毎日を1%ずつ新しく生きる! 刺激と感動のマガジン&ストア

★がついた記事は無料会員限定

2017.02.17

なんだか面白いので、まだ続けるよエッセイ39

世界遺産の縄文杉を見に行こう!
ロック精神で歩いた、その旅は――!?

歌う旅人・香川 裕光

世界遺産の縄文杉を見に行こう!<br />ロック精神で歩いた、その旅は――!?

屋久島は、世界遺産です。そこにある「縄文杉」は樹齢7200年といわれているスーパーな自然遺産! 誰だって、ぜひ一度は見たい。
日本が誇る絶景をこの目で見るために、これくらいへっちゃらだぜ!と、ロック精神旺盛に歩き始めた香川さんですが……。このヘタレぶり、笑い飛ばすか、共感するか……!?

*   *  *

エッセイ
屋久島のグミ

 新しいアルバムのレコーディング中につき、先週は多忙で、エッセイを休載してしまった。なんといっても朝から晩まで、窓もないスタジオに篭っていたのだ。
 時間の感覚もよくわからなくなるし、同じ体勢でずっといるもんだから、身体もガタガタ。ヘッドフォンで音楽を聴きすぎて耳もキンキン。お腹はペコペコ。
 そんな毎日を丸1週間過ごした。
 しかしコン詰めさせて頂いたお陰で、出来栄えは上々だ。是非とも楽しみにしていただきたい。

 毎日室内で過ごすと、非常に太陽が恋しくなる。
 というより、身体を動かしたい。
 緑の草原で風を浴びながら息を切らして走り回りたい。
 そうだ、モンゴルの草原だ。大草原の中、全力で意味もなく地平に向かって走りたい。許されるのなら「わーー!!!!」とか大声をあげながら走りたい。
 きっと疲れて1分ともたないだろう。それでも、張り裂けそうな心臓を我慢しながら走りたい。しかし、すぐにトボトボと歩きだして、そして意味もなく走ったことを後悔するだろう。それでも風を感じながら、大地を蹴って跳ねていたい。……そんな衝動にかられる。
 三十路を越えたあたりから、油断するとすぐに太る体質になってしまった。毎日スタジオに篭って、運動しないくせに腹は空く。それで普段通り食べるもんだから、今週だけでやや太っった気がする。いかんいかん。人前に立つ身としてはわきまえなければ。
 ということで、今週はしっかり運動しようと思う。運動といっても、走ったり散歩したりする程度だけれど。

 矛盾しているようだが、はっきりいって僕は運動が好きではない。基本運動音痴だし、どんくさい。歩くのもそんなに好きではない。ただ健康やスタイル維持のために嫌々歩いている。そんな感じだ。
 そんな僕だが、これまでの人生の中で、丸一日中歩いていた経験が1度だけある。それは「屋久島で縄文杉を観に行った」ときだ。そういえばそんなこともあったと、忙しい仕事の隙間で、ほんの少しばかり空想に浸ってみる-------。

