトコンタクトが合わず、痛みが強いのだ。角膜に傷でもついてしまったか。コンタクトを交換しようとしたが、なんと替えのコンタクトが無い。どうしよう、これはピンチだ。そうは言っても、解決策など無く、目が痛いまま1日のスタートとなった。こんな時にも、代わりのドクターがいれば、ちょっと家に帰って取って来られるのに、と思う。仕方ないのだ。これがワンオペだ。

今日は外来は休診日で、代わりに患者さんの回診がある。回診の前に夜中に救急車で来た患者さんの転送先を、例のイケメンソーシャルワーカーに探してもらう。ここには書けないが、この救急患者さんにも溢れるほどのドラマがあった。人間の営みは、当たり前だがとても多様で、一つとして同じものはない。福島のこの病院に来てからというもの、患者さんの人生に触れることが多くなり、それを改めて深く実感している。すべての人はドラマチックだし、すべての営みはいとおしい。どうか、ご無事で。医者だって祈る。

イケメンソーシャルワーカーさんにいただいた、みそ味のプリン。

思いっきり白衣にこぼしてしまった。

片目のまま、内科の患者さん全員を一人一人見ていく。スタッフの皆さんが気を利かせてくれて、私は患者さんごとにベッドサイドに座って診察することができ、腰を痛めずにすんだ。聴診器を耳につけると、僕は静寂の世界に沈みこむ。静かな世界の中で、心臓の音と対峙する。あまりに静かなものだから僕は途中で眠くなってしまった。いかんいかん。

昨晩あまり寝てないからか、逆に頭は冴え渡る。どう考えたって体も疲れているが、体を止めることができない。全く休まずに午前中の回診、カルテの記載、患者さんの転院の依頼。そして病棟での指示出しを終え、気づいたら12時になっていた。慌てて1階と2階の患者さんの食事スペースに向かう。皆さんよく召し上がっている。あの食べるたびにこぼしてしまう人はどうなったか。食べ物をむせ込んでしまい肺炎になった人の飲み込みはどうか。そして糖尿病なのに間食ばかりしているあの人の食欲はどうか。一人一人お顔を見に行く。

間質性肺炎という肺炎でずっと息が苦しいあの患者さんは、呼吸は苦しそうだが、それでもいつも食事は10割食べている。驚きだ。こういうところに人間の生命力はあらわれるのだろう。健啖家はいつも長生きだ。

健啖家と言えば、以前の職場のボスのことを思い出した。60近くなっても、焼肉も中華料理もガンガン食べていた。「ゆうじろう、大盛りだな?」

そう言って手術が終わったあと、注文をとってくれるオーダーはいつも大盛りだった。数えきれぬ程食べた近所の蕎麦屋「長寿庵」の鍋焼きうどん、スタミナきしめん卵入り、カツカレーどんぶり。お元気にしていらっしゃるだろうか。そしていったい「長寿庵」という名前の蕎麦屋は、日本に幾つあるのか。多過ぎる。実はフランチャイズだったりして。

昼になり、食堂で上手すぎる昼食をいただいてから、栄養士さん達の部屋を訪ねる。昼食の後の日課だ。特に用事は無いのですが、と言い部屋に入ると、それでも「先生、あの患者さんの栄養補助食品なのですが……」などと話し合いが始まる。顔を突き合わせなければわからないことが多々ある、と実感。コミュニケーションはとにかく量。直接会って話した時間の長さである。

職員用の食堂。

その後普段は少し休憩するのだが、今日は違った。どうしてもブレーキがかけられない。脳がずっと興奮状態にあるため、うまく休むことができないのだ。その結果、夜にはパフォーマンスが下がり仕事の効率が悪くなるのはわかっているのに。

毎日ナースステーションでスタッフを描いた絵に色を塗っている患者さんがいる。その方の隣で一緒にお話をする。私の絵も書いてくださいよ、と言うとニタァと笑って「イヤだ」と仰ったが、それでも似顔絵を描いてくれた。それがこれだ。

半世紀以上年上の患者さんが描いてくださった、私の似顔絵。エエンチョウ。

嬉しかったのでフェイスブックのプロフィール画像にした。

ほかの看護師さん達にも書いてあげているようだ。とても良いリハビリになる上に、書かれた人は嬉しい。

書類にたくさんの印鑑をつき、デスクを離れ廊下に出ると、暖かい日差しの中、ひなたぼっこをしながら新聞を読んでいる患者さんがいた。同じテーブルに座り少しお話をする。家に帰りたい、と涙を流される。

ここにきて感じる事はたくさんある。自分の親の介護はどうするのか、自分は老年期になったときどう過ごすのかなどだ。

現場はとてもシビアだ。今までは何とかなってきが国全体のコストは、これからどんどん減らしていかねばならないだろう。僕が介護を受けるときにはどれほどのクオリティなんだろうか。

家に帰り痛い目をつぶり、僕は闇に吸い込まれた。

 

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