パリ在住20年に及ぶ著者・野口雅子さんが出会った55人のフランス人マダムたち。彼女たちに教わった人生の知恵を集めたのが『フランス女性は80歳でも恋をする』です。自分を卑下しない、毅然と「ノン」と言う、幸せは隠す、結婚していなくても幸せ、不倫は贅沢と心得る…など、私らしさにこだわる生き方の秘訣が満載です。そんな本書から、エピソードをいくつかご紹介していきます。

90歳のマダム・コンシニーの朝はランジェリー選びから

 以前、私が住んでいたアパルトマンの隣人だった90歳のマダム・コンシニーは、決して「おばあちゃん」ではなく、まぎれもなく「女」でした。

 私は毎朝、近所のパン屋さんまでパンを買いに行くのが日課でした。焼きたてのパンに季節の果物、カフェ・オレがあれば、幸せな朝食です。

 ある朝、いつものようにパンを買って自分の部屋に入ろうとしていると、隣室のドアが開き、

「ああ、その焼きたてのクロワッサンの匂い、たまらないわ! 私にも今度買ってきてくださらない?」

 と声をかけてきた女性。

 それが、マダム・コンシニーです。

 朝の8時前だというのに、きちんとセットされたグレイの髪。80代くらいかしら、ちょっと日本ではお目にかかれないタイプの女性だなと思いました。

 以来、週に何度か、バゲットやクロワッサンなど、彼女の分も買って届けにいくようになったのです。

 

 マダム・コンシニーは、いつも手入れの行き届いたお洒落をしていました。聞けば、毎朝、きれいなランジェリーを選ぶことから始めて身支度を整え、鏡の前で口紅をつけて完成、とのこと。その儀式を午前8時には終えているのです。

 どこにも出かける予定がなくても、誰かと会う予定がなくても、変えることなく。

 働いているわけではないのですし、彼女は終日、家にいることが多かったはずです。

 それなのに、毎日、お洒落を忘れない、その心意気こそが「女を捨てていない」証拠です。90歳でランジェリーから始める!? まさか、と最初は思いましたが、真冬にピンクのペディキュアをしているのを見ると納得です。

 

「今夜はディナーに招かれているのよ。ムッシューが迎えに来るわ」

 ある日のこと、彼女は目を輝かせて言いました。黒のレースのミモレ丈のドレスに宝石が映えて、その姿はエレガントな貴婦人そのもの。

 親類の若い男性にエスコートされながら、杖をつき、ゆっくり階段を下りて車に乗って出かけていく姿には威厳がありました。

 

「いつもきれいにしていていいですね。その秘密は何でしょうか」と訊いたことがあります。すると「あら、当然でしょう。だって、人生、いつ何があるかわからないでしょう?」と。続けて「いつ新しいアマン(恋人)に出会うか、わからないじゃないの」といたずらっぽく笑って、さらに私を驚かせるのでした。

 フランス風のジョークかもしれませんが、いくつであっても女を捨てない、そのパワーには圧倒されます。

 90歳まで私が生きていたら、そんな生き方ができるだろうかと自問すると、きっと、遺品分けやお墓など人生の最期を迎える準備をしているような気がしました。何てロマンがない考え方なのだろう、と我ながら苦笑しました。それではいけません。

 いくつであっても、生きている間は、活き活きと生きていたいものです。

 

 女を捨てないためには、お洒落心を忘れないことです。

 毎朝、鏡の前で口紅をひく、というひと手間を惜しまないで。

 そして、もうひとつは気持ちの持ちようだと感じます。

「いつ、どんないいことがあるかわからない」

 マダム・コンシニーのように、未来に期待する気持ちがあると、老け込んではいられませんよね。

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