      ◆ ◆ ◆
「おーい! あんた! いつまで寝とるんね!!!!」
 女将さんに起こされて飛び起きた22歳の僕は、寝ボケていて、何が起きてるのか理解するのにやや時間がかかった。二段ベッドの下段で、服も着替えずにそのまま寝てしまっていたようだ。女将さんはピシャリ! とドアを閉めて、ドアの向こうで「昨夜注意したのに遅くまで遊ぶからやわ! 自業自得!」とプンプンしている。
 一泊3000円2食付きの民宿「じょうもん」の名物女将は、関西出身の肝っ玉母ちゃんという感じだ。少々口は悪いが、とても人情味があって優しく、宿泊客はみな『お母さん』と呼んでいた。
 時刻はAM4:20。つい2時間前には、みんなでウミガメの産卵を海岸に見に行って、宿に戻ってお酒飲んで……。
 そういえば今日は、4時にガイドさんが迎えにきて、早朝から縄文杉ツアーに参加する予定にしていた日だった……。
「やばーー!!」
 と飛び起きて支度をするも、
「もう遅いわよ! ガイドさんいってしもうたで!!」
 と女将さん。どうやら僕は置いてきぼりをくらったみたいだ。あちゃー。やってしまった……。
 縄文杉を観るには、丸一日中、登山というか山の中を歩かなければならないらしい。素人が一人で行くと、山の中で遭難する危険もあり、初心者はガイドを雇って登山するのが基本なんだとか。
 ひとり旅で来ていた僕は、女将さんから
「さすがに一人は危ないからオススメせぇへんわ!」
 と止められていた。行きたかったなぁー。縄文杉。残念だなぁー。と寝ボケ頭のままガイドブックをパラパラ眺めていると、「ほら! 朝食作ったから食べにおいで!」と食堂へ呼び出された。
 味噌汁をすすっていると、何やら女将さんが、近くの二人組と話しをつけており
「ほら! 香川くん! この二人はこれかれ縄文杉いくらしいから、一緒に連れてってもらい!!」
 と大学生の二人組を紹介してくれた。
「いいですよー。一緒にいきましょうよ!」
 明るい感じで誘ってくれた二人組は、福岡からきた山岳部の大学生らしい。身体もガッチリしてて、二人ともたくましかった。願ったり叶ったりなので、喜んで同行させてもらうことに。こうして、僕の初の屋久島縄文杉ツアーは、見知らぬ山岳部の大学生2人とともに幕を開けた。

 まずはレンタカーを借り、縄文杉のある山の登山口にたどり着いたが、休日ということもあってか、車がいっぱいで駐車できない。結局、登山口とは少し離れた道端に車を停めた。
 登山口では、入山届けを書いて、ポストに入れなければならないらしい。日没後に下山届けが同じ枚数ちゃんとないと、救助隊が要請されたりするんだとか。なるほど。
 しかし、こちとらミュージシャンである。人生に保険などかけていては前には進めない。ここで遭難してしまうならばそれも天命。それまでということだ。救助隊の手を借りるなんてロックじゃない。しかし、念のためキチンと丁寧に名前を書いて入山届けを投函して、ついでに手を合わせておいた。ちゃんと生きて帰れますように。
 さて、ここから先が、縄文杉へと繋がる登山道となる。最初は、「トロッコ道」と呼ばれる線路の上をひたすらに歩く。もともとトロッコを走らせていたんだとか。その枕木をたどって、一歩一歩。
 途中で橋があったり、大木があったりと、まさに夢に描いた冒険旅で、映画「スタンドバイミー」のようですごくワクワクした。話にも花が咲いて、3人であれやこれやと話ながらどこまでも進んでいく。トロッコ道は果てし無く続く。
 1時間くらい歩いただろうか。そろそろトロッコ道にも飽きてきた。というより、このなんともいえない枕木の間隔が、自分の歩幅と合わなくて歩きづらい。とはいえ、まぁそろそろ終わるだろう。あと少しの辛抱だろう。
 2時間が過ぎた。もうほんと嫌になってきた。まだ続くの? 暑いし、足痛いし、そろそろトロッコ道、終わってほしい。いや終わるはずだ。あの曲がり角過ぎたら、もうただの山道が続いているに違いない……。
 ……3時間後。
 3人とも無言でトロッコ道をトボトボ歩いた。マジかこれ。一生続くんじゃないかとさえ思えるトロッコ道。曲がり角を過ぎるたびに、また果てし無く、先のほうまで続いている。もしかして、僕たち迷ったりしてないだろうか。一人だったら相当不安になるなと思いながらも、ひたすら歩く。
 もう限界だーー!! ってとこを超えて、さらにしばらく歩いていたら、突如トロッコ道の終わりが来た。
「やったーー! 終わった!!」
 3人は歓喜して、一休みすることに。身も心も疲れた身体でチョコレートをかじると、今までに味わったことないくらいに甘くて美味しい。元気がみなぎってくる感じがした。
一番衝撃的な美味しさだったのは『ピュレグミ』というお菓子で、適度な酸味のあとに甘みが口の中に広がるのだ。最高に美味しい爆弾をかじってるような感覚だった。

