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2017.03.20

サーからフォーへ! 続・女もたけなわ その1

初デートのお店問題

瀧波 ユカリ

初デートのお店問題

「アラサー」時代に書いた女の「たけなわ期」にまつわるあれこれ。「アラフォー」になって再考してみました。サーからフォーへの峠を越えて、分かったことは……?

初デートのお店問題(サー篇)

 先日聞いた話。アラフォーの知人が、同年代の男性とデートすることに。彼から「おいしいイタリアンがあるので食べに行きましょう」と事前に言われていた彼女は、初デートということもあって、それなりにお洒落をした。いざ、待ち合わせ。駅構内の飲食街を突き進む彼が足を止めたのは……『洋麺屋 五右衛門』。ご存じ、お箸で食べるスパゲッティで有名な、全国に300店以上の店舗を展開するフランチャイズのレストランである。「ここです!」と胸を張る彼。まあ素敵!……とはならず、しばし呆然とする彼女。しかし何も言えず、ふたりは結局お箸でツルツルとスパゲッティを食べたのでした。ちゃんちゃん。

 ……この手の体験談を話すと、「女性側の気持ちがわかる!」という人と「全然わからない!」という人にきっぱり分かれる。「あの店なら嬉しい、この店ならイヤだなんて何様のつもりだ」「グルメ気取りでチェーン店をバカにするその感覚が卑しい」といった非難をしてくる人もまれにいる。そしてその手の言説は厄介なことに、即座に反論できないほど正論じみた色を帯びている。

 なのでここでは、そんな非難に対して上手に反論できるように、彼女の経験を例として「初デートで五右衛門の何が悪かったのか」について整理したいと思う。

 まず、真っ先に言いたいのは、これは五右衛門の料理がまずいとかレベルが低いとかそういう話ではないということ。五右衛門はおいしい(断言)。いつだってパスタの茹で具合はちょうどいいし、油っこくないし、付いてくるスープもいい味出してる。五右衛門をまずいと言う人間には会ったことがないし、これから先もそんな人間は現れないだろう。

 しかし、五右衛門は「おいしいイタリアン」かと言われれば、私や彼女のようにそれなりに交際経験や食べ歩き経験を積んでいる女子からすれば、NOである。「おいしいイタリアン」という言葉から想像する風景は、白いテーブルクロスの両側にカトラリーが並ぶお行儀のよいイタリアンレストラン、もしくは大きなピザ用の窯がすえられたピッツェリア、もしくはカウンターで軽く一杯飲みながらアンティパストを楽しむイタリアンバル……である。はい、ここでもう一度五右衛門を想像してみよう、ほら、違う!(このセリフは反論する時にそのまま使ってみて下さい)同年代の男性から事前に「おいしいイタリアンを」と言われていて、そういった情景を想像していて、たどりついたのが五右衛門だった時、驚かないでいられようか。

 ではそこで気を取り直して「まあでも五右衛門もおいしいし問題ない!」というふうにならなかったのは、この時彼女の脳裏に様々な疑問が怒涛のように浮かんだからである。「この人にとってのおいしいイタリアンは、本当に五右衛門なのだろうか? だとしたら、今まで彼はどんなところで食事してきたのだろう? あまり外食をしたことがないのか? だとしたら、今後のデートも五右衛門? いや、初デートで気合い入れて五右衛門なら、2回目や3回目はもしかしたらもっとチープな所……? 付き合い始めでいろんなお店に行くのって、男女交際の楽しみのひとつだと思うんだけど、この人と付き合うならそこのところは期待できないということ? それか私が教える? でも私、言えるだろうか……『次のデートでは本当においしいイタリアンに行こう』って。彼のプライドを傷つけることになるのでは? 異なる価値観を擦り合わせていくのって大変なこと……彼を傷つけないために、私が彼に合わせる? まだ好きになってもいないのに、その覚悟が今できる?」

 ……かくして人は、初デートのお店のチョイスが原因で交際を断念する、といった結論を導き出してしまうわけなのである。安い店がイヤだから冷めたとか、そういう簡単な話ではない。非難された時には、ここのところをとっくりと説明しよう。それでも矛を収めない相手は、ただ誰かを非難したいだけの暇人だから放っておこう。
 最後に、彼と彼女のその後を。五右衛門を出てから彼が「ビールが飲めるお店に行こう」と言って彼女を導いたのは、何を間違ったのか大正ロマンの香り漂う純喫茶『椿屋珈琲店』。当然アルコールが置いてあるはずもなく、仕方がないので珈琲を飲み、別れ、それっきりとのこと。予想の斜め上を行く彼のミスチョイス、ここまで来るとちょっと可愛くもある。自分が付き合うのは勘弁だけれどね! (「GINGER」2013年4月号)

 

初デートのお店問題(フォー篇)

 こんにちは、37歳既婚子持ち女性です。子供は小学生の娘がひとり。
「初デート」……初デートって何じゃったかのう……と一瞬でじじい口調になってしまうくらい、もはや初デートというものに縁のない人間になってしまいました。だから初デートのお店がどうこうって考える機会もありません。自分の書いたエッセイを読んで、月の乾いた大地に立って地球を見上げているような気持ちになる日が来るとは……地球は青かった。私も青かった。

 いや、これを書いた数年前だって、結婚しててもう子供もいたんですよ。でも、まだそんなに遠くなかったんです。たぶん練馬から新宿の高層ビル群を眺めるくらいの距離感でした。私だってその気になれば……大江戸線に乗ればあそこまで行ける…そういった感覚だったように記憶しています。じゃあこの数年で、サーからフォーへの峠(35歳あたり)を越えたとたんに何が変わってしまったのか。

 恐らくですが、変わったのは私ではなく、まわりです。私は周囲の友人たちに比べると比較的早めに結婚(27歳)して出産(30歳)したので、自分が子持ちになっても婚活やデートの話を聞く機会がけっこうあったのです。ところがこの数年で、独身の最後の残党もほぼ結婚と出産のフェーズに入り、Facebookのタイムラインにはむちむちぷりんの赤ちゃんや幼児があふれ返っています。そこに「デート」という文字があったとしても、それはたいがい「今日は久々に息子ちゃんとデート!トミカ博へGO」といった育児用語なのです。あ、でも先日「子供2人をジジババにやっと預かってもらえて、5年ぶりに嫁とデート!」という本物のデート投稿がありました。若者たちよ、覚えておいてくれたまえ。子持ちの夫婦っていうのは一緒に住んでいるくせにデートするのに5年もかかるんだ。

 じゃあ夫婦の5年ぶりのデートが五右衛門だったら……もうそれは初デート以上に由々しき事態ですね。5年耐えて五右衛門かよと。いや、重ね重ね言いたいのですが五右衛門に罪はありません。五右衛門、好きです。おいしいです。 (2017年3月)

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長い女の一生で、恋に仕事に遊びに全力で取り組む時間と体力があり、最高に盛り上がっている時期が、女の「たけなわ」。でも「たけなわ期」は、恥をかいたり、後悔したり、落ち込んだりの連続。そんな茨のたけなわ期を滑って転んでを繰り返しながら突っ走って見えてきたのは……。煩悩を笑い飛ばす、生きるヒント満載の反面教師的エッセイ。

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