好きな新聞、嫌いな新聞あるでしょう。とりわけ『朝日新聞』はそのエスタブリッシュさゆえに、風当あたりの強い新聞です。2014年、その朝日新聞で報道姿勢を問う出来事がありました。プチ鹿島さんの『芸人式新聞の読み方』より抜粋してお届けします。
 

「W吉田事件」で『朝日』が元気をなくして困るのは誰か

 2014年5月20日、『朝日新聞』はいわゆる「吉田調書」を入手し、《福島第一の原発所員、命令違反し撤退》や《ドライベント、3号機準備 震災3日後、大量被曝の恐れ》などと大々的に報道し、大きな話題となった。

 ところが、その3か月後の8月18日、今度は『産経新聞』が「吉田調書」を入手し、「実際に調書を読むと、吉田氏は『伝言ゲーム』による指示の混乱について語ってはいるが、所員らが自身の命令に反して撤退したとの認識は示していない」などと、『朝日』のスクープを全面批判し始めたのである。

『朝日』にしてみれば、「慰安婦検証報道」で「吉田証言」を虚偽と認めて他のマスコミが大騒ぎになっている中で、今度は5月のスクープ記事「吉田調書」への疑念が出てきたことになる。踏んだり蹴ったりである。

 それにしても、原本は同じなのに、『朝日』と『産経』で互いの「吉田調書」の解釈が違う。こんなことってあるんだろうか?

 あるんです!

 私の見てきた得意分野で説明をすれば、かつて90年代のプロレスマスコミがまさにそうだった。主観や思想が違えば、同じ試合を見ても専門誌によって違う切り口になる。書き手がどの団体を推しているかで、論調もまったく異なるということが起きるのである。

 つまり、そこに送り手側の思想や利害が絡んでいるからこそ、同じ「試合」でも伝え方が違う。なんなら読者を誘導する。『朝日』と『産経』の「吉田調書」をめぐる報道の食い違いは、久々に味わう「プロレス報道物件」だったと私は確信している。だからこそ、両紙の記事を読み比べることに意義があるのだ。

 世の中には、「朝日は嫌い」「産経は偏っている」と、その名を耳にしただけでアレルギー反応のように否定する人もいる。でも、だからといって即座に切り捨てるのはあまりにもったいない。こういう機会にこそ、せっかくなのだから、行間から漂う両紙の「狙い」をそれぞれ感じてみればよいのだ。

 さて、とはいえこのプロレス物件、結論から言えば『朝日新聞』の完敗となってしまった。2014年9月11日、政府が「吉田調書」の早期公開に踏み切った同じ日に、朝日新聞社の木村伊量社長が謝罪会見を行い、「思い込み」で記事を書いてしまったと「吉田調書スクープ」の誤りを認めたのだ。

 そのついでにという感じで、慰安婦報道での「吉田証言」に関する誤った記事を掲載したこと、その訂正が遅きに失したことについても、「読者のみなさまにおわび致します」と述べた。

 東電の「吉田調書」スクープを守るために、慰安婦の「吉田証言」虚偽を認めたはずが(注・私の見立てです)、その「吉田調書」が公開されてしまったことで、まさかの共倒れとなってしまったのである。

 この件で、タブロイド紙などには「『産経』の手にも『吉田調書』が渡ったのは、官邸の朝日潰しではないか」という内容の記事が載った。『朝日』だけが手に入れたはずの機密文書を、絶好のタイミングで『産経』も入手したのは、「吉田調書」の噓を晒すために、官邸側がわざと『産経』にリークしたのではないか、というわけだ。慰安婦報道での虚偽で劣勢になっている『朝日』への、いわば追い打ち。「W吉田責め」である。

 官邸による特定のマスコミへのリークというのはえげつない。これだけでも一章を書けるが、ここで考えたいのは、「朝日の油断」だ。「自分たちしか入手してないから、安心して読者を誘導しようとした」と言ったら失礼かもしれないが、「まさか吉田調書が公開されるはずがない」という油断が『朝日』にはなかっただろうか。

 しかし安倍政権は、「吉田調書」を『朝日』以外にリークして『朝日』を追い込み、そして「真実を見てもらう」という大義名分で「吉田調書」を公開してしまった。

『朝日』は、安倍政権の対『朝日』への敵対心(マスコミに追及され、1年で退陣した第一次政権の頃からの怨念)をナメていたのだと思う。

 こういう記事に対して、権力側はデンと構えてスルーするはず、と『朝日』は思ったのかもしれないが、自分たちが安倍政権から思った以上に嫌われているという現実を過小評価していたのだろう。そもそも安倍首相はそこまで器がデカくない。国会での首相自身による野次攻撃や、『日刊ゲンダイ』とのコラコラ問答(第4章)を知っていればわかることだ。

 この騒動によって、マスコミでは「朝日叩き」が異様に盛り上がった。「売国」「反日」など、これまでネットでしか見かけることのなかった罵詈雑言が週刊誌にすら躍った。中には、「朝日は廃刊すべきだ」などと主張する人たちもいた。

 しかし、どうだろう。もしも本当に『朝日』が廃刊してしまったら、生き甲斐をなくして嘆き悲しむのは、当のアンチの側ではないかと私は思うのだ。アンチ『朝日』の論陣は、その「アンチ芸」で飯を食っている側面もあるということを認めたほうがいい。

 想像してほしい。あなたたちの“大好きな”『朝日新聞』がいなくなったときの喪失感を。それはまるで、ボケがいなくなったときのツッコミの寂しさだと思う。現に、最近の『朝日』は元気を失い、安倍政権に対してかなり腰が引けているように見える。

「気に入らないから消えろ」は子どもの言い分だ。『朝日』とそのアンチには、トムとジェリーのように仲良く追いかけっこをしてほしいと思うのである。
***
つづきは、『芸人式新聞の読み方』でお楽しみください。

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