伊豆天城山で女たちの駆け込み寺「サンガ天城」を運営し、たくさんの悩める女性を救ってきた尼僧・戸澤宗充さん。著書『すべてを喜びとする。駆け込み寺庵主の「引き寄せ」問答』より、頑張ってるあなたの小さなモヤモヤをすっきり解消する問答をお届けします。


 私たち家族が収容所に入れられていたとき、母が病気になりました。シラミによるチフスで高熱を出して、もうなんにもわからない状態。歌ばっかり歌って、ろうそくで頭の毛を燃やしたりしてね。収容所にいる女を目当てに、ソ連兵が押し掛けてくるんですけど、母はそういう状態だからソ連兵も気持ち悪がって寄ってこなかった。それは幸いでしたね。それから奇跡的に病気が回復して日本に帰ることができたのですが、とにかく食べ物と仕事がありません。だから、親戚の家に身を寄せて、お年寄りの下の世話から食事の世話まで全部しながら、母は私たちに食事を与えてくれました。弱音ひとつ吐かずに。

 そのおかげで、私はそれほど苦労というものを感じませんでした。お腹は空いていましたけど、心は渇いていなかった。それほど強い母なのに、私が大人になってから発したひと言で、死のうとしてしまうんですから、当時の母がどれほど耐え忍んでいたのか改めて思い知らされます。

 私自身も、母と同じ30代のときに、女手ひとつで子育てをしていくことになりました。日曜日も働いていたので、子どもたちと接する時間はほとんどなく、遠足にも運動会にも行っていません。子どもたちは寂しかっただろうと思いますけれど、なぜ、お母さんがあまり家にいないのかということを、彼らはちゃんとわかっていました。「お母さんは一生懸命働いて、学校のお金や洋服を買うお金を作らなくちゃいけない。だから人様に迷惑をかけることはしないでね」と、目を見て伝えていました。しつけと言っても、接する時間があまりないので、教えたことは本当に基本的なことだけです。そしてなんとか、人の道を外れることなく、息子たちは大人になりました。不思議なもので、長男は今、僧侶になっています。

「子育てに自信が持てない」というお母さんがいますけれど、ごく自然なことだと思います。私も自信なんてありませんでした。大切なわが子ですからね、みんな迷いながら一生懸命育てています。特に、最近は働くお母さんが増えましたから、仕事をしながら子どもを育てるのは大変でしょう。早くから保育園に預けたり、ひとりっ子だったりすると、「かわいそう」とか「2人目はまだ?」なんて言われたりね。本当に大きなお世話ですよ。他人に何を言われようが、家族が笑って過ごせているならそれでいいじゃないですか。気にすることはありません。 

 それでも、一緒にいる時間が少ないと、不安に思うこともあるでしょう。でも、常にそばにいることがよい子育てとは限りません。大切なのは、そばにいる時間の長さではなくて、相手の目を見て向き合うこと。そうすれば、きっとわかりあえると信じています。

他人に何を言われようが、
家族が笑って過ごせているなら
それでいいのです。

そばにいる時間の長さと、
絆の深さは比例しない。

この記事をシェア
この連載のすべての記事を見る

★がついた記事は無料会員限定

関連書籍

戸澤宗充『すべてを喜びとする。 駆け込み寺庵主の「引き寄せ」問答』
→試し読み・電子書籍はこちら
→書籍の購入はこちら(Amazon)