「さぁラストスパート! いこうぜ!!」
 とテンションを上げたが、大変なのは実はここからだった。先ほどまでの平坦なトロッコ道が天国に思えるくらい、起伏の激しい山道が3人を襲う。
 ヒーヒー言いながら歩くこと更に3時間。フラフラの状態で、一向はお目当ての「縄文杉」へと辿り着いた。実に出発から6時間半歩いたことになる。さすがにクタクタである。
縄文杉付近は、ディズニーランドのアトラクションのように記念撮影の順番待ちが並んでおり、それぞれが疲れた顔を必死に笑顔に変えて記念撮影をしている。我々も同じように並んで写真を撮らせてもらった。そして、まるでトコロテンのごとく、さっさと縄文杉付近から押し出されてしまった。6時間かけてようやくここまでやってきて、縄文杉様のそばに寄れたのは5分程度だった。
 何千年も昔からここに立っている大きな杉の木は、まわりに霧がかかって、神々しかった。
 写真を撮り、杉が見える場所に座って、お弁当を食べる。幸せだ。疲れた身体が癒える気がする。
 しかし、頭の片隅で悪夢のようにちらつくことが1つある。きっと残りの二人も同じことを考えているに違いない。我々はこれから、"来た道とまったく同じ道を歩いて帰らねばならない"のだ。
 恐ろしい。6時間以上かかったのに、この疲弊しきった状態でまた同じだけ歩けというのだから恐ろしい。
 つべこべ言っても仕方ないし、面倒にならないうちにさっさと下山することにした。
往復11時間ほどかかるのだ。そりゃ、朝方からみんな登りはじめるわけだ。はっきりいって来るんじゃなかった……。

 正直しんど過ぎて、ここからの帰り道の記憶があんまりない。とにかく足は痛いし、大変だった気がする。かといってリタイヤしても飛んで帰れるわけじゃないし、救助隊を呼ぶわけにもいかない。
 再び我々の前に、トロッコ道が現れた。今度こそ永遠に終わらないのではないか。ってくらい続いた。
 ギブアップボタンこそなかったが、そんなものがあるなら連打していた自信がある。
そうして3人は、ひたすら無言で息を切らしながら、6時間かけて下山したのである。
登山口まで戻って、下山届けをポストに投函。
 ようやく地獄の縄文杉ツアーは幕を下ろした。
 ……かに思えたが、そういえば、早朝混んでいたので、ここからしばらく歩いた所に車停めたんだった……。ひぃぃ……!!!

 自分たちのレンタカーを発見するや否や、我々は縄文杉を発見したときよりも高らかに歓喜の叫び声をあげ、屋久島の青い空高く、拳を掲げた。

「やったーーーー!!!!! ったぞぉぉおおおおおーーーー!!!!!!」

 今となれば一生の思い出である。
 少々の困難も「あの果てしないトロッコ道」に比べれば、乗り越えられる気がする。

 ちなみに、いまだに「ピュレグミ」は僕の大好物だ。

*   *   *

 無事に帰ってきて何よりです。ある意味、しっかり「スタンドバイミー」してきたとも言えるのかな!?

★がついた記事は無料会員限定

記事へのコメント コメントする

コメントを書く

コメントの書き込みは、会員登録とログインをされてからご利用ください

この記事を読んだ人にはこんな記事もおすすめです
  • ひたむきにあがき続ける女性を描いた、胸が締め付けられる短編集
  • 心に「ない」を抱える人々を痛いほど繊細に描いた代表作
  • 愛する父母との最後を過ごした“すばらしい日々”
  • 日本人よ、挑戦に身を投げろ!
  • 今まで明かしてこなかった「若さを保つ」ための整体の知恵を惜しげなく公開!
  •  終電族のみなさん、おつかれさまです!
  • 俺はまだ、神に愛されているだろうか?
  • 二人は運命を共にし、男を一人殺すことにした
  • 激動の戦後政治を牽引した田中角栄の、生き様
  • 全五巻構想、大河小説第一弾!!
心に「ない」を抱える人々を痛いほど繊細に描いた代表作。
ピクシブ文芸、はじまりました!
エキサイトeブックス
今だけ!プレゼント情報
かけこみ人生相談 お悩み募集中!